第十四話 親指を立てる者達
サイゼンの街で入った診療所とは比べ物にならないくらいの広さ、設備、人材。そう……僕達は王都アルステム城の医務室にいる。
王都の門を通った後に、馬車に乗せてもらったお礼を言って、自分達は城下町の診療所に行こうとすると、ソマリの怪我を城で診てくれるという。
「野盗や魔物化した虎での被害が少なかったのは君達のおかげだ。是非ソマリ君の傷が治るまでこちらで面倒を診させてくれ」
オリバー騎士団長に力強く手を握られ言われたのだ。
ソマリから少し離れたところでは腕が無くなった護衛の人が傷の処置が終わり薬で眠っているようだ。
あの人はまだ兵としてやっていけるのであろうか……。一歩間違えればソマリもあれくらいの怪我をしたかもしれない。いや怪我で済まないことも、僕は何を考えているんだ! 頭を激しく左右に振って考えを振り払った。
ソマリは薬の影響で眠ったみたいだ。
陽射しが暖かく風が気持ちいい、僕は一人で診療所の外にある庭園を歩いている。
さすがはお城の中にある庭園である。こんなに綺麗に手入れされた木々は見たことがない。ベンチを見つけた僕は腰を下ろした。
こんな綺麗な庭園にいても僕は浮かない顔をしていた。
「庭園に見とれていますって顔じゃないですわね」
「クロエ姫……」
クロエ姫が僕の隣に座ってきた。
「護衛はいないんですか?」
「え? 城の中で護衛はいらないと思いますけど?」
あぁ……ですね……
「召し使いなら手を挙げれば飛んで来る距離にはいますが」
「なるほど……」
「「…………」」
「ソマリの事ですか?」
「……はい。傷の方は完治するとのことですが、もしかしたら指や腕に後遺症がでるかもと……」
「そうですか……それは心配ですわね」
「僕が始めから動けていれば……」
うつむく僕は両手で額を小突く、そんな僕を見てクロエ姫は口を開いた。
「なぜ動けなかったのですか?」
「魔物化した虎なんて見たことがありませんでした……恐怖で足が動かなかったのです」
「ハル、あなたは自分のせいでソマリが怪我をしたと思いのようですが、ソマリはそのように思っていないわ。
ソマリは自分でハルよりも先に走っていったのを私は見ていましたわ」
それは僕が動けないと察して、と言いかけたが黙ってクロエ姫話を聞き続けることにした。
クロエ姫は立ち上がり庭園の遠くを見ながら話を続ける。
「私達は会ったばかりですが道中を共に進み、一緒に食事をして、余興として王宮騎士と剣を交え、楽しくお話もしました。彼女はとても明るく、やさしくて、そして強い」
クロエ姫はしゃがみこみ僕の手を両手で強く握る。
「そんなソマリが仲間のために戦い、いざ自分が怪我をしたら人のせいにするとは思いません。
そして何より……、その事でソマリの大好きな人が苦しんでいたらソマリは怪我をしてしまった自分を責めるかもしれませんよ?」
…………僕は深く息をしてゆっくり息を吐く。
「ふぅ…………。僕は何をしているんでしょう。自分を責めていてもなにも変わらないですよね。それに……、お姫様に慰めさせるだなんて」
僕は少し気が晴れたようだ。
クロエ姫はニコッと微笑み手を挙げる、メイドが小走りで駆け寄ってきた。
「ハルを部屋に案内してさしあげなさい」
「かしこまりました」
メイドがお辞儀をするとゆっくりした足取りで歩き出した。
僕は黙ってメイドについていく。
綺麗な大理石みたいな床、周りには高そうな装飾品が飾ってあって、天井は高くとても解放感がある。もちろん汚れなど見当たらない。
しかし……通りすぎる人々は、メイド、執事、貴族くらいだ、みんな服装がピシッとしている。
僕の服装はただの村人の服、しかも汚れているし……いままで服装なんて気にならなかったけど、こういう場所に来るとさすがに気になる……。
広い城内しばらくあるくと来客用の部屋に案内された。貴族や王族の来客用の部屋とは雲泥の差だが、それでも僕には十分過ぎるほどの贅沢な部屋だった。
装飾品、骨董品等は置いてないものの、綺麗なカーテンや絨毯、椅子やテーブルがあり、なんといってもフカフカそうなベッドまである。
「ここがハル様の滞在中のお部屋になります」
メイドと別れた僕はベッドに倒れこんだ。
空がオレンジ色になる頃、僕はドアにノックする音で目を覚ました。どうやらこれから食事があるとのことだが、そういえばテーブルマナーなんて地球でも教わってなかった。
着替えを持ってきてくれたらしい。汚れていたし気になっていたので助かります。
メイド二人が僕の服やズボンをポンポン脱がして綺麗な服を――――いや、まって、これおかしいから!
