第三十四話 野盗再び
僕の眼と鼻の先には剣先がある。
一体なぜ僕がこんな目にあっているのかサッパリだ……。
「おまえ! なぜ魔法が使える!?」
なぜと言われてもシルビアに教えてもらったから……。
「えと、魔法使いの知り合いに水魔法をおしえてもらったので――」
「そんなことは聞いていない!」
怒られた……。なんて答えればいいのだろう。
「なぜ手枷をしたまま魔法が使えるのだ!?」
「手枷……?」
この手錠をしていると魔法が使えなくなる?
僕に剣を向けたまま話は進められていく。どうやら代わりの手枷を用意したようだ。
護送中は足枷や手錠があるだけなので、魔法が使えてしまったら、護衛達を倒して逃げることもできてしまうのか……。
そのようなことができないように、取り込んだ魔素や魔力を乱すための石が手枷には埋め込まれているようだ。
「おい、おまえ達の中に魔法を使えるやつはいるか?」
御者の男が、護衛達に向かって聞くと、一人の護衛が前に出てきた。初級の生活魔法が使えるようだ。
新しく用意した手錠に魔法制御の効果があることを確認して、僕の手錠と交換する。いつでも僕を刺すことが出来るように、剣は僕に向けられていた。手枷を外した隙に僕が魔法を使わないか警戒している。
僕が先ほどまで着けていた手枷は御者が馬車の荷台に放り投げた。多分外した手枷は壊れてはいないだろう……。
魔法を使うためには、靄がかかった魔素取り込み、これから使う魔力と同量に合わせない発動しない、僕にはこの靄がハッキリ感じとれるため、調整は一瞬なのだ。
神様から分けてもらった力の影響なのだろう。
そしてこの手枷には魔素や魔力を乱す効果があるため同量に合わせることができない……はずなんだけど、僕には影響がないみたいだ。
そのため新しい手枷を着けたけど魔法は使えそうだ。しかしわざわざ自己申告する必要はないため黙っておくことにした。
休憩も終わり、座り込んでいた護衛達が立ち上がろうとした時、かなりの数の馬が近づいてくる音がした。
「や、野盗だ!」
護衛達に緊張が走る。それを聞いたモヒカン男がボソリと呟いた。
「ようやくきたか」
周りの人には聞こえなかったようだが、僕には聞こえた。つまり……、このモヒカン男の仲間であろう。
十五人くらいいるであろうか、馬にまたがった野盗達は僕達の前に立ち塞がった。
御者は馬車の荷台に飛び乗るように逃げ入り、護衛達は剣を抜き構えた。
こちらの護衛は八人いるが、野盗達の数は倍はいる。これだけの数の差があるため、戦わないで野盗側の要求を飲み、命だけは助けてもらうということになるかもしれない。
野盗達だって無駄に殺すことはしない。殺し合いは避けたいのである。いくら数で勝っていても被害がゼロとはいかないからだ。
そして思った通りの展開になった。
立派な長剣を右手に持ち、服装も他の野党よりりっぱな物を着ている男が少し前に出た。
「トトゥー迎えに来たぞ」
「頭、すまねえな」
そう言って立ち上がるモヒカン男。
野盗とは二度目だが、野盗達ってそれほど剣の腕がいいってことはないんだよね。数でビビらせて略奪するのが基本手口だし。
勿論、頭と呼ばれた男や、トトゥーは強そうだが……、それでも三剣と戦ったことのある僕からしたら、なんてこと無いだろう。
しかし、野盗の方から危害を加える気がないのなら大人しくしておこう。いくら神様のギフトがすごくても、わざわざ危険なことやトラブルにまきこまれることはしない。
野盗の頭が声を張り上げた。
「黙ってトトゥーをこちらに渡すなら、お前達に危害を与えない! しかし、抵抗するなら死を覚悟しろ!」
荷台から御者が叫んだ。
「わ、わかった! 連れてっていい! おい! そいつの手錠と足枷を外してやれ!」
手錠と足枷を外してもらったトトゥーは、手首と足首をコキコキ鳴らし、野盗の一人から斧を受け取った。
すると、水を飲まれてトトゥーに文句を言っていた、細身の男がトトゥーに思いもよらない提案をした。
「トトゥー! 俺も連れてってくれ! あんたの子分になるぜ!」
「んー? 子分か、そいつはいい」
この目付きの悪い細身の男の罪は重いものなのだろう。残りの人生を鉱山労働で終わるより、この機会に野盗に入って自由になろうということだろう。
トトゥーは僕を見てニヤリと気味悪く微笑み、僕の目の前まで歩いてきた。
「俺はこの魔法使いのガキが気に入ったぜ。きっと高く売れるぜ」
そんなトトゥーのやり取りを見ていた野盗達は僕に興味が向いたようだ。そして僕をジッと見つめる野盗達、そう、いつまでも見つめてくる野盗達……。一体なに?
