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俺とあいつの永久(とわ)の愛  作者: 木庭七虹
2/5

BL展開まで、あと10年と半年。

 高校時代。

 気付かなかった。

 正直、まったく気付いていなかった。

 でも、思い返してみれば、それっぽい反応はあったんだ。

 それこそ「後から思い返してみれば」だ。

 当時の俺は、まったくこれっぽっちも、本当に、ほんのわずかなカケラさえも気付いていなかった。


 あれは、たぶん、高校三年の夏休み前だったと思う。

 俺と大沢は同じクラスで、よくつるんでいた。

 席が前と後ろだったので、休み時間には俺が椅子の背を跨ぐように座って、大沢としゃべくってることが多かった。

 で、男同士なんて、互いにちょっかい出しては突っつき合ったりするじゃんか。高校生になっても、幼稚園児のころと同じように。

 あの日は、散髪をサボって鬱陶しくなっている大沢の髪が気になって、「いい加減切れよ」って言って、あいつの髪の毛に俺が指を突っ込んで、ガサーって感じでかきあげたんだ。

 やめろよーって言って、大沢が俺の手を掴んだ。

 俺が調子に乗って離さなかったのが悪かったんだけれど、嫌がるのが面白くて、俺はあいつの頭を撫でまわした。

 俺はいつものおふざけのつもりで遊んでいたんだが、どうやらあいつは本気で嫌だったらしい。

 大沢は真っ赤な顔して怒ると、俺の腕を掴んで、チュッと親指の付け根あたりにキスしやがった。

 俺はギャーって叫んで手を離したよ、もちろん。

 大沢のキッスはこうかばつぐん。してやったりっていう顔をしてるんじゃないかと思って見れば、あいつ、なんだかちょっと辛そうな顔をしていたんだ。そこでようやく、俺はやりすぎてた事に気付いたんだ。

「ごめん」

 俺は素直に謝った。

 大沢が俯き、ふたりの間に沈黙が落ちたその時、窓際に集まっていた女子の方から、どわっと、笑い声とも何とも言えない歓声が上がった。

 そちらに目を向けると、全員の視線がこちらを向いていて「感無量」って感じの表情で肩を震わせていた。


 その後気付いたんだ。俺たちがつるんでいると、女子どもが、こっそりとこちらを見てはクスクスしているってことに。

 ふたりともオタクであることは周知の事実だったから、それで嫌われているのだと思っていた。クラスの女子全員に嫌われる悲しきキモオタ。いや、大沢に限っては無駄に美少年だから、オタクではあれどキモ男認定はされていなかったと思う。


 しかし、現実は、俺が思っていたのとは、ちょっとばかり方向性が違っていたようだ。

 夏休み明け、女子どもがいつものように集まって、何かをこそこそ見ていた。肩を震わせ忍び笑いを漏らしている。夢中になっていて俺の存在に気付いていない。

 女どもの真ん中にある机の上には、なにか薄っぺらい冊子のようなものが開いていた。

「何見てんだよ」

 嫌われ者の俺は、嫌われ者らしい態度を取らねばならない。なんかそんなバカげた使命感のもと、女子の輪に乱入し、真ん中にあった冊子を取り上げた。

 女子どもの悲鳴が上がる。

 取り返そうとジャンプするが、背の高い俺が手を上げれば、届く女はいない。

「大沢!」

 ちょうどそこに、便所にでも行っていたらしい大沢が戻ってきたので、俺は冊子をパスした。

 きょとんとした顔で受け取った大沢は、開いていたページに目をやり、途端に真っ赤になった。

 今度は俺がきょとんとする番だ。

 震える手で差し出す冊子を俺が受け取ると、あいつはそのまま教室を飛び出していった。

 女子どもは、なにやら「感に堪えない」といった顔をして、もう冊子を取り戻そうとはしなかった。

 俺は、冊子に目を落とした。

 ヒョッと変な声が出た。

 これが噂の、「薄い本」というやつか……。

 耽美な絵で描かれたそれは、男同士の絡みだった。

 しかし、やけに上手い絵だなぁ、おい。誰が描いたんだ? うちのクラスの女子なのか? と、感心しているのも束の間、ふいに気が付いた。

「って、まてよ! これ、俺と大沢かッ⁉」

 女子どもは、どうやら開き直ったらしい。こちらの反応をニヤニヤしながら見ている。

「おまえら、ナマモンはやめとけよ。こんなんさすがの俺でも傷つくわ」

 本当はさほど傷ついてなんかいなかった。オタク心は理解できるのだ。俺だって、クラスの女子をおかずにしたことがないとは言えない。裸の絵をこっそり落書きしたことがあるなんて言えない。ああ、言えない。絶対に言えない。罪を犯したことがない者だけが石を投げなさい。

 我々は謂わば同じく脛に瑕を持つ身なのだ。でも、少しお灸を据えてやりたくなって、正義を振りかざしてみせた。

 オロオロしはじめた女子どもに薄い本を突き返し、俺は大沢を追いかけた。

 あいつ意外に繊細なところがあるから、ショックで気絶してるかもしれない。


 体育館裏で見つけた。

 犬走りに三角座りをして、膝に顔を埋めている。

 俊ではなさそうな気がした。

 柊夜でもないか?

 権蔵さんや倫子さんが、こんなポーズで落ち込んでいるとは思えないし。

「茉優か?」

 と聞くと、大沢は顔を上げた。切なげな、色っぽい顔。やっぱり茉優だ。

「おまえって、ボクたちの誰が出ているか外したことないよね」

 茉優はボクっ子だ。

「んー、なんとなく区別がつく」

「そっか」

 俺は大沢の隣に座った。

「あんな悪ふざけ気にするなよ」

 慰めようとしたが、茉優はキッとした目でこちらを見た。

「いや、気になるっしょ! なんでボクがウケにされてるの!」

 と、興奮気味に言う。

「怒るのそこっ⁉ 何? 茉優さんって腐女子?」

「男同士の絡みに、コーフンしない女子がどこにいるっていうの?」

 え? そういうもん? いや、仮にそうだとしても、アレ、俺たちだよ? いいの? と心の中で思う。混乱。

 いや、こいつも立派なオタクだ。オタクの心はオタクを知る。

「描かれてもいいんだ?」

 念の為聞くと、「嫌だよ」って言って泣き出した。

 女の気持ちはわからん。まったくわからん。

 俺は何にもわかってなかった。


 本当の本当に、まったく何も気付いていなかったんだよ。

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