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第五十六話 進歩

 

 ――――――次の日の朝。



 窓から入る朝日が僕を起こした。


 …………あれ? なぜ絨毯(じゅうたん)の上で寝ていたのだろう? ベッドから落ちたのかな?


 ――――――あっ。


 慌ててベッドの上を覗くとソマリが寝ていた。

 ピクピクと耳が動いてるのが可愛らしい。


 ソマリが寝返りをしてこっちに顔を向けると、パチリと目が開き、ソマリの寝ぼけた目と僕の目が合った。


 すると僕の頭の後ろに手を回してきて、ベッドに引きずり込まれてしまった。


「寝込みを襲いにくるなんてっ」


 ソマリは嬉しそうに僕をぎゅうぎゅう抱き締める。


「ち、ちがっ! ここ僕の部屋ですよ!」


 ピタリと動きが止まるソマリ。


 なにか思い当たる事があったかのように「あぁ……そういえば」と言いながら、また抱き締めている腕に力が入る。


 すると扉を叩く音した。


 僕とソマリのお世話をしてくれているメイドだ。


「失礼します」


 扉を開けて部屋の中を覗かずに「ハル様、まもなく朝食です」といつも起こしに来てくれるのだ。


 しかし、今日は違った。


「ソマリ様がいないようですが、何かお聞きしていますか?」


 と、開いた扉から顔を出さずにソマリの行方(ゆくえ)を聞いてきた。


「えっと、あー」


 僕が返事に迷っていると、ソマリが元気よく返事をした。


「ソマリここにいまーす」


 って、ばかばかばか!


 ソマリがいることに安心したメイドは「そうでしたか」と、着替えを渡すために部屋に入ったが、すぐにバックして廊下に出ていった。

 ベッドの上でソマリに抱き締められている所を見られたのだ。


 メイドは僅かに開いている扉から、顔を出さずに「朝食はもう少し後で……と伝えておきます」と、変な気の使いをして扉を閉めた。


 ソマリをひきはがして廊下に出ると、メイドは着替えの入ったカゴを廊下に置いて、立ち去るところだった。


「いや、そういうことはしてないですよ!?」


「グレーム家に迷惑がかからないのなら、ハル様とソマリ様が何をしていらしてもいいのです。わたくしは何も見ていませんので……」


 ああぁ、すごい気を使われている。メイドに絶対勘違いされてる。これから気まずくなるのは困る。


「ハル様、早く着替えて朝食行きましょう」


 ソマリは普段着に変わっていた。って、はやっ! というか、何も気にしていないソマリを見ると、僕だけが空回りしてるみたいで、なんかくやしい。


 後で尻尾をつまんでやる! ふんっ!




 朝食を済ませた僕達は、朝一番で騎士団施設内のオリバー騎士団長の応接間へ向かった。


 盾を蹴ったソマリの足は腫れは少し引いてきたみたいでひどい事にはなっていないようだ。

 しかし、まだ痛むのであろう、足を引きずりながらヒョコヒョコ歩いているので、ソマリに合わせ、手を引きながら歩いている。残念なことに僕の背が低いので肩をかせないのだった。



 オリバー騎士団長の執務室に入り、挨拶を済ますと僕はソマリの方をチラリと向いた。

 めずらしく察したソマリは「えっ!? 今日も私は外ですか!?」と、ショックを受けつつ、抵抗もしないままトボトボと廊下に出ていった。


 そんなソマリを、哀れむような顔でみるオリバー騎士団長。


「今日はどうしたんだい?」


 昨日より机の上の書類が増えている気がする。昨日事務仕事を放ったらかしで、長い時間訓練広場にいたからか……。

 用件だけ言って早くこの場を離れた方が良さそうだ。


 オリバー騎士団長に、鉱山で収納されているガウルと会話が出来ること、ガウルは敵対心があるわけではなく、故郷の一族が移住できるような場所を探すために、遠いところから来たということを説明した。



「ハル君からの相談事はいつも驚かされる……話す事が出来るのならば友好的な話し合いも出来るだろう。しかし、ガウルの解放は難しいだろう」


 オリバー騎士団長だけで解放の決定はできない。国王やデモン・スティーン、他の重臣達との協議が必要となる。


 それに会話ができるという前提のになるため「ガウルの意思がどうしてわかった?」と必ず言われる。そう聞かれてしまうと説明のしようがない。

 やはり僕の考えは甘かったようだ……。


「力になれなくて悪かったな……」


 申し訳なさそうにするオリバー騎士団長だが、元々無茶を言った僕が悪いのだ。


「ガウルの研究については、デモンの管轄なのでな。先日のハル君とキールの件でドレイクにも探りを入れたかったし丁度いい」


 オリバー騎士団長から、デモンがこれからガウルをどうするつもりなのか、解放する気はあるのか等を聞いてくれるという。


 僕はオリバー騎士団長にお礼を言って、執務室から出ていった。



 扉の前では大人しく座るソマリがいた。


「ソマリさん、お待たせしました」


「…………」


「ソマリさん?」


「…………」


 どうやら二度も邪魔者扱いしたことに怒っているようだ。


「怒ってるんですか?」


「怒っていません。すねてるんです」


 あぁ……似たようなものだけど……などと突っ込むわけにはいかずに、どう慰めようか考えてみた。


「ソマリさんの短剣を弁償するためにも、ギルドに依頼を見に行きませんか?」


「……私……足が完治していないのでいけません……」


 ばっ! と、顔をこちらに向けたソマリは『ひらめいた!』みたいな顔をしていた。


「ハル様がお姫様抱っこしてくれるならいきます!」


「治ってから行きましょうね」


 そんな恥ずかしいこと出来るわけがなく、すかさず却下すると、顔を膨らませてから顔を下に下げてしまった。


 なんとか機嫌を直してもらわないとっ。


「きょ、今日は部屋で遊びませんか?」



「…………ずっと、遊んでくれますか?」


 ソマリは(うつむ)いたままボソリと呟いた。


「もちろんです。お話ししたり、なにか遊ぶものがないかメイドさんに聞いてみましょう」


 顔をあげたソマリはいつものソマリだった。



「今日も来てたのか」


 声の主はジャックだった。


 ソマリは特に気にすることなく立ち上がり、その場を去ろうとした。

 僕はお辞儀をして、ソマリを追いかけた。


「おい、ソマリ」


 ジャックがソマリの事を名前で呼ぶのは初めてなので驚いた。

 勿論ソマリも驚いて振り向いていた。


 頭をボリボリかきながら照れ臭そうにしているジャック。


「その、なんだ…………今度は負けねえからな」


 それだけいうと、背を向けてオリバー騎士団長の執務室の扉をノックをした。


「ふふふ、次も勝ちますけどね」


 ドヤ顔のソマリを見て、ジャックは頬をつり上げてにやけ顔になったが、すぐに真面目な顔に戻りオリバー騎士団長の執務室へ入っていった。


 いつもぶつかってばかりの二人だったが、少しは仲良くなれそうな気がしたのは僕だけではないだろう。


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