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第十五話 泥棒

 

「ところでハル様! 今日の服もお似合いです!」


 その服()、ってなんですか! 昨日のドレスは忘れてください……。


「へへへぇ~、私の服はどうですか? 少し動きづらいですが……」


「素敵ですよ」


 褒めたら嬉しそうにクルクル回っている。腕大丈夫なのかな? と思っていたら腕を押さえてうずくまってしまった。安静にしててください。


 今日のクロエ姫はヒラヒラドレスではなく、歩きやすそうなの上品なワンピースタイプの服だ。オリバー騎士団長も鎧を着けていないためなんか変な感じだ。




 王都アルステムに着いた時は馬車の中だったし、ゆっくり外を観れなかったが、こうして改めて周りを見渡すとサイゼンの街よりしっかり整備されているのがわかる。


 大通りのみだが地面は舗装されているし街並みも街路樹なども植えてあり綺麗だ。

 裏路地を覗くとサイゼンの街とそれほど変わらないが……。


 しかしサイゼンの街ともっとも違う所は城があることだ。前世でも城なんか観たことないが圧巻である。


 いや、昨日あの城の庭園を歩いたり、部屋で寝たり食べたりしたけどさ……。改めてじっくり観て回りたいものである。


 外壁も他国の侵略や魔物からの守りに適した造りになっている辺りさすが王都だと思った。

 他にも歩きながら色々教えてもらった。


 平民は名前のみということ、貴族は名前の後ろに貴族名が付き、王族は名前の前に国名が入る。

 それでサイゼンの街で会う人みんな、名前しかなかったわけだ。僕はようやく理解できてスッキリした。


 それを聞いていた三人は、本当に僕が記憶を無くしてるんだと思ってくれたみたいだ。

 そんな常識的な事を知らないのかと……。


 歩いて行ける距離のため、王族用馬車も使わないで歩いているのだがクロエ姫がちょくちょくお店の前で立ち止まり、中々進まなかった。




 そしてようやく、ヨハン刀術道場に着くというところで、女性の叫び声が聞こえた。


「泥棒っ!」


 僕らは声の方を見ると路地裏に逃げ込む人影とそれを追うように店から出てきたパン屋のおばさん。


「僕が行ってきます。みなさんは待っていてください」


 僕は迷わず走り出した。

 オリバー騎士団長はクロエ姫の護衛をしていて離れられない。ソマリは腕の怪我で走れない。

 なので必然的に僕が追いかけるしかないのだが、昔の僕だったらすぐに動けなかっただろう。

 僕は、自分の力も大体把握してきたし、泥棒が三剣並の実力でない限り、素手でも大丈夫であろう。そう、今の僕は武器を持っていない。


 人と人の間をスルスルと素早く抜けていき、路地裏に入ったところで対象の人物を補足した。その人物はフードを被っているためどんな人物かわからないけど、背の大きさからして子供かもしれない……。


 あと少しで追い付くというところで脇道から出てきた男性が木刀で泥棒のお腹辺りを殴りつけ、泥棒は走っていた勢いのまま転がっていった。


「なんだ、おまえ? こいつ(どろぼう)の仲間か?」


 木刀を持った男は僕に木刀を向けた。袴のようなゆったりとした服に、腰には刀も刺している。


 同じ服を着た仲間がもう一人やってきて、泥棒のフードを上に吊るように引っ張った。

 そこから見えた顔はサイゼンの街の孤児院で、少しの間だったが一緒に暮らした、ルイに似た黒髪ショートの女の子だった。目元はルイより吊り目気味だが雰囲気はそっくりだった。


「仲間じゃないならどいてな」


 そう言ってルイに似た泥棒のお腹を蹴りあげた。女の子は苦しそうに身体を丸めて咳き込んでいる。


「やめろ! 泥棒でもまだ子供だ!」


「子供なら泥棒してもいいってのか?」


「そ、そうは言ってない! 捕まえたんだからこれ以上暴力を振るうことないじゃないか!」


「お前……早死にするタイプだな。そんな事言って油断したところを、このガキが隠し持っていたナイフで刺されたらどうする?」


 うっ、正論なだけに反論できない。


「こいつを衛兵につき出したらそのあとは奴隷生活が待っているだけだぜ? 女なら貴族の変態おじ様に動かなくなるまでオモチャされてポイだな」


 ゲラゲラと下品に笑う男達。それを聞いた女の子は青ざめ、涙を浮かべている。


「だから少しくらい痛めつけても、どうってことないんだよっ!」


 振りかぶった木刀を女の子に向けて振り下ろしたのを僕は黙って見ていられなかった。


 ――――バシッ! 肌を打つ音が響いた。女の子が殴られた音ではなく、木刀が僕の手の平に当たった音だ。


「「なっ!」」

「こいつ素手でっ!?」


 僕はそのまま木刀を握り潰し、木刀を粉々にした。


「な、なんだこいつ! ありえねえ!」


 木刀を握りつぶされてしまった男は、たじろぎながら刀に手をかけ抜刀をする。

 さすがにこの人を攻撃したら僕が悪者になってしまうだろうか?


