第七十一話 オレはラグドール ~ソマリと再開~
オレは店の前に備え付けられている椅子に座り、さっそくハンバーガーを食べることにした。
店の女はわざわざ表に出て来て様子を伺ってくる。オレのハンバーガーへの評価が気になるのか?
紙袋を開けると中にはパンに挟まれた食用の大きな葉と、タレの付いた見たことのない肉が挟まれている。
何の肉だ……。
ちらりと女を見るとなにやら自信ありげな顔で「早くお食べ」と、すすめてくる。
それなりに大きいハンバーガーに、オレは一口かぶりついた。
おもわずは目を見開いてしまった。
――――――美味しい。
今まで食べたことのない食感と味だった。
肉からはジュワっと汁が溢れてきて、肉の旨味となにか甘い味がする。タレの甘さとは別の物が入っているようだ。
そして何よりも驚いたのがものすごく柔らかいのだ。
これならば年をとって肉が食べられなくなった人でも食べられるのではないか?
肉の断面を見ると白い食材が肉に入っている。これが甘いのか? そしてほかほかの肉からは肉汁が垂れていた。
「これは何の肉だ?」
オレの問いに店の女は嬉しそうに「肉屋に売っている肉さ、だけどそれ以上のことは内緒さ」と言って、口の淵をつり上げた。
どうやら、オレが驚くのを見て満足したいがために、オレを眺めていたみたいだ。
それほどまでに自信があったいうことだろう。たしかにものすごく美味しかったが……。
オレはポロっと独り言を漏らした。
「ソマリにも食べさせてやりたいな」
ソマリの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。これを食べて驚く顔を見てみたい。
そう思っていると予想外の言葉をかけられた。
「ソマリって、あんたと同じ獣人の女の子かい?」
「なに? ソマリを知っているのか?」
「綺麗なオレンジ色の髪の可愛い女の子だろ?」
間違いない。オレンジ髪の可愛い子というならソマリで決定だ。
それに王都には獣人が少ない。同じ名前の獣人で、オレンジ色の髪はいないだろう。
「じゃあ、ハルちゃんも知っているかい?」
「ぬ? 小僧も知っているのか? オレはソマリの父親だ」
「あら、そうなんだね。実は……このハンバーガーはハルちゃんに教わったのさ」
パン屋の女の話では、小僧がミンチという調理法を教え、様々な具材を混ぜ合わせたのがこの肉らしい。それで肉以外の味がしたのか。
それにわざわざ肉をこんなになるまで小さくする料理はない。
せいぜい食べやすく細切れにするくらいだ。
先程は肉の種類すら教えてくれなかったのに、ソマリの父親という事と、小僧の知り合いという事で、説明をしてくれたようだ。
勿論、口止めをされたが……。
それと、数量限定というのも訳があるみたいだ。加工が大変なので大量に作れないということらしい……少し値が高いのはそういうことか。
しかし、その数量限定で一人一個というのがコツらしい。
人気商品が数量限定となれば購入意欲を刺激されるらしい。
そして一人一個なので、当然量が足りないという人もいるのだ。そのため、ついでに他のパンも買ってくれるという。
そして、お店まで来たが、ハンバーガーが売り切れていたため帰る人もいる。しかし、中にはわざわざ来たので他のパンを購入してくれる人もいるみたいだ。
客寄せの効果もあるということか。
いつもは昼飯時になるとハンバーガーが出来上がる前から、ハンバーガー待ちで並ぶらしい。
しかし、今日は即売とはいかなかったみたいだ。
どうやら皆、カレン姫の晴れ舞台を一目見ようと王城に行っているようだ。なるほど、これで城下町にしては人が少ないと思っていた理由がわかったということだ。
それに、こんな時でもないと城門の中には入れないため貴重な体験だろう。
オレは、今度は娘と食べに来ると約束をして立ち上がると、王城の方からものすごい速さでこちらに向かってくる人影がいた。
オレにはすぐわかった。小僧とソマリだ。
だが綺麗なオレンジ色の髪が半分赤色に染まっていた。
オレは思わず声をあげた。
「ソマリ!」
ソマリを背負っている小僧は、オレと目が合っうと砂埃をあげながら急停止をした。
