第七十六話 城下町へ
「おっと、いかんいかん、このままではガウルが本当に使い物にならなくなるのう」
デモンはボロボロになっていくガウルを下げることにした。
ハルはガウルの攻撃を弾こうと刀を振り上げようとしたところで、ガウルの拳がピタリと止まり、それに合わせてハルも刀を止めた。
「ん? ガウルの動きがとまっ……た?」
ガウルがぎこちない動きで禁忌魔兵の中へ消えていった。
ガウルを殺すことにならなくてホッとするハルだが、状況はよくなかった。
「ハル、よくやった! こっちを手伝ってくれ!」
オリバー騎士団長もそろそろ限界に近いようだ。明らかに腕の振りが遅くなっている。
国王も一般兵士が持つようなありふれた剣を振っていた。禁忌魔兵から奪ったのであろう。
僕はオリバー騎士団長達を囲んでいる禁忌魔兵達にに向けて刀を横に凪ぎ払い、数人まとめて飛んでいった。
さらにもう一振り。
次々と飛んでいく禁忌魔兵をみて国王とカレン姫はあんぐりと口を開けていた。
「相変わらずハル君は無茶苦茶だな」
そう言って僕にウインクをするオリバー騎士団長。
僕達は少しずつだが、禁忌魔兵を倒しながら正門へ近づいていった。
「どうやら僕達はデモンに遊ばれているようですね」
「ああ……そのようだな」
僕の問に苦々しい顔で答えたオリバー騎士団長。どうやら同じ事を思っていたようだ。
「どういうことだ?」
国王は襲いかかってくる禁忌魔兵を蹴り飛ばしオリバー騎士団長に訪ねる。
「なぶり殺しにされているようだ。すぐに殺す気なら一斉に襲わせればいい。痛みや死を恐れない禁忌魔兵ならなおさらだ。もみくちゃになるくらい襲わせればいい。
だが、禁忌魔兵は丁寧に少数ずつ襲ってきている。まるで俺たちが苦しみ傷ついていくのをデモンは楽しんでいるようではないか?」
そう……僕達が正門を抜けて禁忌魔兵の群れから抜け出せるとは思えない。
「だとしたら、どういうことですの?」
カレン王女が震える声を絞り出した。手には拾った剣を持っているが戦うこともできずにただのお飾りの剣になっている。
カレン姫ではなくクロエ姫なら戦力として数になっていただろうが、武芸には手をつけていないカレン姫には剣を振るうことなど出来なかった。
オリバー騎士団長は答えなかった。今答えてしまっては絶望を植え付けてしまい、生きる希望を捨てて進むことを止めてしまうかもしれないからだ。
地獄絵図と化している城内から抜け出すことで頭がいっぱいになっている国王やカレン姫だが、オリバー騎士団長やハルは気がついていた。
逃げ場など、どこにもないことに……。
バルコニーや東門前への道は禁忌魔兵で埋め尽くされていて、とても突き抜けれるとは思えない。だが城外への最短ルートである南門は禁忌魔兵が少なく見える、意図的にデモンが誘導しているとしか思えなかった。
遂に正門にたどり着き、正門にいる最後のひとかたまりの禁忌魔兵を倒し、城門をくぐり抜けた。
城下町へ逃げ込み、ギルドや城下町にある駐屯所にひとまず逃げようと考えていた国王だった。
南門から城下町まで大きな橋がある。城壁のの周りには壕があるからだ。
その橋幅は広く、馬車の三台ほどある。
これは城から出る馬車と城へ入る馬車が余裕をもってすれ違う事ができるようにだ。
その橋の先には城下町が広がっているのだが…………。
その光景に、力なく地面にお尻をつくカレン姫。
「もうだめだわ……おしまいよ……」
ソマリを抱えて城下町へ出たときは、いつもより人が少ないと思うくらいの城下町だった。それも、王城でカレン姫のお披露目があるためだろうと思っていたくらいだ。
しかし、あのときの人の少なく城下町は一変していた。
