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第五十三話 副騎士団長ジャック

王都アルステム騎士団、副団長ジャック視点のお話です

違った目線のお話もいいものですよね

 

 俺はジャック。朝は苦手だが副団長である俺は遅刻などしない。騎士団の中でオリバー騎士団長の次に強いのは俺だ。

 だが他の騎士に追い付かれないように腕を磨かねばならない。


 そしてもう一人の副団長はリアム。腕こそは上から五番目くらいなのだが頭がよく、気も効くし、人望も高く、治療魔法や攻撃魔法もそこそこ使えるため、団長の側近として副団長に選ばれたのだ。



 最近、ようやく団長のお気に入りの少年ハルの監視解除が決定した。


 正直あの少年に肩入れしすぎだと思う。たしかに野盗を倒したときの動き、魔物化した虎を倒した一撃は凄まじいものだった。


 しかし、あの力の秘密を探るなら騎士団の仕事ではないと思う。研究所のやつらに回せばいいのだ。

 騎士の仕事は子守りではない。


 それなのに事あるごとに、ハル君、ハル君と、やたらと付いていこうとする。

 もしかして団長は可愛い男の子が好きなのでは……と疑ってしまうほどだ。


 団長がついていけないときは、他の隊員が付き添うことになるため最悪の場合、俺が付き添うことになってしまう。



 百歩譲って『少年の監視』という仕事なのだから付いていくのはやむ得ない。まだ……まだ、我慢はできる。

 しかし、少年の側にいるあの獣女はダメだ。副団長である俺に対しての態度がひどい。口が悪い。少しくらい可愛い顔をしていて、腕がたつといっても、しょせん獣だ。

 獣の血が混ざっているのだから魔物化する可能性がゼロではない、と思う。危険で汚れた血なのだから。


 だが、剣の技術は認めざる得ない。

 獣人でありながら、国王陛下に腕を認められ、アルステムの三剣と呼ばれた男、ラグドールの娘らしい。


 クロエ姫の前で剣舞を舞った時は、クロエ姫と団長に無様な姿をお見せしてしまった。

 剣舞だから盾は無粋だと思い、剣だけで獣女の相手をしたのが失敗だった。あそこまで早い動きと素早い剣さばきができるとは……。

 それに女のくせに体力もあった。それも獣の血のせいなのか?


 そのうち必ず再戦をしてやる。団長仕込みの盾さえ使えれば短剣ごときに遅れはとらん。


 ん? そうだ、俺が二人に付いていって再戦を申し込めば良いのでは?

 いや、どこで戦うというのだ……。

 その辺りの広場でやるわけにはいかないし、ヨハン刀術道場でやるわけにもいかない。


 それに、監視は解除されたのだから、もう再戦のチャンスはないかもしれない。くそっ……。


 この騎士団の訓練広場なら武器も盾もあるし、誰にも迷惑がかからない。

 なんとかこの広場に誘い込めれば……。



「ジャック副団長、揃いました」


 胸に拳を当て、敬礼する部隊長。周りを見渡すと整列している隊員達。リアムは他の部隊長と話し込んでいるようだ。


 よし、俺が団長を呼びに行くか。




 建物に入り廊下を進むと、団長の執務室の前で、獣女がべそをかいて座り込んでいた。


 …………なんでこいつがここにいるんだ?


