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第三十七話 華奢な僕だけど

 

「きさまは、罪人か?」


 鋭い目付きで僕を見下ろすマグロ監理官(かんりかん)


「は、はい!」


「なぜ、手枷(てかせ)足枷(あしかせ)をしていない?」


 他の罪人と同じように並んでいるのに、僕だけ手枷と足枷をしていないのだからそう言われるのは当然だ。


「ここに来る途中に野盗に襲われたんですが――」


「なぜ縄すらしていない! こいつを連れてきた責任者を呼べ!」


 理由をのべる前にマグロ監理官(かんりかん)怒りだしてしまい。補佐官(ほさかん)が急いで責任者である御者(ぎょしゃ)を呼びに行った。


 すぐに血相を変えて走ってきた御者さんは、マグロ管理官に野盗に襲われた事と、僕の異常な力の事を話し、縄、手枷、足枷が意味ない事を説明しているようだ。説明を受けたマグロ管理官は僕の腕を掴んだ。


「こんな細腕のガキがそんな力があるはずないだろうが! 御者よ! まさかこのガキに惚れて特別扱いしたのではないだろうな!? 規則を守れぬなら、きさまの職を剥奪(はくだつ)するぞ!」


 怒鳴り散らしながら足枷(あしかせ)(くさり)を引っ張って見せるマグロ監理官。

 額に血管を浮かべながら、力一杯引っ張るが鎖はちぎれないようだ。


「見ろ! この私でもちぎれないような鎖をこんな女か男かわからないようなガキにちぎれるはずがなかろう!」


 マグロ監理官の怒りを買った御者さんは、泣きそうな目で僕に助けを求めているようだ。

 この騒ぎに周りの罪人労働者達が集まって来たが、監視職員達は追い払っている仕草だけで、顔はこちらに向いていた。どうやら監視達も興味津々のようだ。


 目立つ事はしたくないんだけど、優しくしてくれた御者さんを見捨てられるはずもなく、僕はマグロ監理官の持つ鎖を黙って受け取った。

 マグロ監理官は『やれるものならやってみろ』と、いうようなニヤついた目で僕を見下ろしている。


 鎖を握りしめる周りが静まり返った。

 そして僕が足枷の鎖を勢いよく左右に引っ張ると、連結されていた鎖は宙を舞い、四方八方に飛び散った。

 飛び散った鎖が地面に落ちてしばらくすると、周りがざわつき始めた。


「わっ、私が引っ張ったから、鎖がちぎれかけていたのだ!」


 マグロ監理官は今のでは認めてくれないようだ。さすがにそこまで言われては引けない。

 僕と一緒にこの鉱山まで来た罪人達の足枷を次々にちぎっていくと、マグロ監理官は金魚みたいに口をパクパクさせた。


 しかしこれでも納得しないみたいだ。


「ま、魔法を使っているのだ! このガキに手枷をつけて魔法を使えなくしろ!」


 鉱山労働者には鎖のついていない手枷をつけさせているみたいで、どうやら僕にも同じものをつけるらしい。

 しかし、それだけではなかった。先程よりも一回り太い鎖を持ってきたのだ。

 周りの見物人からは、


「あの鎖太くね?」

「大型の魔物用の鎖だな」

「馬車の連結用じゃないか?」


 などなど聞こえてきた。つまり周りの人が一目で太いとわかるくらいなのだ。


 僕はマグロ監理官に確認をとっておくことにした。


「この鎖をちぎったら御者さんを許してもらえますか?」


「ふんっ! いいだろう!」


 それを聞いた御者さんは僕に祈りを捧げるように膝をついて手を合わせていた。僕が成しえることを祈っているのであろう。


 手首には魔法を妨害するための手枷をつけられた。勿論手枷には鎖がついていないため両手は自由である。そしてひとまわり太い鎖握った。




 マグロ監理官は僕が魔法を使ってインチキをしたと勘違いしているため、破魔効果のある手枷をすれば壊せるはずがないと思っていた。

 監理官の仕事をしながら自分の肉体を鍛え上げていたマグロは自分が一番強いと信じていた。


 ハルみたいな見た目女か男かもわからない華奢な身体つきの子供が自分より強いはずがない! ……と。たしかに普通に考えればそうであろう。だがハルは普通ではない。


 神様から(わず)だが力を分け与えてもらっている。僅かな力といっても人間にとっては凄い力なのだ。そして今その力の片鱗を見せることになる。




 鉱山労働者達は皆、マグロ監理官の考えと同じく、ハルがこっそり魔法を使ったのだろうと思っていた。なのでこの鎖は壊せるはずがないと思っていた。


 しかし一部の者は、もしかしたら壊せるかも……と思っている者もいた。それは王都からこの鉱山までハルと一緒に居た者達だ。

 野盗相手にハルの規格外の強さを見せ付けられた者達は、そう思ってしまうのは当然である。



 そして――――


 バキンッ! ガシャガシャッガシャン。


「「「…………」」」


 ちぎれ落ちた鎖に言葉が出ないマグロ監理官や野次馬達。


「す……すげぇ」


 ボソリと誰かが呟いた後に、大きな歓声が巻き起こった。


「「「うおおおおおお!」」」

「すげー!!」

「なんであんなことができるんだよ!?」

「きっと神様の御使い様じゃないのか!?」

「いやいや闘神の生まれ変わりだろ!」


 様々な憶測が飛び交っている中、マグロ監理官は今なにが起きたのか整理するため、鎖とハルを交互に見ていた。


(ばかな! ばかな! 私でもできない事をこんな細腕の子供が? 一体なにがおきた? なぜあんなことができる? こいつは危険すぎる。もしこいつがその気になったら脱走……いや、集団脱走も可能ではない!)


 ハルを危険人物と決めつけたマグロ監理官は、他の労働者達と同じように働かせることを考え直した。

 本来、成人前の子供や女性などは力仕事な向かないので、労働者達の食事、洗濯、掃除、衣類を作るなどの仕事を朝から晩まで働くようになっている。

 そのため、ハルは一見華奢でひ弱そうなので内仕事をするはずだったのだが……。



「おい、こいつをあそこに連れていけ」


「えっ!?」


 マグロ監理官が僕をどこか別の所に連れていくようだが、補佐官の驚きようが普通じゃなかったのがものすごく気になった……。


「あそこにはすでにガウルが入っていますよ!?」


 補佐官の言葉に周りがざわつき始めた。

 周りが『あそこ』に反応したのか、それとも『ガウル』という人物? 動物? どちらに反応したのかはわからないが、なんだか危なさそうな予感……。


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