第五十五話 ソマリとの約束
小さめの部屋の至るところにランプがあり、部屋を明るく照らしていた。綺麗で大きめの丸テーブルと椅子が三脚。使用人が料理を並べていく。
この部屋には僕とソマリ、そしてクロエ姫がテーブルを囲んでいた。
クロエ姫とはこうして話し相手をするのも客人である僕達の大事な役目である。
「――――と、いうことがあったんですよ」
食事を前に楽しそうに話すソマリに、クロエ姫は目を見開き叫んだ。
「ななななっ! なんでわたくしを呼びに来てくださらなかったの!?」
バンッ! と、料理の並ぶテーブルを叩き、前菜とスープが跳ね上がった。
幼少から、オリバー騎士団長に剣術を習っていたクロエ姫なら、当然こういう反応するだろうことはわかっていた。
騎士団施設の訓練広場で夕方まで身体を動かし部屋へ戻ると、クロエ姫の飯使いがやって来て、夕食会をしましょうとお誘があった。
ソマリには「昼間の出来事は黙っておきましょう」と言っておいたのに、痛む足を引きずるソマリに、クロエ姫がどうしたのか訪ねたところ、ポロリと昼間の事を言ってしまったのがきっかけで、その後、永遠と話続けたというわけだ。こんなポロリは勘弁……。
「次はクロエ姫も一緒にやりましょうね」
僕は当たり障りない事を言っておくことにした。
しかし、僕の中のクロエ姫なら「今からやりますわよ!」とか「次誘わなかったら死刑ですわ!」など冗談目かしたことを言うだろうと思ったのだが、予想を裏切ってくれた。
「もうすぐ、お姉様の成人の日なので準備が忙しくて、しばらくは行けそうにありませんわ……」
えっと、この世界の成人って十五だよね? あれ? お姉さんがもうすぐ十五ってことは、あれ?
「えっと、女性にこんなことをお聞きして失礼かと思うんですけど、クロエ姫って今……おいくつですか?」
「十三ですわ」
うそおおおっ!?
「僕より背が高いですし、大人っぽい綺麗な顔立ちなのでクロエ姫はもう成人しているかと思いました……」
「あら、そんなお褒めの言葉は今まで沢山の人から頂きましたわ」
そう言いながらも、嬉しそうに頬を赤らめていた。
クロエ姫のお姉さん、つまりアルステム国、国王の長女だ。お姉さんの成人の日には、正面の城門のみ解放し正門から城までの直線を一般の人も通れるようにするらしい。
そして、城の三階部分にある正面バルコニーから、お披露目するとの事だ。
そうなると騎士団の方達もこれから忙しくなるのか……。
食事も終わり、自室のランプを消していく。ベッド付近の一つのみ消さずにそのままにしておく。
前世みたいに、夜にテレビを見て夜更かしをすることもない。外の車のなどの音がうるさいということもない。
城の外の宿屋とかなら、馬車の音などはするかもしれないが、ここは城の客室ということもあり、とても静かである。
鉱山で約束したガウルとの約束もあるしな……。
あああ、勢いで助ける何て言っちゃったけど、忍び込まないといけないんだよな。
鉱山まではそれほど遠くなかったから、僕が一人で走れば半日で往復できる。
問題はガウルを牢から出したとして、どうやって見つからないで塀を越えるかだな……。
塀の上の見張りを気絶させておいて、ロープで登ってもらうしかないか。
ガウルが収納されている牢から塀まで少し距離がある、僕一人なら屋根の上にもいけるし、どうにでも逃げようがあるが、ガウルと一緒だと目立ちすぎるし屋根には上がれないだろう。
他にも問題はある。そもそも気絶をさせれるかという問題だ。
首の裏? 顎先? ちゃんと気絶してくれるのかな……野盗相手だったらそんなこと気にしなかったが……。
真面目に警備の仕事をしている人を殴り殺してしまうかもと思うと気が引けてしまう。
オリバー騎士団長なら、ガウルのことを説明すればなんとかしてくれるかもしれない。僕がガウルと会話ができることを話せばきっと力になってもらえるはずだ。
明日相談してみよう。
ベッドで横になり、あれこれ考え事をしている間に眠ってしまった。
扉を叩く音がして、うっすら戻る意識。
「ソマリです」
…………ソマリだ……ベッド横のランプがすで消えていて、部屋の明かりは月明かりだけだった。
扉を開ける音がして視線を扉に向けると、寝着用の白のワンピースが月明かりに照らされて、とても綺麗に見えた。
僕の意識は一気に覚醒した。
ソマリは扉を閉め、僕が寝ているベッドへ近づいてくる。
僕はベッドから降りようとしたが、ソマリが倒れこんできて押し倒された形になった。
僕の心臓がバクバク高鳴る。
僕の胸に顔を押し付け、ぎゅっと服をつかむソマリ。僕の高鳴る心臓の音が聞こえてしまうんじゃないだろうか……。
…………。
……ソマリは泣いているようだ。肩を震わせ、僕の服を握る手も震えていた。
「ハル様は……いつか……いなくなっちゃうんですか……」
泣きながら絞り出した声は、いつもの元気なソマリからは想像できないような弱々しい声だった。
「ど、どうしたんですか? 突然……」
「……ハル様が私の届かないところにいて……いくら走っても、手を伸ばしても、大声出しても、笑ってくれるだけで、どんどん離れていってしまって……」
夢の話?
「……僕はここにいますよ」
ソマリの震える肩を、手で優しく包み込む。よほど怖い夢だったのだろう。
僕の上に乗っかっているソマリは、ようやく顔をあげた。
「……ずっと?」
潤んでいる瞳は月明かりで照らされてキラキラしていた。寝ていたからであろうか、顔はトロンとしていて、とても色っぽく見える。
「ソ、ソマリさんが素敵な人を見つけるまでなら……」
こんなソマリに襲われたら、とても抵抗なんてできない。いや、抵抗なんてするつもりはないのかもしれない。
多分、僕の顔は真っ赤だろうが月明かりが逆光のため僕の顔色まではわからないだろう。
瞳に涙を浮かべたまま、にへっと砕けた笑顔を見せて「約束ですよ……」と言って僕の胸にまた顔を埋めた。
このあとどうなってしまうのかと、僕はドキドキしながら必死に冷静さを保っていると、ソマリから小さな寝息が聞こえてきた。
…………ほっとしたような、残念だったような……。
僕はゆっくりソマリをベッドに寝かせ布団をかけてあげた。
あ……どこで寝よう……。




