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第三十六話 鉱山

 

 気絶しているモヒカンのトトゥーと野盗のリーダーに、手枷と足枷をして拘束をした。手枷と足枷がもうないので、残りの捕まえた野盗は縄で拘束しておいたみたいだ。


 空は綺麗なオレンジ色をしていてやがてすぐに日が落ちるであろう。

 そんな綺麗な夕空とは裏腹に、護送馬車の中は血生臭い怪我人と野盗の不清潔な体臭で息苦しいことだろう。


 だが僕はその中にはいないのであった。なぜか御者(ぎょしゃ)の隣に座っていた。しかも手枷も足枷もしてない状態である。どうやら御者さんのお気に入りになってしまったみたいだ。

 しかし、それだけでは手枷と足枷をしない理由にはならない。僕に手枷や足枷をしてもその気になれば壊せてしまうというのなら、それを僕につけるのではなく、トトゥーと野盗のリーダーにつけておこうということだ。


「そうか、(きみ)はハルというのか。誰に剣を教えてもらったんだい?」


「ヨハン刀術道場で、ヨハン師範に教えてもらっています」


「あのヨハン様か! なるほど! それでそれほど強いのか!」


 御者が嬉しそうに(うなず)いていると、護送馬車に並んで進んでいる護衛が話しに入ってきた。


「剣も凄かったが、俺は魔法の使い方に恐れ入ったぜ! そもそも水魔法を戦いに使おうとするやつはいないからな。それに手枷をしたままどうして魔法が使えたのか教えてくれよ。なにか方法があるのか?」


「いえ……、手枷に魔法を使えなくする仕掛けがあるなんてしらなかったので、いつも通り使っただけで……」


「魔力を()るときに乱されなかったかい?」


「い……いつもより少しだけ乱れていたような……」


 乱れたなんて嘘である。いつもハッキリしているし、手枷をしていても魔力と魔素はハッキリ感じとれていた。しかし、そのように言ってはかなりの異端者になるのでそのまま伝える事はしなかった。


「きっと君は将来、とんでもない魔法使いになるんだろうな」


 今度は別の護衛が話に混ざってきた。


「あの重しの鎖を引きちぎった力。あんなの今までみたことないぜ。その力があれば、どんな武器でも振り回せそうだな。どうやったらそんな凄い力を身に付けることができるんだ?」


「それが少し前に、意識を失って倒れていた所を孤児院の方に助けられたんですが、目が覚めたときにはそれ以前の事がなにも思い出せないんです……」


 困ったときの記憶喪失。

 御者のおじさんが僕に同情しながら、頭をぐしゃぐしゃとなでてきた。


「そうかそうか、辛い思いをしたんだね。記憶がなくてさぞ不便だっただろう。それで? どんな罪で今ここにいるんだい?」


「僕に魔法を教えてくれた先生が、毒蜘蛛に噛まれてしまったんです。先生を背負って王都まで走り、ようやく門までたどり着いたと思ったら、門番兵からタグプレートの認証を求められたけど、一刻を争うって時だったので無視して通り抜け、ギルド横の診療所に先生連れて行ったんです」


「なるほど、王都への不法入門か。では罪としてはそれほど重くないだろう? 刑期が終わったら私の側近護衛にならないかね? 給金は必ず満足する金額を出すよ」


 御者の申し出に周りの護衛達から、


「おお、すげー」


「うらやましい……」


 と言う声が聞こえたが、そんなにいいものなのだろうか?



 僕はこの身体になってから、特別に目的があるわけでもなく、ただ漠然と母に言われた『みんなに優しく、大事な人を守れるように……』を目標にしてきたが、これまで周りに流されて今に至っていた。


 そもそも王都に来たのも、ソマリの父ラグドールに言われてだし……でも剣術は楽しいし、刀の製作もしてもらっているし。コングとも仲直りできたのだから、結果的に(すす)められたまま来て良かったと思っていた。

 刀はまだ造ってもらっていないが、それを催促する勇気もなければ権利もないのではないだろうか。


 ヨハンは僕に適した刀を造ると言っていた。

 硬貨も払わず僕専用の刀を造ってもらうなど……それに剣術の指導料はどうなのだろう? まだ聞いていないからその辺りも気になるところだ。


 考えふけっていると、御者のおじさんが僕の顔を覗き込んでいた。


「それで、どうだね?」


「あっ、すみません考え込んでまして……、えっ……と、いい話だと思うのですが、今はちょっと事情がありまして、そのお話をお受けすることができないので……」


 僕が断ると御者は残念そうに肩を落とし、仕方がないといった感じだった。


 そう、今はオリバー騎士団長の監視があり、お世話になっている身なのだから、勝手に決めてはダメだろう。まぁ、元々専属護衛になるつもりはないが……。




 野盗騒動からすぐに日が落ち、辺りが真っ暗になってから数時間経った頃、ようやく鉱山に着いた。


 かなり規模の大きい鉱山ようだ。周りには街ほどではないが外壁があり、逃げられないようになっている。見張りも所々立っていて労働者達が逃げないか目を光らせていた。


 鉱山にはいくつもトンネルが掘られてあり、そのトンネルの中へと続く線路はトロッコで鉱石を運ぶためのようだ。

 暗くなった今でも篝火(かがりび)や設置されているランプ照明で明るくされており、この鉱山では昼夜問わず交代制で働き続けているみたいだ。


 五十日間ここで働くのか……。転生前は中学生だったし、勿論バイトなどもしたことがないため仕事というものをしたことがない。

 コング達とギルド依頼を受けて稼いだりしたけど、労働という感じではなかった。しかしここではみんな汗を流し、顔や身体は土埃(つちぼこり)で汚れている。いかにも労働っといった感じである。

 力仕事なら自信はあるが、初めての仕事ということに不安を抱いていた。


「労働者達は手続きをするから私についてこい! 護衛の諸君、今日はごくろう! 明日の夜明けと共に出発するのでそれまで休んでくれ!」


 手続きのため御者のおじさんについて行くと、ここの労働者達を取り締まっている二人の前に連れてこられた。

 服を着ていてもわかるくらい筋肉質の身体は、ギルドマスターのラグドールと同じくらいムキムキで、顔は……、前科何犯ですか? と聞きたくなるくらい恐ろしい顔つきだ。日焼けのせいか真っ黒な顔に、ビシッと着こなしている軍服のような灰色の制服。


 そしてその隣にいる同じ制服を着た男性が話始めた。


「こちらはマグロ監理官だ。ここを取り締まっている方である。間違ってもこの方には逆らわない方がいいぞ? 刑期が終わる前に君らの人生が終わってしまうぞ。

 そして私はホザック補佐官だ。マグロ監理官の補佐をしている。なにか質問や問題があれば私に話しに来なさい」


 ホザック補佐官が話終えると一歩下がり、怖顔のマグロ監理官が話始めた。


「マグロだ! ここのクズ共が暴れられないのも俺がいるからだ! そしてここに立っているお前らは人類のクズだ! 刑期が終わるまでにその性根を叩き直してやる!」


 …………うわぁ。こういう軍隊の教官みたいな人は映画の世界だけだと思っていたけど、本当にいるんだ。


 僕らを品定めするかのように一人一人を黙って眺めている。何かに気がついたマグロは僕の前で足を止めた。


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