第七十七話 提案
「デモンめ……禁忌魔兵を操ることができるとは……いつの間にここまでの研究結果をだしておったのか……デモンのやることを疑いもせずに好きにやらせてしまった私の責任だ……」
奥歯を噛み締め、強い後悔を表す国王に、二人の娘も自分のしてきたことへの後悔を述べ始めた。
オリバー騎士団長を見つめ、涙するクロエ姫。
「一番私の面倒をみてくれていたオリバーは、デモンの行動に注意するように言っていましたわ……それなのに禁忌魔法の事を隠して、禁忌の研究からオリバーを遠ざけていたの……オリバー……ごめんなさい」
「わたくしなんて、次期女王なのに軍事のことはオリバーとデモンにまかせっきりにしてしまい、社交会やお茶会や舞踏会、自分を磨くことばかりしていて、今となっては恥ずかしいわ……。それに禁忌の事を知った時に、お父様にやめるように言えなかったわたくしも同罪ですわ」
「今となってはどうでもいいことですよ。それよりも今この場の状況は最悪だ」
意識を戻したラグドールだがガウルにやられた怪我や禁忌魔兵にやられた傷で本調子ではない。
ドレスを着た女性二人、とても戦えるような格好ではないし、クロエ姫はともかくカレン姫は足手まといで守りながら戦うのは大変だ。
国王は腕が痙攣していてすでに限界だろう。
騎士団員も限界のようで座り込んでいる。
正面も後ろも禁忌魔兵で埋め尽くされている。
しかし、なぜわざわざここに集めたのか、少しでも人が集まれば逃げられる可能性も増えるんじゃないのではないか?
いや、とても逃げ出せるような状況ではないか……。
ただデモンが僕達の苦しむ様をみたいだけか……それともなにかするつもりなのであろうか。その答えはすぐに出た。
デモンみずからが答えた。
「ここで提案なんじゃが、オリバー、ラグドール、二人ともワシの駒にならぬか?」
「私がその提案を受け入れると思うか?」
「ハッ! 死んでもごめんだゼ!」
オリバー騎士団長もラグドールも、何を言い出すのかとわかりきったことを、と鼻で笑い飛ばした。
「まぁ……そう言うと思っておったがの、では一つ主の王への忠誠心を問おうかの」
何を言い出すのかと警戒心をあらわにするオリバー騎士団長。
「オリバーとラグドールが禁忌魔兵になるのなら、国王と王女二人はこの王都から逃がしてやろう」
「「なっ!」」
驚きの声をあげたオリバー騎士団長と国王の声がハモった。
しかしラグドールは自分を犠牲に国王を守る義理はないと考えていた。自分の村やソマリが対象なら話は別であっただろう。
「国王には感謝しているが、オレは兵隊でも騎士でもねえ。命をかける必要はねえと思っている」
マクラムとの戦争での活躍により、三剣の称号と特別恩賞として獣人の村に冒険者ギルドの設立の許可をもらったラグドールは国王に感謝はしていた。
しかし、ラグドールにとってそれはそれ、これはこれなのである。
マクラムとの戦争で、軍としてではなく義勇兵として冒険者たちをまとめあげ、見事活躍してみせた。その恩賞としてギルドの設立の許可をもらったのだから、いまその恩賞のお返しをするというのも違うだろう。
だが、このまま戦ってもどうせ死ぬのなら……というのも違う、デモンの思い通りになって駒となるのもしゃくなのであった。
戦い好きの獣人、敵に降るくらいなら戦って死んだ方がましと考えていた。
国王はラグドールの意見に反論はなかった。ラグドールは軍のモノでも、ましてや王都に住んでいるわけでもない。
それにデモンを信じ、禁忌魔兵の研究を進めた結果がこれなのだから口が裂けて『わたしのためにデモンの禁忌魔兵になってくれ』とは言えない。
もちろん禁忌魔兵の件がなくても、そんなこと言わないだろうが……。
「デモンよ。私だけではダメだろうか? 国王と王女は逃がしてくれないだろうか?」
ラグドールとは反対に、オリバー騎士団長は国王と王女を助けるために命を捨てるつもりのようだ。
「何を言っておるオリバー! そんなことをされてまで生き延びたいとは思ってはおらぬ!」
「ふむ……だが、可愛い娘達は違うみたいじゃぞ?」
デモンの細く鋭い目が王女二人をとらえると、二人はピクンと体が揺れた。
まだ若く、辛い境遇もなく、死ぬ恐れもなく育ってきた二人の王女にはこの現状はあまりにも辛いものであった。
デモンの一声でいつでもこの場の全員を殺すことができる。まさに喉元に刃物を当てられているような気分である。
まだ死にたくない、生きていたい、そう思うのは自然なことだろう。
「国王。どうせこのままでは全員死んでしまうのです。私が禁忌魔兵になることで、三人の命が助かるのならば本望というものです」
「ぐ……しかし……だか……」
国王はなにかと葛藤しているようだが、愛娘達をこの若さで死なせたくないと思う気持ちから強く反論できないでいた。
「ラグドール、お主も禁忌魔兵にやるのじゃぞ?」
「はっ。オレは軍には関係ねえ。オレはてめえをぶっ殺しに来たんだ。オレの可愛い娘の耳を切り落としたらしいじゃねーか。そのツケを払わせるためにきたんだ。禁忌魔兵になりに来たんじゃネェ」
「そうか、ならばお前から禁忌魔兵にならせてくれと言わせるとするかの」
「ハッ、誰がそんなこと言うもん……か……っ!?」
クロエ姫が連れてこられたときのように禁忌魔兵が左右に別れると奥から人影が見え始めた。
瞬時にその人影を認識できたラグドールは、髪の毛がぶわっとさかのぼり今にも走り出しそうだ。
僕も同じ気持ちだった……。
瞬時に判別出来たのは明るく綺麗なオレンジ色の髪がチラッと見えたからだ。
城から離れ、戸締まりをしたお店の中なら安全と思っていたが、考えが甘かったようだ。
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