「おい、獣女、邪魔だ」


 座り込む獣女は、ドアを開けるのに邪魔ではなかったが、存在が邪魔なのだ。


 俺を見るなり、半べその顔が急に険しくなる。


「この中には入らせません。というか鍵がかかっているため入れません」


「なに? 中には……少年がいるのか?」


「そうです。今は男同士、大事な話があるということで、私は外に……外に……グスンっ」


 なんだこいつ、のけ者にされたのか。ざまあみろだな。

 しかし、この獣女に聞かせられないような内容ということか……。


 男同士の密会……。いや、団長はそんな趣味はない……はず。



 ドアをノックしようと手を伸ばすと、獣女が腕をつかんできた。

「今は大事な話をしているので邪魔はさせません」


「おい獣。俺に触るな」

「あ……うげげ。触っちゃった……手に腐るううう」


「て、てめぇ……お? そうだ、おまえの腕もそろそろ治ったんじゃないか?」


「治っていたらどうっていうんですか?」


「俺と模擬戦をしないか? いや、模擬戦をしろ。まさか逃げないよな?」


 獣女は鼻を「ふんっ」と鳴らし得意気な顔した。

「あらあらあらぁ? よほど剣舞が悔しかったのかしらぁ?」


 こ、こいつ……ぶっ殺す!


 俺が振り返り「ついてこい」と手で合図すると黙って付いてきた。

 よし! ここなら心置きなくぶちのめせるぜ!


 しかし、問題はリアムだ。くそ真面目なやつだからな、止めに入るのは目に見えている。それに隊員の手前、副団長としてどうなのか、いや騎士が侮辱されて黙っておけないだろ。



 俺が広場に姿を現すと、隊員達は団長も続いて来ると思い、皆の顔が引き締まり話し声も消えていく。しかし、姿を表したのは獣人の女だったため、隊員はざわつき始めた。

 中にはこの獣女が城に滞在しているということと、かなりの手練れということは知っている者もいる。実際にその戦いぶりを観たことがあるのは野盗に襲われたときにクロエ姫の護衛として付いてきた隊員のみだけだ。



 リアムが俺に寄ってくる。


「ジャック、団長を呼びに行ったんじゃなかったのか?」


「それが少年と大事な話をしてるんだとさ。それで話が終わるまで、こいつと模擬戦をしようと思ってな」


 広場に用意されていた訓練用の短剣二本を獣女に弧を描くように投げ渡した。

 パシッパシッっと、器用に二本とも受け取った獣女は、重さや握り手を確認しながら素振りを始めた。


「おい、団長に叱られるぞ!」


 リアムの心配はもっともだが、毎度毎度バカにされて腹が立っているのだ。


「騎士がバカにされて黙ってられるか。それに手練れの模擬戦を観るのも勉強になる」


 俺は苦しい言い訳をする。諦める気がない俺を見て、リアムはため息を吐いた。「また、口喧嘩をしたのか……」と呆れている様子だがそれに関しては獣女が悪い。


 俺も訓練用の剣と盾を持ち、軽く剣を振る。いつもの訓練用の使いなれた物だ。腰に下げている剣ほど軽くないため、スピードは落ちるがそれは獣女も同じだ。

 今日は盾もある、俺の実力を見せてやる。


 俺は地面に剣を刺し、引きずり出した。やや大きめの円を描き「この中に入るなよ」と観戦をする隊員に注意を(うなが)す。

 獣女は、上や左右に跳ねたり、屈伸をしたり、準備運動を続けていた。病み上がりで身体がなまっているか?


「おい、身体ができてないなら後日でもいいぞ? お前が負けた時の言い訳にされかねんからな」


 膨れっ面になり「そんな事いいません」と機嫌を悪くするが、こいつは負けたとき絶対に言い訳をするだろう。しかし、こうして前もって言っておけば言い訳できまい。

 仮に「後日に」と言われても、俺はこいつと再戦できるならいつでもいい。約束さえ取り付けれれば問題はなかった。


 剣を自分の顔の前に掲げ、騎士流の決闘前の挨拶をする。


「俺は王都アルステム騎士団、副団長のジャックだ。騎士道に恥じぬ戦いを誓おう」


 獣女は両手を大きく上げ、観戦している隊員に語りかけた。


「ソマリといいます! 応援お願いします!」


 俺みたいに獣人が嫌いな隊員は怪訝な顔したが、獣人に対し抵抗のない隊員共は、爽やかな笑顔の虜にされた。 まるで大道芸の挨拶のようだ。それに俺への挨拶はなしかよ!?


