第三十五話 野盗退治
野盗達がどよめいた。
ハルは手枷を壊し、華奢な身体のハルが、こぶし一撃でハーゲンを倒してしまった。
手枷には魔力妨害の魔石が埋め込まれているため、魔法は使えないはずなのに、魔法を連続で射ち続けた。
そして足枷の重しいとも簡単に引きちぎり、目にも止まらぬ速さで野盗の一人を蹴って剣を奪った。
どれもこれも、ありえない事を目の前で見せられた野盗達は混乱気味だった。
いや、御者や護衛達も理解が追い付いてこなかった。
「たいした魔法じゃねえ! やっちまえ!」
頭の一言に我にかえる野盗達、再び向かってくる。
馬から落ちた野盗は長剣を片手に斬りかかってくる。――――が、剣の鍛練などしないであろう野盗動きは無駄が多く、そして遅かった。
最初の一人目は大きく振りかぶったため、振り下ろす前に横をすり抜けて横っ腹を斬る。剣を振りかぶって下ろすまでが遅い。普段ヨハン刀術道場の五本の指に入る生徒や、達人であるヨハンと比べたらへなちょこである。
流れるような動きで斬撃を受け流し、無駄な動きを一つもすることなく、次々へと野盗を斬っていく。
「いいでえ!」
「きっ! 斬られた!」
命に関わるような傷ではないが、それでも料理で指を切ったなどのレベルではない。
傷からダラダラと垂れる血が痛々しい。
狙おうと思えば首の動脈を狙って、斬り殺すことも可能であったが、やはり無意識に殺すことを避けてしまっていた。
最初にかかってきた三人の腕や足を斬ったことで、野盗達の動きが止まった。
「つ、つよい……」
「か、頭! やっぱりあのガキ変ですって! 逃げましょう!」
「くっそ! だらしねえやつらだ!」
黙って観ていた護衛達に、ある変化が起きていた。
「おい、あの少年がいれば残りの野盗達を倒せるんじゃないか?」
「ああ、俺も考えてたところだ。野盗を追い返して誰か一人でも捕まえれば、報酬金もポイントもかなり増えるしな」
野盗達がハルの強さに浮き足立っている今がチャンスとばかりに、護衛八人は立ち上がり野盗達に襲いかかった。ハルに注意が向いていた野盗達の不意をつき、二名の野盗を倒すことに成功した。
これで無傷の野盗はあと十名ほどになり、数の脅威はなくなっていた。
そして護衛と野盗の大乱戦が始まった。
さすが護衛依頼を受ける人達だ。一対一なら負けることはなさそうだ。
そんな中、護衛の後ろから不意をつき、襲いかかる野盗を見つけた僕は野盗の顔に水弾を射ち、よろめいた所をすかさず距離を縮め野盗の腕を斬り、深い傷を負わせた。
「少年助かったぜ!」
助けた護衛の人は僕にお礼を言って、他の野盗に向かっていった。
その時、僕は異様な何かを感じて、咄嗟に前に転がり避けた。後ろを確認すると、僕の立っていた場所の地面から炎が噴き上がった。シルビアが使っていたファイアウォールだ。
規模はそれほど大きくないが、人一人を丸ごと飲み込むくらいの大きさはあった。
「くそっ! 避けられた!」
どうやら野盗のリーダーがファイアウォールを使ったようだ。
悪態をついたリーダーは僕に向かって何かを複数飛ばしてきた。受けるより避けた方がいいと判断した。
「うっ!」
しかし避けきれなくて一つが足に当たってしまったようだ。
傷口を見ると血などは出ていなかったが、小さな鉄串のようなものが刺さっていた。
僕の足に刺さったのを確認した野盗のリーダーは声に出し喜んだ。
「ハッハッ! やった! 勝った! ざまああみろお! それは即効性の痺れ薬を塗ってあるんだ!」
それを聞いた僕はさすがに焦った。いくら神様の力が凄くても動けなければやられてしまう。
満足げに、いやらしい顔をする野盗のリーダーはゆっくり僕に近づいてくる。
「俺様に歯向かった事をあの世で後悔しな!」
野盗のリーダーは僕に向かって剣を振り下ろした。
しかし、振り下ろされた剣を紙一重で避けてリーダの手首を掴んだ。
「なっ!? 痛っ! いだだだだだだだ!」
そして手首を強くひねり、骨の折れる音が響いた。
「ぐああっ!」
前屈みに崩れ落ちたリーダーは僕を睨み付けた。
「くそガキがっ! なんで動け――――」
野盗のリーダーが何か言い終わる前に、リーダーの顔を蹴り飛ばし何メートルも飛び転がっていった。……やりすぎたかな?
リーダーから即効性の痺れと聞いたときは、やばい! と思ったが、全然痺れが来なかった。
神様が僕に分け与えてくれた力には、痺れなど効かないのかもしれない。
…………あれ? もしかして手術とかするとき麻酔効かないんじゃ……。
「か、頭がやられた!」
その言葉を聞いた野盗達は、ぐったりとした意識のないリーダーを見て、戦意を失い降参する者や走って逃げる者様々だった。
「勝ったぞおお!!」
「「「「うおおおおおお!」」」」
護衛達の勝ちどきの声があがった。




