第七十二話 正門へ
「ラグドール!? どうしてここに!?」
獣人の村ドベイルで、自身で立ち上げたギルドのギルドマスターをしているため、長期の休みなどは取れないため、王都にくることがなくなってしまったラグドールが、このタイミングで王都にいることが信じられないオリバー騎士団長。
しかし、ゆっくり話している場合ではない。今この時もオリバー騎士団長と国王は必死に禁忌魔兵と戦っている。
デモンは、ラグドールがどうしてここにいるのか疑問でならない様子である。
「なぜあやつがここに……? マクラムの進軍を察してからに王都に向かったにしては早すぎる……事前に情報が漏れていた?」
ラグドールはソマリを傷つけられたことにより、怒りに任せて禁忌魔兵を次々に倒していく。
しかし、禁忌魔兵になる前はアルステム国民なのだから、複雑な気持ちもあるが、どうしようもないため、気持ちをわりきる必要があった。
正門から突き抜けてきたラグドールは、禁忌魔兵の群れから抜け出し、バルコニー付近にたどり着いた。
しかし、いくらラグドールが強くても、痛みも感じず、ひたすら襲いかかってくる禁忌魔兵達に無傷というわけにはいかなかった。
重症ではないものの、腕や背中に切り傷や刺し傷が多数あった。
ラグドールは剣をデモンに向けて怒鳴った。
「てめえがデモンだな!?」
デモンは鼻で笑い、問いに答えた。
「そうだが?」
「ソマリを傷つけたテメエは許さねえ! ぶっ殺してやる!」
ラグドールは自分の腕に刺さっていたナイフを抜き、デモンに向けて投げつけた。
スッと手を横に振り、魔力障壁を張ったデモンの目の前でナイフは弾き飛ばされた。
ナイフを難なく弾き飛ばすのを確認したラグドールは、舌打ちをして「小僧の言っていた通りか……」と愚痴をこぼした。
するとバルコニーからオリバー騎士団長がラグドールの名を叫んだ。
「ラグドール! 受けとれ!」
「はっ? なあっ!?」
バルコニーを見上げたラグドールは目を見開いた。バルコニーから投げられたのは、風でブワッと広がる美しいドレスに身を包んだカレン姫だった。
三階の高さにあるバルコニーから投げ出される娘を目の前に、国王は禁忌魔兵のことなど頭から抜けてしまうほど驚いていた。
「かっ、カレン!」
「きゃあああああああああ!」
「無茶しやがる!」
ラグドールは慌てて走り、女性の落下地点にいた禁忌魔兵を蹴り飛ばして、見事にカレン姫を抱き抱えた。
「国王! 少々怪我をするかもしれませんがお許しください!」
「オ、オリバー!?」
そう言って、禁忌魔兵に囲まれているオリバーは国王を抱き抱え、バルコニー下に植えてある背の高い植木に向かって飛び降りた。
「オオオオリバアアアアアア!」
――――バサバサバキバキバキッ! ドシャッ!
植木で落下の衝撃は和らげ地上に降りることに成功した。
しかし、いくら鎧を着ていても、全身甲冑ではないので、腕や、ふくらはぎ等には小さな枝が刺さっていた。
逃げ場の無いバルコニーにいては、いつかは体力が尽きてやられてしまう。なんとか持ちこたえれたのは、城内からバルコニーにでる所が広くないため、大勢に囲まれることなく順に倒せていたからだった。
そのため、こうして地上に降り立って、逃げ道は広がったが、一度囲まれてしまって四方八方から同時に襲われたら最後である。
「国王いきますよ!」
「おお!」
「ふん……悪足掻きをしおって……」
デモンは禁忌魔兵を操り、バルコニーや城の中にいた禁忌魔兵達に地上にいる四人を始末するように仕向ける。
「とりあえずラグドールと同じ方向へ!」
「わかった!」
カレン姫を抱えたまま禁忌魔兵を蹴り飛ばして、なんとか城門を突破しようといるラグドールを
禁忌魔兵達は一斉に向きを変え、目標となる四人に向けて走り出した。
「逃げられるわけなかろう……」
デモンは逃げ出す四人を見て鼻で笑った。
いくら倒しても湧き出るように現れる禁忌魔兵。
「くそ! 蹴りだけじゃきついぜ!」
「ラグドール、私を降ろしてください。自分で走ります」
「何言ってやがる! そんなドレスでどうやって走る! それに姫さんじゃすぐ追い付かれちまう!」
「し、しかし……これじゃ私はお荷物でしか……」
「だー! やかましい! 姫さんはひょろひょろで軽いから大丈夫だ! それよりも――――」
「きゃっ!?」
「オリバー返すぜ!」
「えっ?」
カレン姫は突然後ろに投げられ、二度目の浮遊感を味わった。
「きゃああああああ!」
勿論地面に叩きつけられることはなく、オリバー騎士団がカレン姫をキャッチして抱き抱えた。
「大丈夫ですか?」
「ううううう、こわかったです……」
「オレが道を開ける! オマエは姫さんをもってろ!」
そう言ったラグドールは、両手に剣を構え次々と禁忌魔兵を倒し道を開けていく。
周りを見渡せば、禁忌魔兵になっていない兵士達は残り僅かしかいなかった。
そんな中、城壁を背にして、後ろから禁忌魔兵にやられない場所で戦う一つの団体に目が止まった。
人数は減り、傷ついている者ばかりだが、なんとか生き延びているオリバーの部下達の騎士団員だった。
そこにはジャック副団長の姿もあった。
ジャック達を合流させて、正門前から抜け出そうと考え、オリバーはジャックに命令をした。
「ジャック正門から抜け出すぞ! ここにいてはいずれやられる!」
「はい! ――――みんな正門を目指せ!」
「「「「おおっ!」」」」
騎士団や兵士達も一斉に正門に向け、禁忌魔兵を倒し始めた。
だが、正面だけに禁忌魔兵がいるわけではない。ジャックの集団はオリバー達と合流するどころか、中々前に進めないでいた。
一方ラグドールの方も禁忌魔兵を倒せど倒せど切りがなく、正門を突破しようと試みたが、禁忌魔兵の壁は厚かった。
「くそ……さすがに多いな……」
「確実に仕留めておくか……」
デモンはガウルを動かし、正門に向かう四人を襲わせた。
「ラグドール避けろ!」
オリバーの声にすぐに反応を示し飛び退くと、元居た場所に大きな巨体が飛んできて着地と同時に地面を爆散させた。
「あぶなかったぜ……で、なんだこいつは? 魔物化した獣にしては動きが人っぽいが……」
「そいつは、最近見つけた新種族のガウルだ。見た目獣だがな……しかし、今はデモンによって魔物化に似た状態になってるんだ」
「ちっ、やっかいだな……」
「ガウルは強いぞ」
「さっきの一撃を見りゃわかるぜ……くるぞ!」
襲いかかってくるガウルの一撃を紙一重で避け、両手の剣で腕を切り刻んだ。
しかし、皮膚や毛がが硬化していてダメージは浅かった。
「くっ! かてえな! こいつの傷ついた腕は誰がやったんだ!?」
ラグドールは傷ついたガウルの腕を見てオリバーに問いかけた。
「ハル君だ!」
「小僧か……それであいつもボロボロだったのか……なら、オレが傷ついたこいつに負ける訳にはいかないよな!」
傷ついたガウル相手ならラグドールは勝てたかもしれない。
しかし、ハルの時とは状況が違う。ガウルに注意を向けていると禁忌魔兵が飛びかかってくるからだ。




