5−2.
それはベスタ5歳、ミレー4歳の時。
カイザルはレイヴァーンズ邸にやってきてリーニャの2人の小さな娘を見下ろしていた。
『2人に似ているな。』
リーニャは嫌な予感がして自分の背後に2人の娘を隠す。
『名前も似ているとはな・・・まさかあの女に似た名前を付けるなんてな。』
『あんな子でも私の双子の妹ですもの、仲は悪かったですが多少の情はあるものよ。』
リーニャの言葉にカイザルは険しい顔になる。
『情がある?情があるなら何故あの女の暴走を止められなかった!!』
カイザルの怒号が響き小さな娘達は母の後ろで怯える。
『そうだ・・・いいことを思いついたぞ。』
カイザルは怯える小さなミレーを指さし言った。
『国に敗戦の代償として、この娘をとことん甘やかせろ!』
『どういうこと!?』
『お前や周囲の人間はこの子の命令をなんでも聞け!この子が不快だと言った人間は排除し!欲しいと言った物は全て買い与えろ!』
『カイザルどうしてそんな事を!??』
『ミレーニャにそっくりな子が甘やかされたらどうなるか気にはならないか?どこまで堕ちるか見ものだな!』
『お願い貴方の復讐にこの子達を巻き込まないで!!』
『莫大な賠償金を払うより遥かにマシだろ。俺からベスターニャを奪った原因にお前もこの家も含まれてるんだからな!』
カイザルはリーニャの肩に手を置いた。
『俺から彼女を奪った様に、お前から愛する娘を奪ってやる。』
リーニャは肩を震わせた。
そしてカイザルはしゃがみ込むと怯えている小さなベスタと目を合わせた。
『最低限だがこの子が害されないようには守ってやる。もちろんこの話はこの国の上層部とお前だけの秘密だ。』
そういうとカイザルはレイヴァーンズ家を出て行った。
こうして敗戦の賠償金代わりに、ミレー・レイヴァーンズを甘やかすというに奇妙な要望は実行された。
上層部は賠償金を払わなくてよくなってウハウハだったが、この結果が将来最悪な出来事に繋がるなんて想像できなかっただろう。
「カイザルは復讐をやってのけたわ。甘やかされて歪んでミレーニャにそっくりになっていくあの子を私は愛せなくなった。実の娘なのに憎くて憎くてしょうがなかった!カイザルは私の心から愛すべき娘を1人奪ったのよ!」
リーニャは涙を流し手で顔を覆った。
ベスタはなんて声をかけていいか分からず、ただ悲しかった。
「ミレーが甘やかされた理由は分かりましたが、何故わたくしを冷たく接したのでしょうか。わたくしはずっと嫌われていると・・・。」
リーニャは泣き腫らした顔をゆっくりと上げた。
「ベスタに優しくするとミレーが不機嫌になるの、周りに当たり散らしては何人もの従者が追い出されたり冤罪で逮捕されたわ。」
「だから・・・。」
ベスタは全てが腑に落ちた。
「ミレーの機嫌を損ねない様にするしか私にはできなかった!私は公爵家当主としても母としても失格だったわ!」
だんだん堕ちていく娘に何も出来ない苦しみはベスタにも伝わっていた。
「私が貴女に、妹に関わらない様にほっとく様に厳しく言っても、貴女は妹を止めようとした。叱ったり諌めようとした。私が本来やるべきことを貴女はやっていたわ。だから私は貴女に冷たくするしかなかった。妹の機嫌を損ねないように。」
「でも、結果的にミレーは・・・・・。」
ベスタは悔しそうに唇を噛んだ。
「終わった事は仕方ないわ。」
先程とは打ってかわって、リーニャは落ち着きを取り戻した。
リーニャは優しくベスタの手を握った。
「カイザルによってあの子の他にも何人も逮捕された。カイザルはこの国から王太子をも奪うことに成功した。カイザルの復讐は全て終わったの。」
リーニャはまるでミレーの事など忘れたかのように微笑む。
「これからは普通の母娘としてベスタと接したいの!今まで出来なかった事全部してあげたい!甘やかしたり髪を結ったり、ベスタの為におやつを作ったり、なんでも好きな物を買ってあげたい!最初から全てやり直しましょう!ね?」
母の手を振り払った。
「もう、遅いですわ。」
カイザルは結果的にリーニャからベスタさえも奪った。
「わたくしは、昔の様にお母様を慕う事ができないんです。」
振り払われた手は再びベスタに伸ばされたが、ベスタがその手を取る事はなかった。
「少し・・・考えさせてください。」
こうして執務室を後にしたベスタ。
残ったのは静かに泣くリーニャだけだった。




