第四十三話 僕の仕事
「せ、先輩……」
後輩職員がドン引きしているようにもみえるが……、しかし、人がいる野外で全裸になれと言っている訳ではないのだ。
ここには僕とガウルと職員二人だけ、そして建物の中。
それに、確認のためということだし。僕は黙って従うことにした。
しかし服を脱ごうとすると職員はおかしなことを言ってきた。
「まてっ! 後ろを向いて脱げ」
僕の性別を確認するのになぜ後ろを向いて脱がないといけないのか……。
「そして、脱いだら右腕で胸部分を隠し、左手でこの布で股を隠してからこっちに振り向くんだ。いいな!」
……隠したら確認できないんじゃ……。一体なんのために脱ぐのかわからなくなっていたが、僕は言われるがまま、職員達に背を向け服を脱ぎ、言われた通りに胸と股を隠すようにした。
僕は今、全裸である。右腕と手で胸を隠し、左手に持った布で股を隠している。
職員の位置からだと、僕の背中とお尻が丸見えのはずだ。いくら相手が男でも裸を見られるのだから少し恥ずかしい……。
僕は振り向いていいのか確認をとる。
「服を脱いで、言われた通り隠しました。このまま振り向けばいいですか?」
わずかな筋肉はあるものの、華奢な体つきと長めの髪のせいで後ろ姿は一見女にも見える。太い格子ごしに、ゴクリっと、生唾を飲む音が聞こえた後に職員が返事をした。
「よ、よし。こっちを向け」
ゆっくりと振り向いたハルを見た職員達から、「おお……」と、声が漏れた。
「たしかにこうすると女の子ですね……」
胸と股を隠したハルはまるで女の子のようだった。職員は口元をにやけさせ、鼻息が荒くなっていく。
「おい、お前は上に行ってろ」
「先輩は?」
「俺は少しこいつで楽しむからよお」
舐め回すように見られた僕は背筋に寒気が走る。
魔物や蜘蛛の時とは違った危機感を感じる……。
ようやく僕はなにを求められているのか察しがついた。
呆れた様子の後輩監視職員は、はしごで上に上がって行った。
そして下に残った職員は驚愕の行動にでた。ズボンをおろし、モザイクが必要なアレをハルに見せつけた。
「なにをすればいいかわかっているよな?」
……この職員はとんでもないことを言ってくる。当然断るがどうやら許されないようだ。
「これがお前のここでの仕事だ。なにもしないでいいと思ったか?」
「…………」
この世界は日本とは違うのだ。奴隷も許されるこの世界、こういう事があるのは普通なのかもしれない。
僕がここで拒否し続けたらどうなるのか? 刑期は終わらないのか?
僕は男同士がダメとは思わない、そういう恋愛もあることは前世で知っている。だが僕自身まったくその気はない。そして僕の意思とは関係なく、監視職員のアレが近づいてくる。
『そんな貧弱なモノ、握り潰してしまえ』
後ろからボソッと恐いことを言うガウル。そんな事をしたら、違う意味でモザイクが必要になってしまう。
僕は牢の中にいるため、職員の手の届かないところに行けばなにかされることはない。しかし、もしこれがここでの僕の仕事のひとつなら放棄できるものなのだろうか? なんとかこの状況を打破できないものか色々考えるが、何も思いつかない。絶体絶命のピンチで目に涙をためたその時――
バン! っと、勢いよく扉が開き、聞きなれた声が聞こえた。ソマリだ。
ソマリの声に安心したのか、目頭が熱くなった。恐かった、これからどんな事をされるか不安だった。
上を見上げるとソマリがひょこっと顔覗かせた。僕を見つけ、目が合った瞬間ソマリがパアッと笑顔をなった。だが状況を見てソマリの表情が一変する。
それもそのはず、ソマリから見えたものは、お粗末なモノを出している職員、裸同然の格好のハル、いつもやさしく強いハルが眼に涙溜めている……。これだけの材料が揃っていたら説明は不要。
梯子をものすごい勢いで降りるソマリ。まるで三倍速を見ているかのようなスピード。慌てた様子の職員はズボンを手に取り急いで履いている。その職員に向かっていくソマリの顔は……そう、般若のような形相だった。
「ソマリさんダメです!」
殴りかねないと思い、制止を促すが、止められるはずもない。
ソマリの鉄拳が職員の顔面にめり込み、職員はズボンを履き終わる前に吹き飛んでいった。
「ハアアアアル様になにをしたああああ!」
吹き飛ばした職員に詰め寄り、胸ぐらを掴んで身体を持ち上げる。
「僕はなにもされていません! それ以上はやめてください!」
僕の声を聞き、ビクッと身体を止めたソマリ。
上からの気配を感じ、視線を上に向けるとそこにはマグロ監理官、ラルク、そしてオリバー騎士団長までいるではないか。
どうやら一部始終をみていたようだ。
「なにもされていない!? ハル様を裸にして泣かしています! 裸に……裸……に……」
自分の言葉にハッとしたように職員に向けていた視線を僕に向け顔を真っ赤にした。
それを見た僕は自分がどんな恥ずかしい格好をしているか思い出し、慌ててソマリに背中を向けた。
「むっ、向こうを向いてください!」
ソマリは職員の胸ぐらから手を離し、両手で顔を隠すが、指の隙間から覗いているのはバレバレである。
「だから見ないでください! 服を着ますから!」
「みみみみていませんよおっ!」
いやいやいや、指の隙間から目が見えていますから!
そんなやりとりをしている中、マグロ監理官、ホザック補佐官、オリバー騎士団長、ラルク、後輩職員が穴の底に降りてきた。
「なにをしていたのかね? この少年はオリバー様の客人だそうだ。まさか、なにかしたわけじゃないだろうな?」
額に血管を浮かべるマグロ監理官は、ソマリに殴られ鼻血を出している職員に問いただした。
「英雄オリバーの……。せ、性別を確認していただけです! 本当に男なのか疑問だったので!」
「ほう……性別を確認するのにお前は自分のモノを出すのか?」
「いや、これは……その」
言い訳が思いつかない職員は助けを求めるべく後輩に視線を送った、すると――
「僕は反対したんですが、お前は上に行ってろと言われたんです。止めれなくて申し訳ありませんでした!」
あっ、切り捨てた。 止めれなかったことを上司に謝罪をして、自分は最低限の罰で済ませるために先輩を切り捨てたみたいだ。
目を見開き、口をパクパクさせる鼻血とお粗末なモノを出したままの先輩職員。だが当然か……、後輩職員はとばっちりを受けないように真実を言ったまでの事。
マグロ監理官が後輩職員に、僕を牢から出すように命令をする。
たぶんオリバー騎士団長がなにかしら手を回して、僕が出れるようにしたのだろう。しかし、一度牢から出てしまうと、ガウルと話しかけれなくなってしまう。牢から出る前にガウルに抱きつき、周りに聞こえないように小声で呟いた。
近い内に必ず牢から出してあげる……と。
「あのガウルが心を許しているというのか……」
ガウルと抱きついている僕をみて、驚くマグロ監理官。そして感心するオリバー騎士団長。
「ああああ……ハル様に獣臭が付いてしまう……」
「お前も獣じゃ――うぐっ!」
うなだれるソマリに鋭くツッコミを入れるラルクだったが、いつもの余計な一言だったためソマリに首を絞められることになったのだった。




