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第八十二話 解放

 

 ソマリを抱き締めたまま大量の魔力を練り始める。ハルの身体から水色の魔力がゆらゆらと溢れだした。


「ハル君……その身体でその魔力量は……」


「ハル様の魔力、綺麗……」



「なんというとてつもない魔力じゃ……しかし、その身体でそれだけの魔力を使えば、どれほども生きていられまい。まぁ、どうあれすぐ死ぬのは変わりないがのう」


 禁忌魔兵を使って総攻撃させればいつでも殺せるという自信から、デモンはハルが何をするのかと見物している。


 この余裕の表情を一変させる出来事が起こるとは、この時は微塵も思っていなかった。



 ハルの足元には水色の魔力が渦巻き出し、そして体からもの凄い勢いでキラキラと光る白い霧が、空へ、城下町へ、王城へ、四方八方へと飛んでいく。


 オリバー騎士団長はハルから飛んでくる霧に、腕で顔を覆いながらも飛んでいく先を見つめていた。


「な、なんだ!? これは……霧? ハル君、君は一体なにを……」


 勿論デモンも例外ではない。しかし、デモンの場合、腕で覆い隠すのではなく、ハルの魔法がどんなものなのか判断できなかったため、万一に備えて障壁を張っていた。


 デモンはしばらくハルを見続けていた。

 ハル達がこの霧に紛れて逃げるつもりかも、など思っていたがそれほど濃い霧ではないため姿を隠しきれていない。


 また、四方八方に禁忌魔兵がいるため逃げ道などないのだ。ハル達が固まっている所は、城下町と城門をつなぐ橋の上だ。


 仮に水の中に飛び込んだとしても禁忌魔兵に飛び込ませれば良いだけの事、どちらにしても逃げ道などない。


 しばらくハルを警戒し続けたが、動く様子も攻撃してくる様子もないため、どんな抵抗をしてくるのか楽しみにしていたデモンにとっては大変拍子抜けであった。



 禁忌魔兵達に異変が起きた。


 赤く魔物のような目をしていた禁忌魔兵が、次第に人間らしい目に戻っていき、それにともない自我を取り戻し始めていった。


「なんだ? ここは……? 俺は何をしていたんだ?」


 禁忌魔兵だった男が口を開いたことにデモンが目を見開きその男に顔を向けた。


「なに!? どうしたというんじゃ!?」


 次第に自我が戻る禁忌魔兵達。

 禁忌魔兵の異変にラグドールも気づいた。


「オイ……禁忌魔兵がおかしいぞ?」

「何? た、たしかに! 人間に戻っているじゃないか!」

「どういうことかしら? もしかしてハルの魔法?」


 当然デモンも、ハルの魔法が禁忌魔兵を解放していると気づいていた。

 血走る目をハルに向ける。


「あの少年か! 一体何をしたあああ!」


 禁忌魔兵を元に戻す方法など存在しないとおもっていた。


 長い年月をかけての実験である。禁忌魔兵の改良とともに、解除の方法も模索していた。

 結果、禁忌魔兵をより強く、より便利に改良はできたが、解除する薬や魔法などは存在しなかった。


 それが、禁忌魔兵と初めて対峙した少年がいとも簡単に、しかも一人ずつではなく多数を同時に禁忌魔兵から解放してしまうという、まさに奇跡のような事を成してしまっていた。


 デモンは焦りをみせ、すかさずハルに向けて大量のフリーズアローを飛ばす。


 ――――が、オリバー騎士団長とラグドールの剣によって妨害された。


「ハルを守れ!」


 ハルの前で立ちはだかるオリバー騎士団長とラグドールがいてはハルまで攻撃が届かない。

 オリバー騎士団長やラグドールを生かしておき禁忌魔兵にするなどと言っている場合ではなくなった。


「やむえん……」

 うっすらと白い魔力を(まと)うデモン、ほんの四秒程で大型魔法を完成させてしまうのは天才としかいいようがない。



「しまった! 大型魔法が来るぞ!」


 杖をハルに向け魔法を放つ――――直前のできごとだ。最高のタイミングでデモンの邪魔をする人物がいた。


 デモンの背中に向かって飛ばされた小振りな刀。

「―――――っ!?」


 デモンは咄嗟に魔法障壁を張り、脇差しを弾いた。


 脇差しが飛んで来た方をみるとそこには、黒い着物が特徴的な赤色髪をゆらすヨハンが口端を吊り上げてデモンを見上げていた。


「俺の門下生には手を出させねぇ!」


「ヨハンンンン!」


「おめえがハルの邪魔をするってんなら、俺がおめえを邪魔してやるからよぉ」

 側にいる門下生から脇差しを受け取り、デモンに向けた。



 デモンが魔法を放つ前であったため、ハルはそのまま魔法を使い続けることができた。

 そんなハルにはもう余裕がなく、意識を失いそうになりながらも魔法を使い続けている。


「まだだ……まだ禁忌魔兵になってしまった人が沢山いる……」


 限界を越えそれでも魔法を使い続けるハルの体はいつ壊れてもおかしくなかった。


読んでくださった方に感謝を!

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