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第六十四話 マクラム国とデモン・スティーン

 

 禁忌魔兵の動きが止まったことにより、バルコニーでカレン姫を守り続けていた、国王とオリバー騎士団長もデモンに視線を向ける。


「ふむ……どこから話すかのぉ……」

 アゴヒゲを触りながら考え込むデモン・スティーン。

「二十年前、マクラムの禁忌魔兵もワシがやったものじゃ」


「なっ!」

 国王とオリバー騎士団長から、驚きの声があがる。

「なぜだ!? おぬしは幼少期から王都に住んでいたはずだ! なぜマクラムに肩入れをするのだ!?」

 国王はデモンの裏切りをまだ信じられないといった様子だ。


 デモンは落ち着いた様子でいつもの口調で語り出した。

「前マクラム王である、マクラム・ディオルフ・スティンと第三婦人の間に産まれた子がワシじゃ。本当の名は、マクラム・デモン・スティンじゃ」


「マクラムの王族……」

 国王にはかなりのショックだったらしく、怒りよりも落ち込みの方が強いみたいだ。


「正妻には二人の子供がいて、第二婦人にも子供が一人いた。ワシはマクラム国王の血を引いてはいるが、四番目の子供だったため王権にはまったく関係なかった。

 むしろ、第三婦人の子なんて邪魔なだけの存在だった。そんなワシの存在を国王は公表しなかった。出産前に死んだことにしたのだ。

 ワシの存在を知る者なんてほんの一握りだった。まだ産まれて間もないワシを抱いた側仕えと共に、アルステムに渡ったのじゃ。

 父である前マクラム王や母とは、一ヶ月も経たない内に別れ、側仕えのことを父母と呼び、アルステムで暮らすことになった。

 まぁ、贅沢ではなかったが、貧しいというほどでもなかった。その点では不満はなかった。

 しかし、小さい頃はなぜ自分は父母と離れなければならないのかと思ったこともあったのう。

 だが、ワシには国王から重大な任務を与えられていると側仕えの父母に教えられ、国王である父に期待されていると知ると身が震えたのじゃ。

 マクラムとアルステムの戦争時には内部から反乱を起こすためには軍に入る必要があった。ワシは剣術を磨き、魔法の勉強した。

 そんなワシには魔法の才能があったようでな、魔力量も多く、どんな魔法もそれほど苦労なく使えることができてのぅ。

 最年少で王宮魔法使いになり、そして、僅か三十歳でアルステム王宮魔法使いの総司令になった。総司令になってからは、魔法の研究にも力をいれるようになった。

 勿論このワシが、新しい魔法や高効率での魔法の発動などの研究成果は、マクラムにも筒抜けじゃったけどな。

 そして、ワシでも僅かしか読むことのできぬような解読困難な書物が沢山ある中から、とある書物を見つけたのじゃ。それが禁忌とされる古代魔法じゃ。

 ワシは古代文字を研究し、所々ではあるがそれなりに読むことができるようになった。そして、およそ十年ほどの歳月を書物の解読と魔法会得に費やした。その結果が今から二十年前のマクラムとアルステムの戦争の時の禁忌魔兵じゃ。

 戦力が互角のマクラムが、禁忌という兵器を手に入れたと知れば、アルステムも同じものを用意しなければ不利になるのは明白じゃ。ワシがアルステム王に禁忌の研究をするように仕向けたのじゃ。

 それからは、堂々と国の資金で研究できるようになり、莫大な研究費用と実験素体の心配がなくなったので、心置きなく禁忌魔兵の改良のための研究をできたわい」


 デモンは目を細め僕を見る。いや僕ではなくソマリのようだ。

「しかし……なぜそこの獣娘が禁忌魔兵にならないのかを検証しなねばならぬのぅ。獣人に効かないということはない。寝ていたからか? それとも酔っていたからか? それともなにか特別な物を服用していたか……」


 その問いに答えたのはここにいた者ではない人物が答えた。

「寝てたからッスよ」

 細目で見えにくいが、うっすらと金色の瞳を覗かせて、自信ありげに答えたのは、デモン・スティーンの片腕のドレイク・マティアだ。

「まだ片付いてなかったんッスねえ。デモンさんのことだから、きっとじっくりいじめてたんッスよね?」


「ドレイク……」

 少しふざけ混じりのドレイクに対し、歯ぎしりをして、敵意剥き出しのオリバー騎士団長。


「ボクなんて朝からあちらこちら走り回ったッスよ? ギルドを二ヵ所とヨハン道場に行って、ここまでの道の果実酒の配布先を全部回ったんッスよ? もう、ヘロヘロッス……」

 身体をダランとさせ、しぐさで超疲れたと表現してみせる。


「ところでドレイク。寝ていると禁忌魔兵にならぬのか?」


「間違いないッス。ギルド内の酒場で果実酒を飲んだ人達の中で、ベロベロに酔っていた者でも禁忌魔兵になったッス。しかし寝てしまった者もいたッスけど、そいつだけは禁忌魔兵にならなかったッス」


