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第七十五話 ガウル再び

 

 ラグドールやオリバー騎士団長の元へ走る僕は、とっさに横に飛び退いた。その直後、僕のいた所に鋭い氷の矢が三本刺さった。

 間一髪、デモンの攻撃を退いた。


「むっ? 勘の鋭いガキじゃな」


 ――――危なかった! 禁忌魔兵だけが敵ではない。デモンから攻撃してこなかったので油断していた。

 今のような危険感知は、ヨハンとの稽古でたまにあった。直感的に危ないとわかるときがあるのだ。

 もし、神様の分けてもらった力のおかげなら、神様に感謝しなければ……。



 しかし、デモンは邪魔だ……。高いところにいるため攻撃が届かないし、仮に魔法や弓で攻撃しても魔力障壁で弾かれてしまう。


 魔力切れを待つしかないのか?


 だが考えている暇などなかった。周りの禁忌魔兵に襲いかかられてしまい、デモンどころではなくなってしまった。


 禁忌魔兵をまとめてふき飛ばし、囲みを抜けると、ようやくラグドール達と合流することができた。


「ハル君よく来てくれた!」

 オリバー騎士団長は僕の背中をバンッと叩き、はにかんだ後すぐ真剣な表情に戻り、禁忌魔兵に目を向けた。


 僕は国王の前で片膝を付き挨拶をした。

「は、はじめまして、ハルです。城の客室を貸し与えていただき、ありがとうございます」


「君の事はオリバーから報告を受けている。先ほどのガウルとの戦いは素晴らしかったぞ。そして今ここに加勢しに来てくれたこと礼をいおう」


「二人とも挨拶はここから離れてからにしてくれ! 城下町の安全なところまで逃げ込み対策を練る! ハルはラグドールと一緒に正門までの道を作ってくれ!」


「わかりました!」


 地面を蹴って禁忌魔兵へ向けて刀を抜いた。ラグドールの横から襲いかかる数人の禁忌魔兵をまとめて切り飛ばすとラグドールが口笛を鳴らした。

「ヒュゥー、すげえじゃねえか。ヨハンには良い刀を作ってもらったんだな」


「ラグドールさんが手紙を書いてくれたおかげです」


「二人とも話してる暇はなさそうだ」


 禁忌魔兵の群れの向こう側にはガウルがゆっくりこちらに向かって歩いてきていた。オリバー騎士団長の言葉通りヤバくなりそうだ……。


「なんだ? あのバカデカいやつは……ん? 怪我してるようだな」


「あの怪我はハル君がやったんだ」

「なに? じゃあ、お前の怪我はあのデカいやつにやられたのか?」

 ガウルと僕の腕を交互に見るラグドール。


「はい、ガウルよりは酷くありませんが、あまり力が入りませ――――――ガウルが来ます!」


 ゆっくり歩いていたガウルが突然走りだしてきた。


「まかせろ!」

 ラグドールがガウルに向かって走り出す。


 ガウルの拳がラグドールを襲う。ラグドールは見事に紙一重で避け、すれ違いながら素早くラグドールの腕を幾度も切り裂いた。


 とても、ラグドールのような巨体からは想像ができないほどの素早い斬擊だ。


 まるでソマリの得意とする剣術だと思ったが当然だ。ソマリに戦い方を教えたのがラグドールなのだから。


 しかし、禁忌魔兵となったガウルは、皮膚と毛が硬化していて大きなダメージにはなっていないようだ。

 ガウルはラグドールの方に向きを変え襲いかかった。


「これならどうだ!?」

 切ってダメなら刺してみろだ。ラグドールに対して向けられた蹴りをひょいとジャンプして避け、首の喉元に剣を向けた。

 しかし、喉元の手前でガウルの右手が間に入り、手のひらに刺さるだけにとどまった。


 痛みの感じないガウルは手に刺さった剣を握り締めた。

「くっ! 抜けねえ!」

 動きが止まったラグドールに襲いかかるガウルの拳。


「うおっ!?」


 ――――ドゴンッ!


 ガウルの拳が直撃したラグドールは、正門横の外壁まで殴り飛ばされて、外壁に激しく体を打ち付けて、意識を失って地面に倒れこんだ。

 剣が抜けずにとっさにガードをしたラグドールだったが、それでも気を失ってしまうほどの衝撃を受けたようだ。


「ラグドールさん!」


 ラグドールは僕の呼び掛けに反応することはなかった。気絶しているだけなのか、絶命してしまったのかわからない。禁忌魔兵は意識のないラグドールには見向きもしないでこちらに向いていた。


 ラグドールは心配だが、今は目の前のガウルだ。


 ガウルの腕は深い傷ではないが、ラグドールに切り刻まれており、手には剣が刺さったままだ。

 痛々しいが、禁忌魔兵になっているガウルは痛覚がないため、剣が刺さっていることをまったく気にすることなく僕に向かってきた。


 撤退前の戦いでは素手同士だったが、今はヨハンに造ってもらった刀がある。

 手負いのガウル相手に負けることはないだろうが、アルステムから逃がすと約束した相手を傷つけることになるなんて……。

 たった一度会って、食事を分けてもらっただけなのでそれほど情深く思っているわけではないが、やはり、約束というのは簡単に切り捨てることのできないものだ。


 かなり手負いのガウルだが動きはそれほど鈍っていないようだ。相変わらず体の大きさのわりに素早い動きをみせるが、片腕が動かないガウルの攻撃は単調になっている。


 ガウルからくりだされる攻撃をことごとく弾き返していく。

 蹴りがくれば蹴り返し、拳で殴りかかってくれば刀の峰で弾きあげる。弾いたことにより姿勢の崩れたガウルに刀を打ち込んでいった。


 次第にガウルが弱ってきたのか、動きが鈍くなっていく。


 そんな圧倒的な力を目の前で見せつけられた国王とカレン姫は、驚きの声を漏らしていた。

「ラグドールさえ敵わなかったガウルに対して、この圧倒的な力の差はなんなんだ。一体、あの少年は何者なんだ……?」

「クロエから聞いていましたが、まさかこれほどまでの強さとは思いませんでしたわ……」



 そんな国王やオリバー騎士団長達を高みから見下ろすデモン・スティーン。

「ふはははっ! 足掻いておるわい! まったく面白い見世物じゃ。無事城門を抜けた先の光景を見たときのあやつらの顔を早くみたいわい。

 せいぜいこんなところで死なないように頑張って欲しいところじゃが……しかし、あの小僧を禁忌魔兵にできぬのは残念じゃのう……」


 デモンの中ではオリバー騎士団長を禁忌魔兵にするための段取りは考えてあった。


 しかし、その三剣のオリバー騎士団長をも上回るかもしれないハルという少年を、禁忌魔兵にするために必要な薬物を飲ませることができ喜びに満ちていた。ガウルやオリバー騎士団長より良い駒が手に入った、と。


 ――――だがハルは禁忌魔兵にならなかった。


 デモンには、ハルがどうして禁忌魔兵にならなかったのかはわからなかった。いくら考えても答えはでない。


 神様から分けてもらった力の一部が毒物を無効化しているなど、到底考えが及ぶところではなかった。


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