南門から、見える限りの城下町は禁忌魔兵でいっぱいだった。一体どれだけの住民や冒険者、兵士達が犠牲になっているのか……。
前日に各ギルドや大型施設、駐屯所、また城下町にも禁忌酒が配布されており、今朝からドレイク・マティアが各所を馬で走り回って次々と禁忌魔兵を作り上げていたのだった。
襲いかかってくることのない禁忌魔兵。
絶望に力なくす国王達を最高の笑顔で見下ろすデモン・スティーン。
「良い顔よの。その絶望の顔が美味じゃのう!」
そんな中、オリバー騎士団長とハルだけは何かここから脱する方法はないのかと考えを巡らせていた。
「おお、そうじゃった。最後の時は家族一緒がよかろう」
デモンの言った言葉の意味がわからなかったが、禁忌魔兵の中から見覚えのある人物が二人歩いてきた。
いや、歩いているのは禁忌魔兵となってしまったリアムと、そのリアムにドレスを握られて、引きずられるように連れてこられたクロエ姫だった。
どうやらクロエ姫は禁忌魔兵になっていないようだ。
「お、お義父様!」
「クロエ! 無事だったか!」
禁忌魔兵のリアムがクロエ姫のドレスを離すと、辿々しい足取りで父親である国王の元へ走っていった。
そして父親である国王ディスパーの腕の中に飛び込むクロエ姫。
クロエ姫の無事が確認できてホッとするのも束の間である。
意識を周りに向ければ絶望の中なのだから……。
「リアムは禁忌魔兵になってしまっていたか……」
オリバー騎士団長は残念そうに独り言を呟いた。それをクロエ姫が聞き拾っていた。
「リアムは私の護衛をしていたの。『カレン姫のお祝いなので』と、デモン・スティーンからの祝いの酒を渡され仕方なく飲んだのよ。
しばらくしてリアムや他の騎士団員達が苦しみだして禁忌魔兵に……」
「そうですか……」
しかし、なぜクロエ姫にも飲まさなかったのだろうか。
そしてもう一人禁忌魔兵に連れてこられた人物がいた。
意識のないラグドールを禁忌魔兵を使い、ご丁寧に僕らのところまでひきずってきたのだった。
「ラグドール!」
オリバー騎士団長がラグドールに駆け寄った。
「どうせ死んでおらんのじゃろ? 起こしてやるがいい」
オリバー騎士団長は、ラグドールの頬を叩きだした。
「ラグドール! おい! 起きろ!」
バシンッバシンッと痛そうな音を立て、やや強めに叩くオリバー騎士団長。
「オリバー騎士団長……ちょっと強すぎません?」
僕の心配にクロエ姫とカレン姫は無言で頚を立てに振っていた。
「こいつはこれ位しないと起きないからな」
「いや、さすがに怪我の程度がわからないラグドールさんにその張り手は……」
「起きろラグドール!」
どんどん叩く音が大きくなっていっているような……ラグドールの頬も赤みが強くなっていく。
「ぐ……ぬ? ……ぶっ」
おおっ! ラグドールが意識を取り戻した。しかし、意識が戻ったことに気がついていないのかラグドールの頬を叩き続けるオリバー騎士団長。
「ラグドール早く起きろ!」
「あ、ああ……だいじょ」
バチンッビチンッ!
「……うぶだ……いてえ……」
バチンッ! バチンッ!
「いてえっつってんだろ!? いつまで叩くつもりだ!」
半ギレのラグドールがグーで殴り返した。
「ぐっ! いつつ……なんだ起きてたのか……」
殴られたラグドールもオリバー騎士団もなぜか頬をつり上げていた。
「お前とのやりとりもこれで最後かもしれんな……」
いつも前向きで最善を尽くすオリバー騎士団長だが、この状況には少し弱気になっているように見えた。
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