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第六十五話 魔獣ガウル

 

「ガウル……」


 周りの兵士の身長の、頭三つ分くらい大きい巨体なガウルは、遠くからでも確認できる。禁忌魔兵の群れが真っ二つに別れ、その中央をゆっくりとした歩調で歩いてくる。


「あれは獣王か!? 鉱山から王都へ移動させたとは聞いていたが……しかし雰囲気が……」

 バルコニーから見下ろすオリバー騎士団長には、ガウルに関しての情報はほとんど入っていないようだ。

 騎士団と研究機関は別なのだから仕方がないだろう。


 ドレイクの横を通りすぎ、僕の正面までやって来た。


「オリバー君。もし君が少年を助けようとしたら、禁忌魔兵達が国王を喰らうだろう。そこでおとなしくしていることじゃ」



 僕の倍はある体格のガウルは、かなり上から見下ろすことになる。

 牢獄の中で手合わせしたときの感じとは全然違う……これ程、殺気にみちた相手とはいままで対峙したことはない。

 

 ――――――!?

 予兆も見せずに蹴りが僕に向かってきた。とても避けれるようなスピードではない。咄嗟に足と腕を正面に持ってきてガードする。ガードに成功したが、体が軽い僕は蹴り飛ばされてしまい、遠くまで転がり続けた。

 すぐに起き上がりガウルに視線を向けると、すでにガウルは間合いを詰めてきていて二回目の蹴りもガードの上から受ける。

「ぐっ!」


 またもや蹴り飛ばされてしまい、宙を舞う僕は背中から壁に激突した。

「がはっ! くっ!」

 身体をうちつけ咳き込む僕に、更なる追撃をしかけてくる。

 三度目の蹴りはさすが受けることなく、横に飛び、回避に間に合った。ガウルの空振りをした蹴りは、風圧と空を切る音が凄まじかった。


『ガウル! やめてください!』

 ガウルと同じ言語で静止を求めるが、僕の声は届くことはなかった。やはり禁忌魔兵となると完全に支配されてしまうみたいだ。

 ガウルの勢いは止まらずに突進をしてくる。振り下ろされる拳を避け、横からくる蹴りを飛び退いた。

 次の攻撃を待ち構えたが、ガウルの動きが止まっていた。

 一体どうしたというのだろうか? もしかしたら、僕の呼び掛けが届いたのか?


 ガウルから注意を外さないまま、デモンやドレイクの方を横目で見てみた。


「ソマリさん!」


 いつの間にか、デモンがソマリの隣に立っていた。頭から水をかけられ、びしょ濡れになっているソマリの髪を掴み上げている。


 さすがのソマリも水を浴びせられたことと、髪を掴みあげられた痛みに眼が覚めたようだ。しかし今の状況が掴めなくて混乱していた。

「なに? え? どうしたの!?」


 周りの状況をみて、混乱しているソマリの首に、デモンが手を当てた。

「痛っ!」


「!? やめろ!」

 ソマリの痛がる声に、反射的に怒声をあげた僕に、静かな物言いで話すデモン。


「痺れ針じゃ。少年、こちらに近寄ると獣娘を殺すぞ? さあ、逃げてばかりいないで獣王と戦え。お前の力を見せるんじゃ」


「デモンさん、違うッス。今は魔物化しているから魔獣ガウルと呼びましょう! そっちの方がカッコいいッス!」


 正直、呼び方とかカッコいいとか、そんなことはどうでもいい。あのドレイクって人は、まったく場の空気を読まないというか、バカにされている気分だ。

 オリバー騎士団長があの二人を嫌う理由がわかった気がした。


 痺れ針を突かれたソマリは意識はあるようだが、身体に力が入っていないのがわかる。デモンに掴みあげられたままでこちらを見ていた。


 どうにかして助けたいが、デモンとドレイクの話からすると、薬品の混ぜられていた果実酒を飲んだ者に禁忌魔法を使うと、禁忌魔兵になるということだ。

 ということは、ソマリを助け出せたとしても、デモンかドレイクに禁忌魔法を使われてしまっては助ける意味がない。


 しかし、果実酒を飲んだ後でも、眠っていれば禁忌魔法の効果がないということらしい。

 つまり、助けるならソマリを眠らせるか気絶させないとダメということだ。


 いっそ、ソマリを助けるのではなく、ドレイクやデモンを同時に倒すことができれば……いや、それは無理か……。

 デモンに魔力障壁を張られたら攻撃が通らない。万が一、攻撃して失敗すれば、そこでソマリは禁忌魔兵にされてしまうかもしれない。

 どうすればいいんだ……。


「じゃあ、いくッスよ」

 僕の答えがでないまま、ドレイクの開始の合図とともに、ドレイクが杖を光らせる。

 ガウルの眼の輝きが増すと同時に、振り下ろされる拳を紙一重で避ける。ガウルの拳が地面にめり込み、小さな爆発を起こした。とんでもないパワーだ。


 ガウルとは、戦友でも仲間でもない間柄だが、内情を聞き、ガウルのことを助けると約束した。

 その相手を倒す……いや、ただ倒すだけでは止まらないだろう。殺さないといけないかもしれない。


 ガウルの攻撃を必死に避けならが対策を考えていると、デモンから大きなため息が聞こえた。

「ふぅ……つまらん戦いじゃな。ドレイク、獣王を止めろ」

「デモンさん。魔獣ッス」


「……どうでもよい、止めろ」

 ドレイクに命令をしてガウルの動きを止めさせる。


「少年。ワシはお主に力を出せというたぞ? 言うことを聞かぬやつに、言うことを聞かすにはどうするかみせてやろう」

 そう言ったデモンは、杖をソマリの頭に当てる。身体に白い魔力を(まと)わせるのをみて、僕は血の気が引いた。


「やめっ――――!」


 バシュッ!


 杖から放たれた白い風魔法は鋭い切れ味をみせ、ソマリの頭に生える獣耳の片方を切り飛ばした。ポトリと落ちたソマリの片耳。


「いつっ! ぃああああああああ!」


 痛みによるソマリの悲鳴が、僕をいままでにない怒りへと変化させる。

「デモンっ!」


「これ以上獣娘を傷つけたくないのなら、ガウルを殺すつもりで戦って見せるんじゃな」


 ドレイクが杖を光らせ、眼の輝きが再び増すとガウルとの戦いが始まった。


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