第四十五話 再び蜘蛛討伐へ
◆デモン・スティーン
六十歳ほどの老体だが、王都アルステム王宮魔法使いの総司令であり、王都の魔法研究本部長も務める。秘密裏では禁忌とされている洗脳魔法を密かに研究している。
◆ドレイク・マティア
眼鏡を掛けて、天然バーマの金髪、いつも深緑色のローブの上に白衣を羽織っている。デモン・スティーンの手足となって禁忌とされる洗脳魔法を楽しんで研究している。まだ若いが、サイゼンの街にある魔法研究施設の支部長である。
――――次の日の早朝、蜘蛛討伐へ出発のため門の前に集まった沢山の冒険者達。
僕、ソマリ、ラルクの三人は、出発前の準備や編成で忙しそうなオリバー騎士団長から離れて、一般冒険者の中に混じって待機している。
冒険者の参加数はざっと百人はいるだろう。
そして彼らを指揮するのは勿論オリバー騎士団長だ。
側には顔馴染みのリアムと、王宮魔法使い数人が来ていた。青を基調色とし、金色の柄の入った高価そうなローブに身を包み、高純度の魔法石の付いた杖を持っている。そんな装備にうっとりする一人の冒険者。
「私、王宮魔法使いって憧れちゃうなぁ」
「あの装備一式で、俺らの年間の稼ぎくらいあるんだよな?」
「うんうん、そうらしいよぉ。今回の討伐でいいところ見せたら、目に止まらないかしら? そして私も王宮魔法使いの仲間入り……できるわけないかぁ……」
女魔法使いが肩を落としてがっくりしている。ウキウキして目を輝かせたり、ガックリしたり忙しい人だ。
そんな彼女をみていると、僕の視線に気がついた女魔法使いの仲間が僕に声をかけてきた。
「ボウズ、いかにも駆け出し冒険者って感じだが、この討伐依頼では魔物の蜘蛛も混じってるらしいぞ。まだボウズには早いんじゃないか?
あー、荷物持ちか。それならそんな大きな剣を持っていても不思議じゃねぇな。転ばないように気をつけて運べよ! ウァッハッハッ!」
僕と同じような大剣を背負う、体格のいいスキンヘッドの大男が僕の頭をワシワシ撫で回す。それを黙って見逃すソマリではなかった。
僕の頭を撫で回している大男の手を払いのけ、小馬鹿にするように大男に言葉を投げつけた。
「ハル様は荷物持ちなんかじゃないですよ。あなたこそ、その背中の剣に振り回されて周りに迷惑かけないでくださいねっ!」
「なっ! 獣人のくせに! 女だからって俺は容赦しねえぞ!」
「へー!? どのように容赦ないのかみせてもらおうじゃないですかー!」
スキンヘッドの大男は頭を真っ赤にして今にも襲いかかりそうな勢いだ。周りの冒険者達はこういったいざこざは大好物のようで煽ってくる。
ずっと気になっていたけど、ソマリは喧嘩っぱやいと思う。獣人ということもあり、絡まれることもあるとおもうが、それに対して反発してしまうのだ。たしかに人種差別をされれば腹もたってしまうかもしれないが……。
だがこのまま黙って喧嘩をさせるわけはない。ソマリの頭に力強い手刀を落とすラルク。スキンヘッドの頭には持っていた杖で殴る女魔法使い。
二人とも言葉にならない声を出しながら、しゃがみこんで痛みを堪えていた。
「これから命をかけた戦いがあるのに、仲間割れしてどうするんだ」
さらっと正論を言い、ソマリの襟元を掴み引きずっていくラルクはいつもより頼もしく見えた。けれど……ラルクがそれを言うのかっと、密かにツッコミをしてしまった。
しかし大男の方は納得いかないみたいで、引きずられていくソマリに、無言で手を伸ばし掴みかかろうとしたが、僕は大男の手首を掴みそれを阻止をする。これ以上続けば本当に喧嘩になってしまう。
「ぁあっ!? くっ! う、動かねえっ!?」
振り払おうとする大男の腕は、血管が浮き出るほど力を入れているが動かない。ソマリとの距離も取れたし、僕は大男の手を離した。
