3.ただただ苦しませたい
あのお茶会から2ヶ月後。
卒業パーティーの日。
「はぁ……。」
ベスタは華やかな会場にいるにも関わらず1人暗い顔でため息をついて壁際のソファで座っていた。
ベスタは会場にいる誰よりも高価で美しいドレスを纏いベスタの美しい容姿を更に引き立てたが、会場にいる誰も近づく事なくさり気なく遠くからベスタを見つめていた。
会場で1番美しく輝いているベスタに誰も近づかないのは先日のお茶会での事件が原因だ。
ベスタの妹であるミレーが招待客の令嬢の騎士に無理矢理キスをしたあの事件により、ミレーの愚かな行為を防いだりする事が出来なかった次期公爵であるベスタの手腕を疑われていた。
次期公爵の手腕を疑う以上にレイヴァーンズ姉妹に関わりたくないと思うのがほとんどだった。
今回のお茶会の事件に関わらずミレーの評判は元から悪く、まともな思考ならレイヴァーンズ家の妹ミレーとは関わらない方がいいとまで言われていたのが、今回の事件で妹をの行いを防ぐ事が出来ない無能の次期公爵の姉ベスタとも関わらない方がいいと、若い貴族の間で暗黙の了解になってしまった。
卒業パーティー参加者達からの『レイヴァーンズ姉妹と関わると碌なことにならない。』という雰囲気をひしひしとその身に感じているベスタは今日何度目かの重いため息をついた。
「もう、何をしても私のやる事は無駄になるのでしょうね・・・いっそ消えていなくなりたい。」
折角の祝いの日もどんよりと暗い気持ちがベスタを襲う。
来賓席では公爵家当主として母リーニャが参加しているが、見るからに落ち込んでいるベスタに気付いていても話かける事はなかった。
「(何の騒ぎかしら?)」
入り口の方からざわめきが聞こえ視線を入り口に向ける。
「ごきげんよう!お・ね・え・さ・ま♪」
卒業生ではないミレーが黒髪のツインテールを揺らしながら堂々と入ってきた。
それもアレックスの腕に手を絡ませて。
ざわつきが徐々に大きくなっていく。
「本日は皆様にご報告があるの!」
ミレーはベスタに向かってニンマリと笑った。
「私ミレー・レイヴァーンズはこちらのアレックス・グレイシス様と婚約致しましたわ。」
ざわめきは一層大きくなった。
「ごめんなさ~いお姉様♪でもお姉様がいけないのよ?私の殺害計画なんて立てるから。」
「はぁ?」
身に覚えのない意味不明な事をいうミレーに信じられないものを見るような目で見るベスタ。
「証拠がこれよ!」
ミレーは一枚の紙を広げた。
「お姉様の部屋から見つかった殺害計画書よ!まさか妹を殺害しようとするなんて恐ろしいお姉様なのかしら?アレックス様は妹を殺そうとする姉よりも私の方がいいですって!」
「最低なベスタと婚約なんてごめんだね。それに俺はミレーを愛してるんだ!俺はベスタからミレーを守る!」
アレックスはミレーの細い腰を掴んで引き寄せた。
「(なにが起こっているの?なにがどうなって?)」
ベスタは困惑して口をハクハクと動かすしかなく、来賓席にいる母もどうしたらいいかわからない様だった。
「ベスタ・レイヴァーンズ!」
ベスタの名を叫び、ミレーの隣に並ぶのはこの国の王太子のレイモンドだった。
「ベスタ・レイヴァーンズ!貴様はなんて酷い姉なんだ!こんなか弱く可憐な妹をいじめて殺そうとするなど許せん!」
王太子はミレーの悪い噂を知らないらしくミレーから嘘を吹き込まれて信じている様だった。
王も王妃もその場にいる誰も彼もがミレーと王太子を止めることなく話が進む。
「王太子の権限で貴様を逮捕する!騎士達!ベスタ・レイヴァーンズを捕えよ!」
王太子の言葉で10人の騎士がベスタを囲った。
何の言い訳も出来ず無実の罪で捕まることにベスタの心は壊れる寸前だった
1人の騎士がベスタを取り押さえようと手を伸ばした時。
「そこまでだ。」
その声は、低くよく通った。
その方は来賓客の隣国の太公閣下だった。
「皆の者頭を下げよ!!!」
先ほどまで傍観していた王様が焦った様子で皆に太公に頭を下げる様に言った。
「え?太公が何よ?こっちには王太子がいるのよ!王太子の方が上じゃない!」
頭を下げないのはミレー、アレックス、王太子の3人だけだった。




