第八十一話 伝えたいこと
皆、唖然としている。
僕の口からは普段出ないような汚い言葉だったからだ。
中指を立てる行為はこの世界には通じないかもしれないが、なんとなく言葉から伝わったのだった。
ただ倒れる前と違うのは溢れんばかりの、どす黒い憎しみを込めての行為ではないということだ。
今の気持ちは皆を守る事、それだけだ。
そして絶対デモンの思い通りにさせない! 見返してやる! という意思の現れだ。
デモンは片目を細め歯を噛み締める。
死に損ないの僕の言葉が癇に障ったのだ。
「ならば死ね」
デモンが杖をこちらに向けたので、魔法の定番とも言えるフリーズアローが来ると身構えたが、身体が別の危険察知をした。
すぐにソマリを抱いて「危ない!」と叫びながらその場を飛び退いた。
直後、足元につむじ風が起き、オリバー騎士団長やラグドールも慌てて飛び退いた。
「っ!? 散れ!」
小さなつむじ風は凄まじい竜巻へと変わり、暴力的な音をたてながら上へと昇っていった。
オリバー騎士団長とラグドールも飛び退いたが反応が遅れ、風圧により多少飛ばされたが巻き込まれていないため大したことはなかったようだ。
大蜘蛛討伐の時にみた時より小規模なところを見ると、殺す気ではなかったようだ。
それもそうか、オリバー騎士団長とラグドールが側にいたのに、致死レベルの魔法を放つわけがない。
デモンはオリバー騎士団長とラグドールを禁忌魔兵としたいのだから。
「ちっ、勘の鋭い奴じゃっ!」
なぜか僕を見つめるソマリの目は乙女の目をしていた。
「やっと抱っこしてくれましたね」
ん? ああ……なるほど。
モモとシルビアをお姫様抱っこしていて、ソマリだけしていなかったため拗ねていたっけ……。
だからといって日常でお姫様抱っこをする機会などないため、いままでお姫様抱っこをしなかった。
僕はソマリさんを地面に下ろすと口から溢れてくる血を吐き出した。咄嗟に激しく動いため血が逆流してきたようだ。
「ハル様!」
心配して背中に手を添えてくれるソマリ。
どうやら本格的に時間がないようだ。吐き気と痛みで意識がもうろうとしているが、ここで倒れるわけにはいかない。
「オリバー騎士団長、ラグドールさん。少しの間僕を守ってください」
「なにか策があるのか?」
「やってみないとわかりませんが……」
オリバー騎士団長とラグドールは、デモンから僕らを守るように立ち塞がった。
「私達ではもう、この状況をどうにもできない。ハル君が何をするのか知らないが、可能性があると言うならやってみてくれ」
そう言って振り返ったオリバー騎士団長は白い歯を見せ、ニカッと素敵な笑顔を見せてくれる。
「オレは別に小僧を守るわけじゃねえ。ソマリを守るついでだからな」
ついででも守ってくれるならどちらでもいい。
オリバー騎士団長がジャックや騎士団員に、国王と王女二人を守るように指示を出す。
これで準備整った、オリバー騎士団長とラグドールはかなり手負いだが、この二人が守ると言ってくれているのだ大丈夫。
ソマリはというと戦えるような身体ではない。それなのに武器も持たず僕を守ろうとしていた。
そんな凛々しいソマリに僕は胸を打たれた。
そうだ、これだけは伝えたかったんだ。
僕は神様の所で強く思っていた事を口にした。
僕はソマリの怪我をしていない方の腕を掴み、身体を引き寄せた。
そして僕はソマリの腰に手を後ろに回し、軽く抱き締めた。
身長的にソマリの方が高く、正面だとソマリの胸に顔が当たるため肩辺りに顔を当てている。
ソマリは突然の出来事に固まってしまった。次第にソマリの顔が真っ赤になっていった。
ソマリのうわずった声が驚きを表していた。
「ハ、ハル様?」
「ソマリさん、大好きです」
僕の言葉に身体をピクっと震わせ反応したソマリだが、何も言葉を発しなかった。
ただ、小さく震えだしたソマリが泣いているということはわかった。
嬉しいから? ごめんなさい? それとも僕の最後の言葉みたいだから?
涙の理由はわからないままだが、これで悔いはない。伝えたかった事を伝えれた。
もちろん見ていたであろうラグドールだが、何も言わずに黙ったままである。野暮なことをするつもりはなかった。「人に守らせておいて何やってんだ」とか言われ、怒られるかもと思っていたが……。
オリバー騎士団長はというとニヤニヤしているであろうことは明白だ。確認しなくてもわかる。
デモンは鼻で笑い「最後に女を欲するか」とバカにしている。
なんとでも言えばいい。
後は僕の体力さえもってくれれば……いや、もたせる。絶対皆を守るんだ!
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