「ふむ……寝ているものに対しては実験をしていなかったのう……」


「なんのためそんなことをするんだ!?」

 僕の言葉に返事をしたのは、ドレイクではなくデモンだった。

「そんなこと、一つしかないじゃろ? アルステムをマクラムの国にするためじゃ。ワシがマクラムとして名乗ることが許されるためじゃよ。

 マクラム兵があと数日でここに攻め入るだろう。それまでにアルステムの王族が絶えて、国内で禁忌魔兵が暴れ続けていたら、マクラム兵に回すだけの兵士など残らぬからのぉ。

 僅かな損失だけで一国を手に入れることができるのだよ」

 デモンは嬉々とした表情で、もう確実にアルステム国はマクラム国のモノになると言っているが、オリバー騎士団長が黙っていることはなかった。


「甘く見すぎていないか?」

 オリバー騎士団長が今にもバルコニーの手すりから、飛びかかりそうな勢いだ。

「ここにいる禁忌魔兵程度で押しきられるほどアルステム騎士団もアルステム兵も弱くはないぞ? それにヨハン道場の門下生も、ギルドに所属している冒険者達もいる」


「……ふ……ふははははっ!」


「何がおかしい!?」


「そうだな……ここにいるだけの禁忌魔兵なら無理であろうな」


「……どういうことだ?」


「なぜ、ボクが朝から走り回ったと思ってるッスか? ギルドも、ヨハン刀術道場も、城下町の住人も、み~んなボクが禁忌魔兵に変えてきたッス!」


「「「なっ!?」」」


「禁忌魔兵を作るには薬剤投与をしたあとに魔法をかける必要があるのじゃ」


「薬剤投与?」

 何を言っているかわからなく、怪訝な表情を見せるオリバー騎士団長。だが僕には理解できていた。たしかに僕や、今ここにいる警備兵達が、禁忌魔兵になっていないのも納得できる。

「――――果実酒」


 僕の言葉にハッと気づくオリバー騎士団長や国王達。

 そんな中、国王とクロエ姫は腑に落ちないことがあった。

「果実酒を飲んだ人が禁忌魔兵にされるというのなら、なぜワシはならぬ!?」

「そうですわ! わたくしも飲みましたもの!」

 どうやら、国王とクロエ姫は果実酒を飲んだみたいだ。


 カレン姫に関しては、オリバー騎士団長が胸騒ぎを感じ、側にいたカレン姫にだけは伝えることができたためで、デモンの前で大っぴらに国王とクロエ姫に伝えることが出来なかったのだ。


 両手を広げ、薄気味悪い笑みを浮かべるデモンは答えた。

「なに、簡単なことじゃよ。そなたらの飲んだモノには禁忌となるモノが入っていなかったまでのこと。研究成果である、このおぞましい光景を見てほしかったのじゃ。そしてアルステムの王族である、そなたらの恐怖に満ちた顔を見たかった」


「「「…………」」」

 三人は絶句した。もう言葉が出てこないようだ。

 国王や、カレン姫、そしてクロエ姫も、デモンの禁忌の開発は知っていた。国王が決めたことなのだから娘達が口を出すことはない。

 それにあくまでも保険ということで、禁忌の 開発していたため、まさかこんな日に、こんな場所で使われるとは思ってもいなかったのだ。



 ヨハンはお酒が大好きだ。もしヨハンが禁忌魔兵になっていたら、とんでもないことが起きる。どうか飲んでないことを祈っておこう。


「今日の警備や護衛を朝と昼、交代で行うようになっているじゃろ? いま交代で休憩に入っている騎士団の連中や兵士にも果実酒を配っておいたからのお」


「てめぇ!」

 オリバー騎士団長は落ちていた剣を拾いあげ、デモンに投げつけるが、やはり魔法障壁に弾かれてしまった。


「ドレイク。研究施設からアレを連れてきたか?」

「はいいー。勿論ッス! そッスねえ。デモンさん。ハル少年と戦わせてみませんか?」


「そうじゃの……しかし、少年の身体を調べてみたいし、後にはワシの駒として使いたいから、ほどほどにしとくのじゃぞ?」


 なに? なにと戦わせるつもりだ?


 ドレイクが杖を光らせ、僕を見ながら何やら呟いているようだ。

 すると門から大きな巨体がこちらに歩いてくるのが見えた。

 その巨体の正体は、銀色の毛を纏い、目を赤く光らせたガウルだった。



久しぶりの登場のため、人物紹介


◆ガウル

鉱山労働の実刑を受けたハルが、鉱山の施設内牢で出会った、新種族のガウル。

どこから来たかもわからない見たことのない新種族で、言葉が通じなかった。しかし、ハルは神様からのギフトのおかけでガウルと話すことができる。

故郷に帰りたいと願うガウルを、逃がしてあげるとハルは約束をしてしまった。

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