第七十九話 神様
……。
…………。
ゆっくりと目を開けた僕の視界を白が支配する。
目がおかしくなってしまったのかとゴシゴシ擦るがそうではなかった。
床は白く空は白っぽいが僅かに水色がかっているくらいだ。建造物や植物などもなく、ただただ遠くまで続く白い景色。
そうだ、ここには来たことがある。
そう…………死んだときだ。
ようやく頭も動きだし、どうして自分がここにいるのか整理した。
「デモンに殺されたのか……」
僕はまたなにも守れないまま死んでしまったのだ。
神様にはとんでもなく凄い力を分けてもらったのに……。せめて死ぬにしてもデモンを道ずれにしてやりたかった。
「…………僕はまた守れなかった」
あのあとみんなはどうなってしまったのだろう。
気になって神様に聞こうとしたが恐くて聞けなかった。
デモンの事だ、ソマリをおもちゃのように扱うのだろう。僕はまた怒りが込み上げてきた。死んでもなお、これ程の怒りがあるのかと驚く。
それほどまでにデモンのしたことが許せなかった。
ソマリが禁忌魔兵に捕まる前に、僕がデモンを倒せていたらソマリだけでも助かったかもしれない。
ソマリを助けたかった。
まっすぐに気持ちを伝えてくるソマリ、いつも元気をくれるあの笑顔を守りたかった。
…………。
…………そうか……僕はソマリが好きだったのか。
いつの間にかソマリに毒されていたわけだ。
「ソマリさん……」
僕は仰向けになり手を伸ばした。
手は傷ついていない。悠ではなくハルの手だ。女みたいに細く自分の手じゃないみたいだ。
身体の怪我はない、痛みもない、だけど心が痛い。
もう一度やり直せるなら、もっとソマリを大事にしたい。
お姫様抱っこしてあげてない。
短剣を失くしたお詫びをしていない。
僕の方から抱き締めたことがない。
僕から好きと伝えていない。
後悔ばかりが浮かんでくる。悠で死んだ時はこんな風じゃなかったのに。
僕は眼をつむり大きなため息をはいた。
ふと、何かの気配を感じたが、眼は閉じたままだ。
神様から死の宣告をされるのだろう。力を分けてもらったのに不甲斐ない最後だったため怒られてしまうとか?
「死んでいませんよ?」
この優しく温かい声は聞き覚えがある。
僕に転生を持ちかけた神様だ。
――――――なに?
僕は勢いよく起き上がった。
「死んでない!?」
「はい」
半年ほど前と変わらず美しい神様が、目を細めて優しく答えた。
「えっ? でも、ここにいるってことは……え?」
混乱してきたぞ。どういうことだ?
「確かに死が近く迫っている事は間違いありません。しかし、まだ死んではいません。死を間近にした悠さんの意識が途絶えたことにより、悠さんの魂を引っ張ってきたのです」
「た、魂を引っ張ってきて僕死んじゃわないですか?」
「たぶん大丈夫です」
「た、たぶん?」
不安だ……。死んでいないなら戻りたい。けど、戻って何ができる? 身体は重く、思うように動けない。そればかりか大ケガをしていて今にも死にそうだ。そんな状態でデモンを倒す事はできない。
あの想像を絶する痛みをまた味わうだけだ。
それならばこのままの方が……。
「悠さんの魂に異変が起きたことにより、私が悠さんを見ていました」
「異変?」
「憎悪です」
憎悪。
デモンを殺したい。今でもそう思う。
「その憎悪が私の力を使えなくしているのです。私の力は憎悪の」
「えっ? それじゃあ、デモンがなにかしたのではなく、僕がデモンに対して殺したいほど憎んだから?」
神様は黙って頷いた。
「そんな……」
「悠さんなら力を間違った使い方をしないと思っていました。実際、悠さんは私の力と綺麗に同調していて力を引き出せていました。
しかし、まさかあれほど酷いことをする人間がいるとは……」
僕の大事なを仲間を禁忌魔兵に変えられて、ソマリを傷つけられて、町中禁忌魔兵だらけにしたデモンを憎むななんて無理だ……。
「悠さん。デモンを殺したいから力が欲しいですか? それとも皆を助けたいから力が欲しいですか?」
僕が何のために転生したのか。
神様は僕に母との約束を守るためにもう一度命を与えてくれた。前世では何も守れなかった。
「殺したいではなく、守りたいと思う気持ちが大事です。ただ……私は何もしてあげられません。悠さんが苦しんでいても手を貸すことが出来ません」
「いえ、もう十分に手を貸していただけました。こうして教えていただけなければ僕はデモンを憎む事しかできなかった。
デモンは許せないけどソマリさんや皆を助けたい。死にかけの僕にどれだけの事ができるかわからないけど精一杯やってみます」
「…………実は、悠さんが戻るのが嫌でしたら、このまま魂を抜いておくことも可能なのです」
魂を抜いたまま?
