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第七十三話 東門

 

 ラグドールがハルやソマリがいるパン屋を出て行ってからすぐの事――――


「ソマリさん、僕も城に戻ってみんなの手助けをしてきます」


 ソマリは顔を弱々しく顔を横に振った。まだ、身体は思うように動かないようだ。


「もういかないでください……ハル様傷だらけです」


「大丈夫ですよ。右腕の痛みも引いたみたいですし」

 右腕をあげて笑顔で答えて見せた。

 実は激痛が走ってものすごく痛かったが、心配させまいと平気なフリをした。


「ソマリさんはここで安静にしていてください。必ず戻ってきますから」


「うぅ……絶対ですよ?」


 僕はソマリの手をぎゅっと握り「絶対です」と約束をした。


「では、おじさん、おばさん、ソマリさんの事をお願いします」


「あいよ。と言っても何もしてあげられないが……ハルちゃん、戻ってきたらパンをごちそうしてあげるからね」


「ありがとうございます」


 パン屋の裏口から外へ出ると、内側から鍵をかける音がした。これでソマリは大丈夫だろう。

 デモンの使う禁忌魔法の有効範囲にソマリがいなければ大丈夫なはずだ。実際、デモンの禁忌魔法の呪縛はソマリに入ることができずにどこかで消えていた。

 全力で走り逃げていためどこで消えたのかわからないかったが、ソマリがこのパン屋に居て、デモンが城内にいる限り大丈夫だ。


 デモンが城内にいる間になんとかすれば、ソマリさんが禁忌魔兵になることはない。


 だが、ラルク、シルビア、コングは禁忌魔兵になってしまった。

 戻す方法なんてあるのか? デモンを生け捕りにして禁忌魔兵から解放する手があるのか聞き出さなければ……。



 オリバー騎士団長の執務室に僕の刀があるといっていた。


 僕は騎士団施設に向けて走り出した。


 騎士団施設といっても、城内の敷地にある。正門付近は禁忌魔兵が沢山いたから別の門から入った方がいいだろう。正門が南……騎士団施設があるのが東側になる、ならば東門から行こう。




 ――――東門の前に着いた僕はため息を吐いた。

「はぁ……やっぱり」


 正門では大々的にカレン姫の成人祭があり、お披露目のために人員を割いている。その影響で今日は他の門は閉鎖されてた。

 それでも城門には見張りの兵士が数人いて、城門前に二人と城壁の上に四人。


「すみません。中に入りたいんですけど入れてもらえませんか? 城の客室で滞在させていただいてるハルといいます」


 強行突破はしたくないし、この人たちは正門での出来事を把握しているのだろうか?


 城門前に立っている兵士が声をかけてきた。

「ハル? あー、聞いたことあるな。子供と獣人の女が城で厚待遇されてるって」


「へぇ、なんでまた?」


「なんでもクロエ姫が野盗に襲われた時に助けたって話だ。めちゃくちゃ強くて野盗四人を瞬殺だったらしいぜ」


「げっ、なんだそれ。絶対話盛られてるだろ……」


 呑気な口調で話し出した兵士達に苛立ち、再度中に入れてもらえるようにお願いする。

 しかし、その返事は良いものではなかった。


「悪いが入れることはできないな。お前がそのハルっていう証拠はあるのか?」


 僕は胸からタグプレートを出し、兵士の目の前につき出した。

「名前見てください!」


「うーん……冒険者で登録してあるみたいだな。名前はハル、たしかに名前はハルだが、一人では素材採取しか受けられないような銅プレートの子供が野盗を瞬殺?」


「くぷぷ……ないわー」


 苦笑する二人の門番は僕を通す気はなさそうだ。


「なぜですか!? 中では大変なことになっているのをご存知ですか!?」


「大変なこと? 成人祭のことか? いいよなー、酒が配られてるらしいしよ、俺もそっち行きたかったぜ。こんな日に出勤日と重なる何てよお……」


 兵士達は禁忌魔兵が暴れていることを知らない?

 いくら広くて建物があり、正門側の様子が見えないにしても、誰もこっちに逃げてきていないのは不自然すぎる。


「ちがう! 大勢の禁忌魔兵が暴れているんです!」


 扉の前にいる兵士達は顔を見合わせ大笑いをした。

「く…………だあっはっは! 禁忌魔兵って何十年も前の戦争のやつだろ? 城内にいるって……嘘をつくにしても、そりゃいくらなんでも無理があるだろっ。

 中に入りたいなら正門の南門からにしな。あっちは成人祭のお披露目のため開門してあるからな」


 だめだ、何を言っても通してくれそうにない。今は時間が惜しい。閉じている大きな門にゆっくり近づき手を押し当てた。


 それを見た兵士達は、止めることなく見ているだけであった。肩をすくめ、やれやれといった仕草をして呆れているようだ。開けられるはずがないと思っているからであろう。


 ギギッギ……


 力を入れてグッと押すと僅かに扉が動いた。


「「えっ!?」」

 兵士達は驚きの声を出すが、それ以上動かなくなった扉を見て「気のせいか? 今動いたよな?」と言うだけで止めようとはしなかった。


 さすがに片腕だけでは力が入れにくい。

 僕はしっかり腰を落とし、力一杯門を押すと、さっきよりも大きな音をたてながら門が開いていった。側にいる門兵は唖然として立ち尽くしていた。


 城壁の上にいた兵士達は門の開く音に気付き、下を覗くと門が開いくのが見えた。


「おいっ! 門が開いていってるぞ!」


 城壁の上にいた見張りの兵士達は慌てて下りていった。


「子供が一人で門を開けてる……」


 本来ハンドルを使い、大人四人で開け閉めをするような扉だ。

 それを子供一人で開けるなどありえなかった。


「な、何をしている! みんなあいつを止めろ!」


 僕一人分が通れるくらいの隙間ができたので、するりと門を通ると兵士が四人、槍や剣を構えていた。


 できるだけ怪我をさせないようにしなくては。


「水弾!」

 ほとんどタメのない魔力の練りで、素早く射ち出した圧縮された水の塊を高速で門兵の頭に直撃した。


「ぐあっ!」


 他の門兵の視線が、悲鳴をあげた門兵に集中した。

 すかさず、距離を詰めて腹部に軽く拳を叩き込んだ。


「ごふっ! ぐえっ!」

 嗚咽を吐きながら崩れ落ちる門兵、ようやく事態が飲み込めた残り二人の門兵が斬りかかってくる。

 無駄な動きをすることなく、槍を避けて滑らかに避けて門兵の腕を掴んだ。


「うえっ!? わっ!? わわわわわわわ!?」


 掴んだ門兵を振り回してもう一人の門兵に投げつけた。投げつけられた門兵はどうすることもできずに一緒に転がっていった。


 これで残るは、門の前にいた二人の兵士だが、僕が通ってきた門の隙間から顔を覗かせているだけで襲いかかってくる気配はなかった。


「乱暴してすみません。本当に急ぐので」

 そういって僕はその場を立ち去った。


 襲いかかることなくハルを見逃した二人は、手をヒラヒラと振り「い、いってらっしゃい……」と呟き、間抜けな顔をしていた。


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