第五十二話 秘密
「その前に……ソマリさんは外で待っていてください」
「えっ? えええええ!?」
当たり前のように一緒に聞こうとしていたソマリに外に行くように言うと、本気で泣き出してしまった。
「なんで、なんで私はダメなんですかああぁぁ」
ソマリを扉の方へぐいぐい押すが、踏ん張って抵抗をしてくる。
「あー、ソマリ君。きっと女性には言いにくい男同士の話なんだと思う。だから察してあげなさい」
オリバー騎士団長の発言を聞き、抵抗が緩み僕にぐいぐい押されていくソマリは「あ~……ハル様のおませさん」などと言い頬を赤らめながら、とても検討違いな勘違いをしているソマリをドアの外に押し出し、ドアを閉めて鍵をかけた。
あとで勘違いをしたソマリを相手にするのが疲れそうだ……。
さて、口が軽そうなソマリはいなくなった事だし、本題をオリバー騎士団長に話すことにする。
「オリバー騎士団長は僕の事をどう思いますか?」
「どう……とは? 友としてみているが?」
「あ……そうではなく、えっと、大剣を振り回したりする僕を……」
オリバー騎士団長の前ではかなり派手に動き回っているので、相当規格外の行動をみせている。
椅子に前屈みで座っていたオリバー騎士団長は「ああ、そのことか」と、呟きながら姿勢を変え、背もたれにもたれた。
「普通では、ない……とは思っている」
……ですよね。
「ただ、その力をどう使うか、何のために使うかが問題だと思っている。そのため、君を客室に招き監視をすると、私自身がアルステム王に進言をして、君の監視と君の処置を決定する役目を受けたのだ。
騎士団長としての仕事に、クロエ姫のわがままを聞き、そしてできる限り時間を割いて、自分自身で君の監視をしていたから大変だったよ」
クロエ姫のわがままって……しかし、得たいの知れない僕をどんな人物か判断するために客室に招くのは、かえって危険なのではないだろうか?
そのことについて質問すると「そんな心配はしていない、王の間までは絶対にたどり着けないから」と言われた。
魔法のある世界だ。きっとなにかあるのだろう……それについては僕が知る必要がないし、余計なことは言わないでおいた。
「それで……それだけかね?」
「いえ、これからが本題で……ずっと黙っているつもりでしたが、僕は普通じゃないと自覚しているし、力を隠して生きていくこともできなさそうなので力になってもらおうかと。そのために全てを話そうと決めました」
「ふむ……後ろ楯になってほしいということかな? こちらへの見返りは?」
「後ろ楯というか、そこまでしてもらわなくてもいいんですが、ただ僕を危険人物扱いして抹消するとか、身体を開いたりして調べるとか、そういうことがなければいいんです」
オリバー騎士団長は眉を寄せ「そんなことはしないから安心しろ」と話を続けるように促す。
「見返りは、騎士じゃないのでやれることは少ないと思いますが、オリバー騎士団長のお仕事の手伝いとか……先日の大蜘蛛の討伐みたいな人手が必要な時、クロエ姫の護衛とか、僕に手伝える範囲……ですけど……どうですか?」
「ほう、こちらがかなり得な気がするが? それでいいのかい?」
「はい。あとは、これから話すことを絶対にオリバー騎士団長だけの秘密にしてもらえれば」
僕の話を、興味津々の様子で机に乗り出すように肘をついた。
「わかった。私と君だけの秘密にする。約束しよう」
僕は前世で死んで、神様にこの身体に転生したこと。その時に力を別けていただいたため、この規格外の力があること。麻痺針や毒料理の事、全てを打ち明けた。
スッキリした反面、これからのオリバー騎士団長からの対応がどのようになるのか心配だ。
オリバー騎士団長は机に肘を置き、両手をおでこに当てて顔を伏せているため、どんな表情になっているのかわからない。
しばらく無言になり、僕はオリバー騎士団長の返事を待つ。
「神様……転生……神の力……毒や麻痺が効かない……他の世界……」
大きなため息のあと、顔を伏せたままブツブツと呪文のように声に出し始めた。
「たしかに……君の話と、こちらの調べた情報、そして今までの戦いをみると疑う余地はないんだが……神様か……」