 周りからは早速応援エールが飛び交った。


「ソマリがんばれよ!」


「ソマリちゃん可愛いね!」


 呑気に手を振る返す獣女。


 獣女に向けて応援エールを送っている隊員を睨むと声が縮んでいった。



 周りの雑音が減ったところで俺は武器を構えた。同じように武器を構える獣女。

 獣女は少し腰を落とし、両手の武器を前に出す構えだ。自分の間合いを計りやすくするためだろうか。

 お互いの攻撃範囲を見極めながらじりじりと距離を調整していく。


 短剣の二刀持ちは接近戦の短期決戦だろう。まぁ……万が一、距離を詰められても俺のガードは越えられないだろうし、シールドアタックで体勢を崩せれればこっちのものだ。


 俺が攻撃を仕掛けるフェイントをしてみたところ、微動だにしない。この獣女はかなりの手練れだということがわかる。ギリギリで受け流すか、避ける自信があるのだろう。


「どうしたんですか? フェイントばかりで……もしかしてびびってるんですか?」

 牽制をしている俺を小バカにするように小さく笑う獣女。


 調子にのりやがって! その挑発に乗ってやろうじゃないか!


 俺は短剣で防ぎにくい下段に攻撃を仕掛けた。獣女は軽いステップや後ろへのジャンプで華麗に避けていく。

 俺が大きな隙をみせないためか、獣女は牽制のような攻撃しかしてこない。


 しかし、必ずどこかで距離を詰めてくる。


 相手が深く踏み込んで来ないのは、俺の盾を警戒しているからだろう。そう思っていた矢先に今まで一定の距離を保っていた獣女が、一歩踏み込んできやがった。

 チャンスか誘いかなんて悩んでいる暇はない。咄嗟に大盾で突き飛ばそうとしたが、獣女が俺の視界から消えた。


 いや、消えたのではない。自分の大盾で見えないだけだ。大盾の死角に入られた。


 反射的に横に回避した。獣女の地を這うような低い姿勢からの足を狙った斬擊が空を切った。

 俺は咄嗟の回避により体勢を少し崩していた。それを見逃すやつじゃなかった。一気に距離を詰められ相手のペースになってしまった。


 俺は後退をしながら獣女の攻撃を捌くので精一杯になっていた。僅かな隙も見せずに縦横無尽に短剣が向かってくる。

 そして常に俺の左手にある盾の死角に潜り込もうとするいやらしい攻撃だ。いままでここまで死角入られる戦いはなかった。

 獣女のスピードと低い姿勢がそれを実現させている。


 剣盾スタイルは鉄壁な防御から、相手の隙をついて攻撃を当てる。シールドアタックはチャンスがあればどんどん使い、相手の姿勢を崩したり、主導権を握ることができる。


 最初は接近されたらシールドアタックで突き飛ばしてやろうと思っていたが、こいつはヒラリと避けたり、当てたと思ったらタイミングよく後ろに飛んでいて姿勢を崩すことなく着地し、すぐに距離を詰めてきやがる。


 そして今、まさに同じように軽いバックステップで俺のシールドアタックを回避しやがった。獣女はすぐ距離を詰めてくる――――――跳んだ!? バックステップは助走のためだった。やつは俺を飛び越すくらいの高さの宙返りをしている。


 どんな攻撃をしてくるつもりか知らないが宙返りをしている獣女を攻撃してやろうと思ったが、瞬時に盾を真上に構えガードに切り替えた。

 やつの空中攻撃を確実に防ぎ、着地の瞬間を狙えば圧倒的にこっちが有利である。勝利へのシミュレーションが出来上がり、鼓動が高鳴る。


 しかし、何故か盾がズシっと重くなったと思った瞬間、盾が横方向からの強い衝撃を受け、盾ごと飛ばされてしまった。

 転がり起きた俺は、何が起きたかわからないまま視線を獣女に向けると、黒い物体が俺の目の前にはあり、オデコに強い衝撃を受け意識を失ってしまった。


次回ハル視点に戻ります

いつも読んでいただきありがとうございます

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