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甘やかされた妹に姉は限界だった。  作者: 鈴木べにこ


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7−2.

「アレックス!助けて!」


 

 ミレーは鉄格子に縋りつく。



「ミレー悪くないの!皆ひどいこと言うのよ!」


 

 だが。


 アレックスは、氷のような目でミレーを見た。



「悪くない?だと・・・・。」


 

 ぞくり、とミレーの背筋が冷える。

 


「お前、本気で言ってんのか?」



「え・・・・。」

 


 アレックスはゆっくり立ち上がる。



「俺の家は取り潰し寸前だ。」


 

 低い声。



「父上は激怒して倒れた。」



 ミレーの顔が引き攣る。


 

「母上は泣き続けてる。」


 

 アレックスは一歩、鉄格子へ近づく。

 


「全部、お前に関わったせいだ。」


 

 そこには知らないアレックスの姿があった。

 


「ち、違っ!」


「違わねぇよ!!」


 

 怒号が地下牢を震わせた。


 ミレーは怯えて肩を縮める。


 

「お前がベスタを馬鹿にするたび、俺達は笑った!」


 

 アレックスの目には怒りと後悔が滲んでいた。


 

「お前が癇癪起こすたび、無理して機嫌取って!」



 アレックスから涙がポロリと落ちた。


 

「気持ちよかったんだよ!!」



 吐き捨てるような声。


 

「公爵令嬢に求められて、特別扱いされて、自分が偉くなった気になってた!!」



 拳を鉄格子へ叩きつける。


 

「でも結局、全部これだ!!」


 

 ガァンッ、と鈍い音。



「俺の人生めちゃくちゃだ!!」


「アレックス・・・。」


「黙れ!!」



 アレックスは荒い息を吐きながら、憎々しげにミレーを睨んだ。

 


「・・・ベスタは、ずっと正しかった」


 

 その言葉に、ミレーの肩が震える。

  


「俺達が間違ってたんだ。」


 

 かすれた声。


 

「なのに俺は・・・。」


 

 アレックスは顔を歪める。



「ベスタを裏切った。」



 後悔。


 絶望。 


 自嘲。


 

「・・・最低なのは、お前だけじゃない。」



 アレックスは壁に持たれ込むとずるずると座り込んだ。



「俺も同じだ。」



 地下牢に重い沈黙が落ちる。



 その時。 


 重い足音が響いた。


 ざわついていた空気が、一瞬で静まる。


 現れたのは――

 

 


「・・・太公閣下。」


 

 誰かがポツリと呟いた。


 現れたのはカイザル・ナハトだった。


 彼が姿を見せた瞬間、全員の顔色が変わる。


 カイザルは冷たい瞳で牢を見渡し、最後にミレーを見た。

 


「随分と騒がしいな。」



 静かな声。


 その一言だけで、誰も喋れなくなった。


 そしてカイザルは、ゆっくりと口を開く。


 彼が姿を見せた瞬間、先ほどまで怒鳴っていた者達は一斉に顔色を変えた。



「た、太公閣下・・・!私達は違うんです!無理矢理ミレー様に付き合わされて・・・!」


「私は反対していました!」


「本当です!信じてください!」


「僕は王太子だ!こんな所に居るべき人間じゃない!」



 醜いほど必死な弁解。


 カイザルは冷え切った瞳でそれらを見下ろした。



「・・・・見苦しいな。」



 一言で、全員が黙る。



「お前達は、止められたはずだ。」


 

 静かな声。



「だが止めなかった。」



 誰も反論できない。


 

「利益があったからだ。」



 カイザルの言葉は容赦がない。



「甘い汁を吸い、弱い者を見下し、都合のいい権力に群がった。」



 まるで全員を暴くような声。

 


「ミレーやそこの婚約者、はたまた考えずに騙された王太子だけが愚かだったわけではない。」


 

 その場にいる全員の顔が青ざめる。



「お前達全員が、“腐っていた”。」


 

 静かな断罪だった。


 誰も言葉を発せない。


 その沈黙の中。


 カイザルはゆっくりとミレーへ視線を向けた。

 


「だが――」



 低い声。


 

「お前の姉だけは違った。」



 ミレーの肩が震える。


 

「ベスタだけが、お前を止め続けた。」



『ミレー、やめなさい!!』 


『そんなことをしてはいけません!!』


『謝りなさい!!』


 

 ベスタの脳裏に、姉の声が何度も蘇る。


 

「お前を嫌っていたからではない。」


 

 カイザルの瞳が細められる。



「お前を、人としてまともな道へ戻そうとしていた。」


「・・・・違う、お姉様はミレーが嫌いだったからよ。」


 

 カイザルの言葉に抵抗するミレー。


 そうしないと涙が溢れそうだった。

 


「他の連中は、お前が壊れてもどうでもよかった。」



 冷たい現実。



「そんな事、ないもん。」 


「ベスタだけは、お前の未来を案じていた」


「・・・・そんな事。」


「それが、“愛情”だ。」


 


 姉からの愛情を受け入れることが出来ないミレーは震えながら唇を噛み締めた。



 

「明日、お前達は辺境へ送られる。」



 淡々と告げられた。

 


「そこで自分達が何だったのか、嫌というほど知ることになる。」


 

 そう言い残し、背を向ける。

 

 遠ざかる足音。



「(お姉様だけがミレーを・・・・?)」



 ミレーは辺境の地に着くまで、生まれて初めて姉ベスタという人間についてずっと考えるのだった。


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