「ラグドールさん! 王城が大変なんです!」
「ばかやろう! ソマリが大変なことになっているじゃねーか!」
オレはソマリしか目に入っていなかったが、小僧もボロボロだった。
「二人とも酷い怪我……すぐ薬草用意するわね!」
お店の女は薬を取りに店の中に駆け込んでいった。
オレは小僧からソマリを奪い取り、抱き締めてやった。力が入らない様子のソマリに目を細めた。
「……とうはま」
ソマリは弱々しく、いつもオレを呼ぶときのように父様と口にした。
なぜ、こうなったのか、何があったのか事情を聞くことにした。
小僧が外では話せないということで、お店の女や店主に話をつけ、店の奥で話を聞くことになった。
「ハルちゃん、常備の粉末薬草しかないけど……」
店の女が小僧に薬草を渡すと、小僧は止血効果のある粉末薬草を水で溶き、ソマリの耳に塗り込んだ。
ソマリは悲痛の声をあげたが小僧に最大限の感謝をしているようなので、小僧のせいでこうなったのではないことはわかった。
小僧はソマリの応急処置を終えると、店主に指示出し始めた。
「それとすぐに店を閉めて、僕が出ていったら誰も入ってこれないように戸締まりをしてください」
「どうしてだい? 今が一番の売り時なんだけど……」
たしかにお店としてはこの昼飯時に閉めたくはないだろう。それにパンも売れ残ってしまう。しかし、小僧とソマリの様子から緊急性のの高い事が起きてあることは想像できる。
「今、王都の各地で禁忌魔兵が暴れています」
「なに!? いつの間にマクラム軍が来ていたのだ!?」
まさか今になって禁忌という言葉を聞くことになるとは。禁忌戦争の話は、ほとんどの者が知っていることだ。そのため店主も青ざめた顔をして、慌てて戸締まりをはじめた。
「いえ、たしかにマクラム軍もこちらに向かっているらしいのですが、マクラム軍はまだ王都に到着するまで数日あるみたいです」
「なんだと? マクラム軍がまだ来ていないのに、王都内で禁忌魔兵が? それではマクラム軍に戦力を向けられないではないか」
「それよりも……デモン・スティーンをご存知ですか?」
デモン・スティーン……オレも王都で冒険者をやっていたし、聞いたことはある。
あぁ、そういえば、恩賞の授与はそいつに手渡されたな。
「ああ、王宮魔法使いの司令官だったよな? 一度会ったことはあるが……それがどうかしたのか?」
「そのデモンが反乱を起こして、というより、えと、デモンはマクラム王の血を引いているみたいで、幼少期からアルステムに入り込んでいて、今までずっとこの時を待っていたみたいなんです」
「なん……だと」
デモン・スティーンといえば、オレよりも年上のはずだ。そんなやつが幼少期からからずっとアルステムに住んでいたということは、五十年、六十年以上アルステムに住んでいたことになる。
とんでもなく長い計画だが、効果は絶大だろう。
内部で禁忌魔兵が暴れていれば、戦争の準備もできないままマクラムに攻めいられてしまう。
そして、話をもう少し詳しく聞いていくと、カレン姫の成人祭に集まった、大勢の民間人や貴族、兵士達も禁忌魔兵になっているとのことだ。
そして、オリバーと国王、そして国王の娘も今、危機にさらされているらしい。
なにより、ソマリをこんな風にしたやつが今も暴れているとなれば、オレがそいつをぶち殺してやる!
「ソマリ、オレがお前の仇を討ってやる」
オレがソマリの頬を触ると、痺れが弱まってきたソマリから激励の言葉を送られた。
「きをつけて……」
「僕も、刀を取りに行ってすぐに現場にいきます!」
「そんなボロボロなのに何ができる!」
「片手でも刀は触れますし、右腕も全く動かない訳じゃありません!」
小僧の目は決意の硬い目をしていた。なるほど、少し見ない間に成長したみたいだな。
「好きにしろ! 店主、ソマリを頼む。これは世話をかける詫びだ」
オレは金貨を二枚机に置くと驚いた様子でコクコクと何度も頷いた。
「ラグドールさん! 城正面にあるバルコニーにオリバー騎士団長や国王がいます!」
「おう!」
オレは店を飛び出し、王城へ向けて馬を走らせた。今は緊急事態だ。全力で王城へ向かう!
ソマリを傷つけたクソヤロウをぶち殺してやる!




