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第八十三話 覆された計画

 

「ぐぬぬぬ……!」

 年老いたデモンの歯は割れてしまうんじゃないかと思うほど強く噛み締めていた。



 ハルの魔法がどれほどの距離まで届くのかデモンにはわからない。ここに集まっている禁忌魔兵は三分の二。その禁忌魔兵が徐々に解放されていっている。

 このままではマクラム兵が到着するまでに、アルステム軍は再編成をしてしまい、マクラム兵が勝てるという確証がなくなってしまう。


 マクラム兵が到着するまで禁忌魔兵を暴れさせ、外から来るマクラムに戦力を向けれないようにする。

 アルステム側は外と内から攻撃されればひとたまりもない。


 いや、先ほどまではマクラム兵が来るまでもなく制圧できていた。



 オリバー騎士団長は王族の護衛のため絶対に側にいる。いずれかの王族である命と引き換えにすればオリバーなら、自分を犠牲にして禁忌魔兵になるだろうと踏んでいた。


 ラグドールの一人娘も都合よく身近にいて、この獣娘を人質にラグドールも禁忌魔兵へと落ちるだろう。


 三剣である三人のうちの二人を禁忌魔兵にできれば、今後どの最前線でも役に立つであろう。


 全ては思い通りに進んでいた。



 ――――――ハルを除いては。


 デモンはハルを甘く見ていた。


 オリバー騎士団長がおかしな子供を連れてきたと聞いた時はまったく興味はなかった。

 戦いの才能に恵まれた子供なのだろうと、その程度に思っていた。


 しかし、その後入ってくる情報ではヨハンに迫るほどの実力を身につけたという。

 ヨハンは王都アルステムでは一番の剣の実力者である。

 そのヨハンと、まだ十五になったかどうかという少年が同等などと……しかし、実際デモン自身の目でみると納得したのである。

 剣の技術ではヨハンの方が上だろう。しかし、それを補うあまりある身体能力。あれは子供ではありえない。


 薬の投与や魔法で身体強化をしている? ――――ちがう。あれが少年の基礎能力だ。


 なんとか少年と関係をもち、少年の情報が欲しい。禁忌魔兵の研究もほぼ終わっていた。

 勿論これからも研究は続けて、より都合の良い禁忌魔兵を作るつもりだ。そして平行して少年の研究もしたい。


 カレン第一王女の成人祭。この日、王都アルステムは禁忌魔兵で埋め尽くされるだろう。


 カレン王女を一目観ようと集まる民間人や、招待された貴族や関係者。そして混乱のないように配置された兵士や騎士団。


 これらを禁忌魔兵に変えた。

 絶望と恐怖の声が響き渡る。


 オリバーと国王と王女をバルコニーに追い詰めてある。あとは王女の命と引き換えにオリバーに禁忌魔兵になるように提示するつもりだった。


 だが、その前に例の少年を見つけた。

 少年はラグドールの娘と常に行動を共にしていてまるで恋人のようだ。人質にするには丁度良い。

 あの少年は禁忌魔兵にしたい。駒としても研究素材としても。




 ――――――おかしい、なんなんだこの少年は?


 一度禁忌魔兵になった身体だから抗体でもあるのか?

 禁忌魔兵にするために必要な薬品を飲ませた。なのになぜ禁忌魔兵にならないのじゃ?


 そればかりか向かってきた少年に対し、魔力障壁を張ったが素手で壊されてしまった。

 どれほどの力があればそんなことができるのか…………。



 ドレイクというワシに忠実な駒が倒されてしまった。

 少年は獣娘を抱えて逃げていってしまった。


 気になることは多いがひとまず頭を切り替えて国王とオリバーじゃ。

 そしてこの国の制圧だ。


 そのオリバー達はバルコニー下の植木で衝撃を和らげ、バルコニーから飛び降りた。無茶をしおるわ。


 まあ、結果として変わることはないがの。


 ラグドールも少年も来た。どうやら獣娘はどこかに置いてきたようじゃな。

 心当たりのある所を禁忌魔兵に探させると小さなお店で発見した。禁忌魔兵に一斉に襲わせ少々痛めつけて抵抗する力を剥いでやったわい。

 これでラグドールも少年も思いのままじゃな。



 そして舞台は整った。


 オリバーは王族の命と引き換えに禁忌魔兵に。

 王族三人を王都から逃がしたところでなにもできないことはわかっておる。

 獣娘を人質にラグドールを禁忌魔兵にできる。


 思った以上の収穫じゃ。


 少年はもったいないが今は邪魔だ。殺して解剖といこう。


 抵抗する少年は本当にめんどくさい。それにあの少年の目はとても不愉快だ。

 自分にどれほどの自信があれば、あれほどまでにまっすぐな目になるのだろう。きっと何か秘密があるのだろうが……。


 そんな少年と仲の良い獣娘を痛めつけてやったわい。奴の顔を歪ませてやったわ。

 精神不安定になると実力を出せないタイプか。まだ少年だからしかたあるまい。


 その少年がフラフラしながら獣娘に抱きついた。

 なんとも哀れな。


 そろそろフィナーレといこうと思っていた所。少年が膨大な魔力を練り始めた。死に損ないが何をするのか見せてもらおうかの。


 一応魔力障壁はいつでも張れるように気はぬかない。


 少年から解き放たれた魔力。これは――――霧?


 この霧に乗じて逃げるきか?


 それにしてはお粗末な霧だ。薄いため少年達を目視できる。



 その時、下にいる禁忌魔兵から普通の人の声が聞こえた。禁忌魔兵の中に禁忌魔兵ではない民間人が紛れているわけもなく、訳がわからないと混乱しつつ視線を向けると、禁忌魔兵が次々と元に戻っていくではないか! ばかな! そんなことがあるはずがない!


 ワシの禁忌魔兵が! このままでは王都アルステムを手中に収めることが叶わなくなるではないか!


「あいつの魔法か!?」

 少年に禁忌魔兵の計画を潰されてしまう前に少年を始末したい。


 しかし、肝心のところでヨハンに邪魔をされてしまった。面倒な奴が来おったわ……!


 ヨハンに邪魔のされないような発動までの速い魔法ではオリバー騎士団長やラグドールに防がれてしまう。


 かといって大魔法を使うには多少でも魔力を練る必要がある。その間にヨハンに邪魔をされてしまっては少年に大魔法を放つことができない。


 この場は逃げるしかないのか!? ワシの人生をかけた計画を台無しにしおって……!




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