そりゃ、本当に神様がいるのか疑うよね。この世界がどれほど神様への信仰があるのかわからないけど、孤児院では食事の前に軽くお祈りの言葉を述べる程度だった。
教会はあるが規模は小さい。墓地が広く亡くなった人を埋葬するための教会という認識だ。もちろん神への信仰が強い人もいるが多分少ないだろう。
「君になにかしたら神罰が下るとかあるのか?」
「今のところ、そういうことはないみたいですけど……それよりも、僕の方が色々と心配なんですよ。なにか悪いことをしたら、この力が消えてしまうとか……あ、もちろん悪いことをする気はないんですが、この前みたいな不法入門で捕まってしまった時は、もしかして力が消えるかも? とか思いました」
「なるほど、君にもわからないということか……麻痺や毒はどこで経験したんだい?」
野盗に襲われた時の事、キールに呼び出されて食事をした物に毒が入っていたことを説明すると、今まで以上にない悩み方をした。
「まずいな……ドレイクがキールや雇われた奴から君の身体の事を聞き出していたら、どんな手を使って、君に検体に協力するように差し向けることか……」
「オリバー騎士団長の言い方だと、ドレイクさんって相当ひねくれてるというか、悪い人に聞こえるんですけど、なにかされたんですか?」
「いや、なにもされてない。が、私は嫌いだ」
根拠のない『嫌い』だったようだ。感じの良い、いつも笑顔で、それほど押しも強くなかったし、悪い人には見えないけどな。
でも昨日の別れ際の口元だけは少し背筋がゾクッとした……。
「ドレイクに関しては私の方から探りを入れてみる。君はできるだけソマリ君や他の者と行動するように」
「わかりました」
「君は別の世界で死んだと言っていたが、元いた世界はどんな所だったのだ? ここの世界より魔法は進んでいたかい?」
地球には魔法がなかったこと、その分、科学が進んでいて、車という乗り物が馬よりも何倍も早く走る事、何百という人を乗せて空を飛ぶ飛行機の話をすると「魔法無しでそんなことが可能なのか」と強烈な驚きを見せ、まるで子供のようにキラキラした顔で僕の話を聞き入っていた。
「いかんな、君の話が楽しくて仕事を忘れてしまいそうだった……」
机の上には書類の束が置かれていて、忙しいのがわかる。
「お仕事中にすみませんでした」
「いや、こちらが引き留めていたからな、またじっくり話を聞かせてくれ」
オリバー騎士団長は手元の書類に判子をバンッと押し付け、立ち上がると僕と一緒に部屋を出た。
「あれ……ソマリさんがいない……」
勝手に歩き回ったら怒られるかもしれないのに……。
「ふむ……もしかしたらソマリ君は訓練広場にいるかもしれないな」
オリバー騎士団長は何か心当たりがあるようだ。周りにソマリがいないか探しながら、僕達は訓練広場に向かった。
「朝、隊員が揃うとリアムかジャックが私を呼びにくるんだが、今日は来なかった。いや、来たかもしれないがソマリ君が部屋の前に居たからな。ジャックが呼びに来ていたとしたら……」
あ~、その先は想像がつきそうだ。
「あの二人仲悪いですよね……」
訓練場につくと騎士達が騒がしい。沢山の騎士達が何かを囲んで「いけえ! そこだあ!」などと、盛り上がっている。
僕の背では何をやっているのか見えないが、ソマリが関わっているだろうということはわかる。だって、隣のオリバー騎士団長が「やはりか……」と呟き、大きなため息を吐いたからだ。
人混みに近づかないように、オリバー騎士団長は立ち止まり、そのまま様子を伺うようだ。あの、オリバー騎士団長、僕は背が低くて見えないんですが……。
そう思った矢先、ひょいと僕を持ち上げ肩車をしてくれた。まるでお祭りなどで見かける親子のようだ。
ドーナッツ状に広がっている騎士達。その中央ではソマリとジャックが一目で訓練用とわかるように着色された、刃の潰した武器で戦っていた。
ソマリの怪我もほぼ治っていたし、蜘蛛討伐に付いてきた時から身体を動かしたくてムズムズしていたみたいだ。
ジャックと戦うソマリはとても楽しそうだ。




