第四十二話 憧れのオリバー騎士団長
立派な馬車の扉が開き、ぴょんと降りてきたのは獣人の女性ソマリであった。
獣人が出てくるとは思っていなかったため、並んでいた職員は戸惑いを隠せなかった。
次に降りてきたのは名も知らぬ、みたこともない、いかにも冒険者が着ていそうな鎧や服のラルクだ。
「おっ? ごくろうさん」
ラルクは並んで出迎えてくれている職員達に胸の辺りまで手を挙げ軽く挨拶をした。
挨拶をされた職員達は反射的に背筋を伸ばしたが、やはり困惑気味だった。
しかし、見た目で判断してはいけない、きっと偉い人達なのだ……自分達が知らないだけだ……と。
最後に降りてきたのは、アルステム国の英雄であり、王都騎士団長のオリバーだ。
「ごくろう。ここの責任者を呼んできてくれ」
出迎えた職員達は舞い上がって、猛ダッシュでマグロ監理官を呼びに行った。
しかし、すでに呼びに走っている者がいたのに、それを忘れてしまうほど舞い上がっていたのだ。
それほどまでにオリバーの存在は特別なのだが、異世界から来たハルや、獣人のソマリにはそのすごさがわかっていないのであった。
すぐにマグロ監理官とホザック補佐官がやって来た。
「出迎えができずに申し訳ありませんでした!」
深々と頭を下げるマグロ監理官とホザック補佐官。この鉱山ではふんぞり返っているマグロ監理官も、オリバー騎士団長の前では低い姿勢である。
「いや、わたしが通告もなく突然来てしまったからな。変な気を使わせてすまなかった。少し急ぎの用事だったものでな」
マグロ監理官は恐る恐る尋ねた。
「オリバー様、本日はどのような要件でいらしたんですか?」
「昨日ここに来た罪人の中に、ハルという少年がいたな?」
「は、はい! その少年が……どうされましたか?」
マグロ監理官は、普段使い慣れていない丁寧な言葉を使い、言葉を選んで話している。
「彼は私の客人では、罰金刑は用意してあり、他にも条件付きで刑を免除するつもりだ」
「客人……」
青ざめるマグロ監理官とホザック補佐官。
普通の罪人と同じように扱っていれば、なにも青ざめることはなかっただろう。
英雄オリバーの客人……ハルのいる場所は狂暴で言葉の通じないガウルと同じ牢に入れてある。
万が一ガウルがハルを傷つけていたら……いや……殺してしまっていたら。
そう思ったマグロ監理官とホザック補佐官は顔を合わせた。
マグロ監理官は小声でホザック補佐官にハルの安否を尋ねた。
「あのガキは大丈夫か!?」
「そ、それがまだ確認がとれていません! 今日の食事を運ばせたときに、どのようになっているか確認させることに……」
そんな二人にオリバー騎士団長は追い討ちをかける。
「では案内してもらおうか」
ぎょっと驚く二人。
「王都から来てさぞお疲れでしょう! 待合室でゆっくりお茶でも飲んで休んでいてください!」
ハルがガウルと同じ牢に入っていることを知られないようにするためにどうすればいいか必死に考えていた。どうしたらハルを口止めでるかなど……そもそも生きているかもわからないので不安で仕方がなかった。
しかし、オリバー達は明日、蜘蛛討伐に向かうのでゆっくりしている暇はないのであった。
「少し急ぐので案内してくれ。すぐ王都に戻らなくてはいけないのだ」
「そ……それが……その……実は――――」
ハルがこの鉱山に来てからの出来事をオリバーに話し始めた。
他の者と同じ牢では鉄格子をこじ開けられてしまうのではないのか? そうすれば他の者までも脱走してしまう。
それゆえに、しかたがなく、ガウルがいる強化製の牢に入れたのだ、と……。
そのことをオリバー騎士団長に話すと、眉間にシワを寄せ少し考え込んだ。
オリバー騎士団長が口を開くまでの間、緊張が走る。ガウルと同じ牢に入れたことを責められるのではないだろうかと……。
「そうか……しかし、ハル君がガウルに殺されてしまうということは考えなかったのか?」
「そ……それは……」
「罪人の一人や二人死んでしまってもいいと?」
「そそそんなことは思っていません!」
手を前に突き出し、手をわちゃわちゃさせて否定をするマグロ監理官とホザック補佐官。
「ハル様がやられるわけないじゃないですかぁ」
オリバー騎士団長の横からひょこっと出て来たソマリは、早くハルに会いに行こうとオリバーを急かす。
「ふっ……だろうな」
オリバー騎士団長は鼻で笑い飛ばした。
この場は怒られなかったマグロ監理官とホザック補佐官だが、オリバー騎士団長の客人ハルがガウルに殺されていたらと、心配でたまらなかった。
そしてハルとガウルのいる建物に到着した一行。そこで衝撃の光景を目にすることになる。
――――時は少し戻り。
ガウルとハルに食事を渡した後輩職員。
はしごを登った所で先輩職員が牢の方をじっと見ている事に気がついた。
「先輩? どうしたんですか?」
「ん? ああ……あいつって……男だよな?」
「そのように聞いていますが……。見た目は女と区別がつかないですね。でも、ものすごい怪力だって話ですよ」
じっと見続けている先輩職員。
「結構俺のタイプなんだよなあ……」
先輩の言葉に若干引きぎみの後輩職員。
「たしかに……もし女の子だったら……でも男だし……」
「そうだ、いいことを思いついたぞ」
先輩職員はいやらしく頬をつり上げる。
「先輩……すっごい、いやらしい顔してますよ……」
梯子を降りていく先輩に、黙ってついていく後輩。
あまり美味しくないパンにかぶりついている僕達のもとに、先ほど上に登っていったはずの職員達が降りてきた。
「おい、おまえ」
お前とは誰なのかと、周りを見たが僕とガウルしかいない。当然、僕に言ったのだろう。
「罪人としてここに来たのだから、刑期が終わるまで働くのが普通だ。わかるな?」
「……はい」
うん、それはわかっている。そのためにここに来たのだから。しかし僕の力なら鉱山労働でもそれほど苦じゃないだろう。
しかし、鉱山労働に参加しないでここにいるのだから僕はなにをするんだろうと思っていたところだ。このまま牢に入っているだけでいいのなら楽なんだが……。
「まず、お前が本当に男なのか確認する必要がある」
「はぁ……」
女の子が男と偽るのは漫画や小説ではよくある……確認が必要ということなら仕方がない。それでどう確認するのだろう。
かの有名漫画みたいに、股をパンパンする訳ではないだろう。
なぜだか鼻息が荒く、いやらしい顔つきの先輩職員は僕に命令をした。
「全裸になれ」




