第七十四話 執務室へ
門から少し走ると騎士団施設が見えた。
ここには打ち合い訓練をしたり、オリバー騎士団長に相談に来ていたので大体の建物の構図はわかっている。
しかし、ここにも禁忌魔兵はいるようだ。
デモンは禁忌酒の配布を騎士団本部にも届けさせていた。待機中や交代で休憩に来た者達に飲ませていたのだ。
国王の側近である魔法総司令のデモンが許可を出していれば、酒好きの人なら飲んでしまう。
勿論任務中だからと頑なに飲むのを拒んだものもいるだろうが、強くないお酒のため飲んでも仕事に差し支えないと判断し、飲む者がおおかった。
そして、デモンの魔力によって禁忌魔兵になった者は、禁忌魔兵になっていない者へ襲いかかっていた。
――――さて、禁忌魔兵が沢山いる騎士団施設内を通っていくのは都合が悪い。
それに騎士団長の執務室は、鍵がかかっているだろう。なので扉を壊してというのも気が引けるし、壊してしまったら禁忌魔兵がそこから入ってきてしまう。
すぐ目の付くところに僕の刀があれば、刀を取ってすぐに逃げればいいのだが、探すことになったときに禁忌魔兵が入ってきては困る。
狭い室内で数の暴力でこられてはさすがにまずい。
そのため執務室の上からいくことにした。
執務室は一階で、訓練広場が見渡せる日当たりの良い所にある。しかし、その広場にも禁忌魔兵の姿が見える。
まったく目に止まることなく執務室まで行くことはできないだろう。
禁忌魔兵の一人が僕に気がついて、他の禁忌魔兵も僕に向かってきた。まるで意思共有でもしているかのようだ。
僕は走り続け執務室の前まで来たが、正面には禁忌魔兵が数人いて、左右からもこちらに向かってきていた。
走る勢いを殺さないまま、一人、また一人と倒して、大地を強く蹴って執務室の上の階に向けて飛び上がった。
禁忌魔兵を飛び越え、二階のガラスを蹴り飛ばし、割れたガラス窓とともに室内に飛び込んだ。
飛び散る破片に少し怪我をしたが大した傷ではない。すぐに起き上がり部屋の鍵を内側から閉めた。そして大きな机や棚を扉の前に移動させてガッチリ封鎖した。
これで一安心だ。
僕は部屋の中央に立ち、下の階の執務室に向けて拳を振り下ろした。
――――ドカンッ!
激しい破壊音が響きわたる。部屋の中央に大きな穴を空けたのだ。下の階の執務室は木材や埃にまみれ大変なことになっていた。
オリバー騎士団長ごめんなさい!
しかし、すぐに降りる訳にはいかなかった。執務室は窓がいくつもあるため、外から中が覗けてしまうからだ。
禁忌魔兵達には僕が二階にいると思わせるために、水弾を二階から放ち、注意を引いてから静かに執務室に降り立った。
執務室はさっぱりしているため、探すところが少なく苦労なく見つかった。
クローゼットの中で見つけた刀を腰に刺した。今度は執務室の窓から水弾を放ち幾人ばかりの禁忌魔兵を吹き飛ばす。
そうして禁忌魔兵の注意を一階の執務室へと向けると再び穴から二階へ飛び上がり、入ってきた窓から飛び出した。
着地の際、禁忌魔兵を蹴り飛ばし他の禁忌魔兵を巻き込みなから転がっていく。
一斉に飛びかかってくる禁忌魔兵、元は騎士団の人達なのだろう。鎧を着けた者もいれば、休憩中だったような上の鎧だけ着けていない者もいる。
刀をスルッと抜き、低い姿勢で円を描くように横一線で刀を走らせる。
――――ヒュンッ
太刀筋から青い光の残像がついてくる。
峰で周りの禁忌魔兵の足を薙ぎ払った。足を砕かれ、薙ぎ払った勢いで回転をして地面に落ちる禁忌魔兵。
非常事態の今、ここで人を斬れないようでは生き残れないかもしれない。しかし、それでも斬ることはできなかった。
正門のバルコニーに向け走りだし、邪魔する禁忌魔兵を峰で次々と倒していく。
武器を持っている禁忌魔兵が斬りかかってくると、まず武器を破壊して峰打ちをする。しかし、峰打ちといっても軽いものではない。
僕の力で打ち付けられる峰打ちは禁忌魔兵を薙ぎ飛ばせるほどだ。
複雑骨折は間違いない。しかし、死んではない、はず……。
手加減なしで殴り飛ばしたドレイクにはこんな感情はなかった。しかし今、周りにいるのは罪もない一般兵士や民間人だ。
デモンの手によって禁忌魔兵にされているだけである。そんな人々を斬り殺す事なんてできない。
行く手を阻む禁忌魔兵を、刀の峰と蹴りで次々と弾き飛ばしていった。
そして、バルコニーが見えたのが、国王やカレン姫、そしてオリバー騎士団長の姿が見えない。
もしかしてやられてしまったか、室内へ行ったのかと思ったが、禁忌魔兵が向かっている先に目を向けると、ラグドールが禁忌魔兵を倒し、後ろにはオリバー騎士団長達がいた。
どうやってバルコニーから降りたのかわからないが、追いつめられた場所より逃げ道がある分、地上の方が良いだろう。
しかし、バルコニーと違い、禁忌魔兵が四方八方から襲いかかってくるため、地上の方が持ちこたえられる時間は短そうだ。
四階辺りの高さで、高みの見物をしていたデモンだがハルを見つけて表情が輝いた。
「わざわざ、ワシの手駒になりに戻ってきたか!」
叫びながら僕に向けて禁忌魔法を放った、しかし魔力が杖から飛び出すが、どこにいくこともなく消えてしまった。
「なぜじゃ……!? やつは薬を確かに飲んだ。しかし、この短時間の間に薬を中和したというのか? ありえない……。
と、なると、あやつが獣女を抱えて逃げた時に、呪縛が追ったのは少年ではなく獣女の方? しかし、それでは少年が飲んだ薬の効果は何処へいってしまったのだ?」
まさか、ハルに害となる薬物が効かないとは思いもしないデモンはいくら考えても答えが出て来なかった。
こうなっては、デモンにとってハルという存在は邪魔者でしかないため、ハルを殺すために再びガウルをハルの元へ向けた。