「えっと、つまり……このまま死んじゃうってことですか?」
「はい、その方が痛い思いをしなくても済みますし……身体も心も傷ついていく悠さんを観ているだけで私も辛かったくらいです。その当事者は想像できない苦しみだったことでしょう」
この神様は僕の事を親身に考えてくれているのだろう。わざわざ死ぬ寸前の身体に戻って痛い思いや、辛い現実をみなくても済むように、と神様の計らいだろう。
しかし、僕の決心は鈍ることはなかった。
「そうですか……いい顔になりましたね。悠さんの決意はわかりました……私に考えがあります。今の最悪の状況を回避できるかもしれません」
「えっ!?」
知りたい! 元々なんとかして皆を助けたいという気持ちだけで現世へ戻るのだ。
解決策などないままだった。痛くても苦しくても足掻いてやると思っていたのだが、あの状況を少しでも変えられるのなら何でもするつもりだ。
「ただし……今の悠さんの身体では耐えられないかもしれません。それに、悠さんが耐えれたとしても、私の考え通りに行くという確信もありません」
「耐えます! どんな辛いことでも耐えます! 教えて下さい!」
神様は解決策となるかもしれない方法を教えてくれた。
――――――なるほど……試したことがなかった。
たしかに可能性はある。
しかし、神様の言うとおり僕の体力ではきついかもしれない。オリバー騎士団長はもちろん、全員の協力が必要だ。
だがほんの僅かでも可能性があるのなら必ずやりとげてみせる。
「それでは現世へ送ります」
「はい! お願いします!」
「では…………送ります」
そう言って僕の手を握る神様。僕は目を閉じた。
…………。
……………………ん?
いつ戻るんだ? 僕がそっと目を開けると神様は眉間にシワを寄せ、難しい顔をしていた。
「あら……魂が戻らない……」
「えええええええええええええ!?」
「やはり無理やり魂を引っ張ってきたのがダメだったのでしょうか……」
そ、そんな。わずかな可能性が見えたのに……。
僕が唖然としていると神様はペロッと舌をだした。
「冗談です」
えっ? はあ!?
僕が困惑していると、少しやり過ぎたかもと思ったらしく、困った顔で弁解してきた。
「そ、その、こうして誰かと話すことなんてなかったもので……なんだか悠さんとの会話が楽しく思えて……人間が使う冗談というものを……やってみたのです……ごめんなさい…………」
「神様……」
「は、はい……」
「僕、多分死んじゃうので、またここに来た時に沢山お話ししましょう」
「死なないのが一番いいのですが……も、もし死なずに済んでも人間の寿命はあっという間ですから待ってますよ!」
人間の寿命があっという間……か……。一体どれだけの時間を経験すればそのような感覚になるのか……。
改めて神様は僕の手を取った。
「悠さんなら必ずやりとげれます」
神様にそのように言われるとやれる気がするから不思議だ。
僕は強い決意とともに現世へ戻っていった。
毎日更新中!(ゝω・´★)キュピーン
久しぶりの神様との対面でした。ちょっとオチャメな神様に好感度は上がりますか?それとも下がりますか?え?気にしてない?
ほぼ出番ないですからねえ……
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