 僕は女の子を抱き上げた。

 それを見た男達は逃がすまいと一人は木刀で殴りかかってきた。もう一人は刀の(みね)部で攻撃しようとする。


「逃がす――――かああ!?」


 僕は少女を抱いたまま、ヒョイっと屋根の上に飛び上がり、その男達に会釈をして、そのまま走り去った。


 残された二人はポカンとして口が開いたままになっている。


「人を抱えて屋根に跳んだぞ……」






「ハル様はどこまでいったんですかねー?」


 陽射しを遮るように手を額に当ててハルを探しているソマリさん。


「彼の事だからすぐ戻って来ますわ。それにしても追いかけていった時のスピードみました? とても普通じゃないですわね」


「おっ! ハル君戻ってきたぞ。…………なんで屋根の上を走ってくるんだ?」


「パン屋の裏手に降りましたわ。私達も行きましょう」


 僕はこの子が盗んだパン屋の裏手に降り立った。女の子を下ろしてあげると、ペタンと腰を抜かしてしまった。屋根の上を走ったのが恐かったのだろうか……。


「殴られた怪我はどう? 僕も一緒に行くから謝りにいこう? このままじゃ奴隷になっちゃうよ?」


「……痛いけど……多分平気」


 涙目になっている少女は黙ったままコクコクと頭だけ上下に動かした。

 僕は盗んだパンを手に持ち、表に回るとソマリ達がいた。


「その子が泥棒ですか?」


 ソマリが少女の顔を覗きこむと少女は僕の後ろにサッと隠れ、様子をうかがうように顔半分だけ出している。


「ガーン! ハル様といい、ジャックといい、この子といい……、最近の私は魅力が足りないのかな……」


 頭を押さえるソマリ。

 えっと、僕ってそんなにソマリを拒否ってるように見えるのかな……。


「その子をどうするつもりですの?」


「もしこの子を役人に渡したらどうなってしまいますか?」


「うーむ……初犯で罰金が払えるなら五日~十日間、牢屋に入ったあと出られると思うが、罰金が払えないと、奴隷商人に売り渡すか労働奴隷というところだな」


 やっぱりあの若者が言っていたように奴隷になってしまいそうだ。


「いまからお店の人に謝って、許してもらってきます」


 僕は少女の手を引いてお店に入っていった。


 お店の中に入った僕は周りをみると他の客はいないようで、奥ではおじさんがパンを焼いている。

 あとは陳列棚(ちんれつだな)にパンを並べている先ほど叫んでいたおばさんいた。この店は夫婦でやっているようだ。


 そしてパンを並べていたおばさんと目があった僕は頭を下げて必死に謝った。

 それをみた少女も僕の真似をして深々と頭を下げた。


「この少女はお腹を空かせていた所、このお店からとても美味しそうなパンの香りがしてきて、その誘惑に勝てなかったためパンを盗んでしまったようです。

 先程の盗んだものはお返しします。またそれ相応のお金と、迷惑をおかけした分のお金も支払いますので、どうかこの少女を許してやってください!」


 そう言って僕は獣人の村ドベイルで、熊の報酬として貰ったありったけのお金を差し出した。ありったけといってもたいした金額ではないが……。

 どう返答しようか戸惑っている様子のおじさんとおばさんは、この後お店に入ってきた人物に対してさらなる戸惑いを起こすことになる。


「クッ! クロエ姫様!」


 そういって持っていたお盆を床に落とし深々とお辞儀をしているお店の夫婦。


「頭をあげて結構ですわ。そこの少年は私の連れですの」


 そう言われて恐る恐る顔を上げる夫婦、やっぱり姫様ってすごいのか……。気軽に話していたから全然そんな風に思わなかったけど、もしかして僕ってすごい失礼な態度とっていたのかな……。


「まず、そこの泥棒と私達は関係ありません。あなた達が役人につき出してその少女が奴隷に売られ、誰かに好き放題にされ、死んでいってもあなた達は悪くありませんわ」


「い……いや……、そのようなつもりは……」


 僕はこそっと少女に謝るように(うなが)した。


「ごめんなさい……もう……盗んだりしない」


 夫婦で見つめあって、困ったなぁと言わんばかりに頬をポリポリかいている。


「もう、絶対盗まないと約束できるならゆるしてあげるよ」


 それを聞いた女の子はほっとした顔をした。どうやら許してもらえたようでよかった。


 僕は盗んだパンを買い取りという形で頂き、少女に渡した。迷惑料として少しばかりだが、お金を置いて店から出てきた。


 美味しそうなパンが沢山あったな、今度はお客として来てみよう!


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