力を入れて振り払おうとしていた大男は、勢い余って女魔法使いを殴ってしまった。
「ああっ、ローラ! すっ! すまん! このボウズがっ……」
頬を押さえながらゆっくり立ち上がる女魔法使い。名前はローラというのか。
「ふ……ふふふふ……」
ローラの顔は笑顔なのに凄く怒ってるようだ。大男さん……御愁傷様です。
不適な笑みのまま黙って大男の尻を蹴り続けるローラ。僕はラルク達と合流するためにこの場を去った。
「腕の怪我はどうですか?」
ソマリの包帯の巻かれた腕を見ながら問いかけた。
「まだ少し痛いですけど見た目ほど酷くはないんですよ」
そう言って腕をグルグル回して見せた。
「そろそろ私もウズウズして、我慢できなくなってきまして。でも蜘蛛相手なので今日は我慢しておきます……ハル様みたいに私は蜘蛛を克服できそうにありませんし……」
コングは蜘蛛討伐行かないのかな? 喜んでいきそうなんだけどなあ。
ラルクに聞いてみたところ、どうやらこの蜘蛛討伐はランクが銀以上じゃないと受けられないみたいだ。
人数は欲しいが、この討伐対象には毒があるため、むやみやたらに募集しては毒治療が追い付かなくなるかもしれないからだ。
とはいえ、銀以上の冒険者達だけでこれだけ集まるのだから、さすがは王都というところだ。
各グループは、前衛三人、後衛一人の四人一組を基本とした。毒治療や止血治療ができる者が少ないため、後衛の後ろで待機して治療が必要なときは下がって治療をしてもらうということだ。
討伐参加の記帳とグループ分けが終わり出発することになった。
ラルクは一般冒険者として討伐依頼を受けているため、他の冒険者達とのグループになっている。
しかし、グループ分けの時に僕の名前は呼ばれなかった。不思議に思っていると王宮魔法使いの一人が僕とソマリを呼びに来て、馬車のへと案内された。
馬車の前では、明らかに他の王宮魔法使いとは違って、より高価そうな深紅の布地に金色の柄のローブ。装飾品も魔道具らしき物をいくつも着けている、貫禄のある老人。
深緑のローブをきて白衣を羽織っている若者が立っていて、呼びにきた王宮魔法使いの人に膝をつくようにうながされた。
そして貫禄のある老人の紹介をうけた。
「こちらはアルステム王国王宮魔法いの総司令、デモン・スティーン様である」
紹介をうけたデモン・スティーンは鋭い眼からやさしい眼に変え、にこりと笑みを見せた。
「今では魔法研究ばかりしている老人じゃがな。君の話は聞いておる。見た目では想像できないような力をもっているとか。今日は楽しみにしておるからな」
王宮魔法使いのトップ!? この国で一番すごい魔法が使える人ってことだよね。まさか、そんなすごい人にまで目をつけられているとは……。
続いて、隣にいたローブの上に白衣を羽織っている若い魔法使いが、一歩前にでて自己紹介をしてくれた。
「やぁ、僕はドレイク・マティアというッス。主にサイゼンの街の魔法研究支部長なんスよ。よろしくッス!」
この人もすごいんだな……。でも、話し方が砕けすぎてて偉そうにみえない。
「君がラグドール君の一人娘か。怪我をしていなければ、是非君の戦いぶりも見てみたかったものよ」
デモンは、三剣の一人であるラグドールを君付けかぁ。失礼のないようにしなきゃ……。
デモンへの熱い視線が冒険者達から集まっている。そりゃそうだろう。憧れなんだろうな……。
この討伐には、騎士団長のオリバーと王宮魔法使いトップのデモン・スティーンがいるのだ。当然、冒険者達の士気もすごいものである。
そして、馬車に乗り込み、色々な質問をされ続けながら蜘蛛討伐へ向かったのだった。