「か、頭……、このガキって貴族の馬車を襲ったときに乱入してきたやつじゃ!?」
――――っあ、クロエ姫達を襲った野盗か!?
目を見開いて僕を睨み付けてきた野盗の頭は、眉間にシワを寄せて、凄い形相で怒鳴った。
「あぁんの時のガキかあああああ!」
お、おお……なんだか、すごい恨まれてるようだ。
「トトゥー! そのガキを殺せ! 手錠と足枷が着いているうちに殺せ!」
「こんなガキいつでも殺せるぜ。それより連れていかないか? 貴族に売れば相当高値で売れそうだぞ?」
トトゥーはどうしても僕を連れていきたいみたいだが、頭はそれを許そうとはしなかった。
「トトゥー! 今すぐ殺せ!」
「お、おう!」
頭から激が飛び、さすがに焦ったトトゥーは斧を振りかぶった。お腹丸出しのトトゥーは油断していたのだろう。
僕は右手と左手を繋がれている鎖をひきちぎり、すかさずトトゥーのお腹に拳をめり込ませた。
「あ、あが……」
斧を振りかぶったまま、ビクンビクンしているトトゥーは白目をむき、前のめりに倒れた。
すでに手錠の役目を果たしていなかった。まさか、手錠をした子供に殴られると思っていなかったことだろう……。
「ごめんなさい、壊してしまいました……」
御者に謝っておいたが、それほど怒ってなさそうだ。
実のところ、御者も護衛も野盗も唖然としていたのだった。なぜ拘束するための手錠がいとも簡単に壊せたのか、ハーゲンという大柄の男を一撃で倒せたのかとか、一体何が起きたのか理解が追い付いていないのだった。
「か、頭ぁ、やっぱりあのガキ、変ですってえ、すぐ逃げましょうぜ」
「ば、バカ野郎! ガキ一人相手に俺達賊が逃げるなんてことはありえねえ!」
「でも、前回逃げたん――」
「うるせえっ! 全員であのガキを殺せ!」
「「「やっちまえっ!」」」
馬に乗った野盗達が腰の剣を抜き、テンプレのような奇声をあげながら向かってきた。
僕に向かってくる馬の顔に向けて練り込んだ水魔法を飛ばす。
「水弾!」
水の塊をピンポン玉ほどに圧縮したものを高速で射ち放たれた。僕の両手から次々と射ち放ち、馬の顔や体にめり込ませた。殺傷能力はないがそれなりの威力だ。馬達は驚き暴れだす。
水弾を当てられ、馬に乗っていた野盗達は、馬にしがみつき持ちこたえた者もいたが、馬から振り落とされたものもいる。
地面に落ちる際、剣を手放した野盗を確認した僕は、足枷の重しを引きちぎり、その剣に向かって走った。
起き上がろうとする野盗を蹴り飛ばし、剣を拾い構えた。