「ハル、着替え終わったかしら!?」
ノックなしで勢いよく扉を開け、中に入るクロエ姫。僕を見るとニマリと微笑みメイドに親指立ててグッドジョブしている。クロエ姫の差し金だったか!
僕の着ていた服は、いつの間にか消えていたメイドが洗濯のため持っていってしまったようだ。
はめられた!
僕はノースリーブワンピースみたいな服を着たまま、手を引かれ食事の部屋まで連れていかれた。
お城の食事のイメージって、だだっ広い部屋に長いテーブルがあって、二十人くらい座れるイメージであった。
しかし、この部屋は少人数用の食事のために用意された部屋みたいだ。
テーブルには四人分のナイフやフォークが並べてあった。
四人? 僕、ソマリ、クロエ姫……、あと一人だれだろ? そこにソマリがやって来た。僕とは少し違うデザインの黄色のドレスを着ていた。
「ははハハはハハル様!?」
ソマリは、まるで買ったばかりの大きいぬいぐるみを抱き締めるのように僕に飛び付いてきた。
「ハル様かわい――――って! っ痛あああああっ!」
勢いで僕に抱きついたソマリは腕の怪我を忘れていたらしい……。
「なにやってんだおまえら……」
そこに入ってきたのは、呆れ顔のオリバー騎士団長だった。どうやら一緒に食事するのはオリバー騎士団長のようだ。
「報告結果と魔物戦の時の話をしたくてなな……」
ああ……ですよね。魔物戦、つまり魔物を一撃で倒せるほどの身体能力のことか。
食事が運ばれてきてソマリの横ではメイドが料理を切ったりしてくれていて、ソマリが片手で食べられるようにしてくれている。
治療、食事、身の回りの世話までやってくれるのだから至れり尽せりである……。
うん、ソマリの思考はそんなこと微塵もおもっていないようだが……。
「もしハル様と二人きりならハル様が世話をしてくれていたんじゃ!?」
「ま……まぁ……そうなりますかね……」
「はうぅぅ! 食事もアーンとかして、着替えも手伝ってもらってぇ、はっ! お風呂の時はどうしましょう!」
目は僕を見つつ赤らめた両頬に手を当ててイヤンイヤンしている。思ったより元気そうで安心しました……。
オリバー騎士団長が咳払いをして、真剣な顔で僕を見つめてきた。
「ハル君、どうしても聞きたいことがあるんだが……」
きた。魔物を倒したときのことだ。さて、なんていうかな……。
「君は……実は女の子だったのか……?」
意表を突かれた言葉に僕はテーブルに頭を打ち付けた。
「その格好……」
咳払いをするオリバー騎士団長。
ああ……たしかにこの格好見たら……。
「男ですけど……、これはクロエ姫の差し金で……」
――――なんで三人して親指立てているんですか!
「ハル君は何者なんだね?」
オリバー騎士団長が真剣な顔になった。
「孤児院で拾われて目を覚ましたら記憶が一部ありませんでした。身体能力は目が覚めたときにはこのようになっていたと思います」
「うーん……。君のこれからだが……しばらく私達と一緒に行動してもらいたいのだ。勿論、王都の城下町など自由に出歩いてもらっていいし、ヨハンを訪ねる件も行ってきてもらっても構わない」
「つまり監視を付けたいということでしょうか?」
「そういうことになる。君には魔物や野盗を倒した時の恩があるのだが本当に申し訳ない! その代わり、監視を付けている間、城での衣食住とソマリ君の治療は保証する」
別に牢屋に入れられたり、部屋で監禁とかではないし、なによりソマリの治療や世話もしてもらえるのだから願ったりではないだろうか。
次の日の朝、僕達はヨハンを訪ねるために城を出た。
メイドに新しい服を渡された。勿論男物だ。生地は上質でとても肌触りが良い。
ところで――――――
「なんでクロエ姫とオリバー騎士団長がいるんですか……」
「面白そうだからに決まっていますわ!」
クロエ姫は腰に手を当てて偉そうに何言ってるんですか……第二姫って自由すぎないですか? 暇なのか? 社交会やお茶会みたいなものはないのか?
「ハル君の監視とクロエ姫の護衛だ」
オリバー騎士団長が腕を組んでドヤってるっ。騎士団の方の仕事大丈夫ですか?
「面白くなりそうです!」
ん? ソマリ? なにが面白くなるの?
「これってあれですよね! 刀を造るのはお前の実力を見てからだ! とか言われてハル様の力を見せつける展開ですよね!」
いやいや! 穏便に済まさせてください。




