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第十六話 助けられた少女

 

「あの……ありがと」


「別にいいですよ。もう盗んだりしちゃだめだよ?」


 コクリと頭でうなずく少女。


 少女は僕の手を両手で包むように握ってきた。そして僕と目を合わせる。


「わたし……モモ」


「僕はハルです」


 なんだかモモの目がキラキラしている。小さい子がヒーロー映画を観ているときのような憧れの目。


「さっきのハル、すごかった……魔法?」


 木刀を握りつぶしたことや、屋根に跳びのったことであろうか?

 どうやら魔法と思っているみたいだ。


 手を握ったまま質問をしてくるモモにソマリが面白くなさそうに間に割って入ってきた。


「ハル様はこれから用事があるので失礼しますー!」


「ハル様? 様? 貴族?」


 そうだ、ヨハンに会いに行く途中だ。


「すみません、僕達はこれから行くところがあるので、気をつけて帰ってくださいね」


 そう言って離れようとする僕の服を、ガシッと掴むモモ。一瞬何かを言いかけて止めたが、決心したのか僕にとんでもないお願いをしてきた。


「なんでもする……雑用でも……ハルの下で働きたい」


 困った顔をするみんな。

 僕の事を貴族とか思ってるのかな……。僕の服を強く握ったまま真っ直ぐに見つめてくる瞳。


「奉仕……がんばるから……」


 ちょっと……この少女は意味がわかって言っているのだろうか……。


「そ、そんなこと許すはずないじゃないですか!」


 ソマリが掴みかかる勢いで怒鳴り始めた。


「あなたみたいなチンチクリンで胸もないような子供で、ハル様が満足するはずないでしょう!」


 違う! 問題はそこじゃない!


 通りすぎていく人がジロジロ見ていく。いや、立ち止まって観ている人も……。


 眉間(みけん)に指を当てているオリバー騎士団長が、見かねて場所を変えようと提案してきた。

 ごもっともです……。




 ヨハン刀術道場近くの大きな広場に移動した。

 周囲は芝生が広がっていて見通しのいい場所だ。ピクニック、ボール遊びがおもいっきり出来そうな広があり、中央には大きな池があり周りにはベンチも備え付けてある。


 遠くには露店も出ていてその周りには人が結構集まっているようだ。僕らはその反対側の人気(ひとけ)の少ない所にいる。


 モモは孤児院暮らしで、食事は朝と晩だけらしい、各食パン一つとスープだと言う。少し少ないような気がするが王都の孤児院はこんなものなのかな? 服装もサイゼンの街で僕が着ていたときの服よりも、だいぶ使い古されているようだ。



 僕が孤児院にいたころは、朝昼晩の三食食事があり、パン二つにスープがあった。そして二食と三食ではかなり違うだろう。


 しかしオリバー騎士団長の話では「おかしいな、そこまで苦しい生活にならないはずだが」ということだ。


 王都では孤児院の子供が冒険ギルドにくることはないのだという。行ってはだめということはないが王都は冒険者や旅人がかなりの人数がいるため、薬草や素材採取しながら狩りに行く人もいるらしい。


 つまり近場にはほとんど生えていないため、孤児院の子供が採りに行けるような場所にはほとんど残っていないということだ。


 しかし食事は出るのだから、成人まではギルドに出向いてまで、働くことはしなくていいだろう。

 ただ孤児院への仕事依頼や、孤児院内での内職のような簡単な仕事くらいだ。


 孤児院の件に関してはオリバー騎士団長が調べてみるということになった。



 そして僕の右側には腕の袖を掴んでいるモモ。左腕にしがみつくソマリ。


「ハルはモテモテねえ、わたくしもアプローチしようかしら?」


 クロエ姫、からかうのはやめてください。ソマリが、モモとクロエ姫に、猫のような威嚇(いかく)している。


「モモ、勘違いしているみたいだから言っておきます。僕は貴族でも商人でもなく、ただの旅人です。

 それに旅人の前は孤児院にいました。なので僕はお金もないので君を雇うことはできません」


 これを聞いたモモは予想外だったのか、僕を見て目を大きく開いている。


「よかった……」


 ん? 何がよかった?


「貴族じゃないなら、一緒にいられる?」


「「…………」」


 僕達は言葉を失った……。ソマリは眉間にしわ寄せて機嫌が悪そうだ。


「旅……ついていっていい?」


「駄目にきまってるでしょ!」


 ソマリさんは立ち上がって怒った。


「外は危ないのよ! あなた成人前でしょ!」


「ハルは……成人?」


「――――成人です!」


 やだ、ソマリ。一瞬どう答えようか迷った末に嘘ついちゃってる。


「それにあなた戦えないでしょ!」


「ハル強い……守ってくれる」


 僕の腕にしがみつくモモを見てソマリは我慢の限界のようだ。ここは僕がきちんと言わないとダメそうだ。



「モモちゃん……君の気持ちは嬉しいんですけど、やっぱり旅は無理だと思います」


 ショックを受けたようで少し涙目になっている。泣きそうな子に断りの言葉を言うのは辛い。


「僕は強くありません、僕が臆病で弱虫だったせいで今までに二人も傷ついてしまったのです」


「何言ってるんですか! ハル様は最強でむふううう!」


 オリバー騎士団長に口を塞がれてたソマリ。ほんとオリバー騎士団長は頼りになります。


「敵の数がこちらより多いこともよくあります。そのようなとき、モモちゃんを守れないのです。

 モモちゃんが自分の身を守れるくらい強くなってからじゃないと危ないんです。

 だから……つれていけません」


 僕の腕にしがみついている力が強くなる。

 モモはうつ向いているので顔は見れないが、地面にポタポタと涙が落ちるのが見えた。


 僕の心がギュッと締め付けられる。でもここはちゃんと断っておかないと。


「……わかった」


 それだけいって立ち上がり、モモは走り去っていった。




 僕達は黙って見送ることしかできなかった……。


 モモが見えなくなって僕は立ち上がる。


「それでは……ヨハンさんに会いに行きましょうか」


「ハル様……」


 なんでソマリは僕を心配そうに見ているんだろう?


 僕は自分では気がついていなかった。みんながわかるくらい辛そうな顔をしていることを……。


「子供のくせに無理しちゃって、本当は連れていってあげたいくせに」


 やれやれと言った感じでクロエ姫は僕を子供扱いしてくる。たしかに子供ですけどね! 


「いえ、連れていきたいという訳じゃなく、冒険者って仲間とワイワイできて楽しいと思うこともあるけど、収入安定しないし、危険な事も沢山ありますよね。

 最悪死んじゃうかもしれないのに、簡単に旅をするなんて言うモモちゃんが心配なだけです」


 オリバー騎士団長は黙って僕の頭をぐしゃっとなでてくれた。


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