VSウルトラエレファン
朝から狂ったようにシャドウ・タイガーを狩りまくると、16時を回ったころにレベルが上がった。
『――青宮 翼のLVが31へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
(うし。また2体フロアボスがいるから、1体目に挑むとするか)
移動した先――密集していた木々がなくなり、円状に開けたエリアがあった。
その中へと足を踏み入れると、中央に大きな青い魔法陣が浮かび上がる。
その光が弾けるのと同時に、巨大なフロアボス――ウルトラエレファンが姿を現す。
全長は10メートル越え。
灰色の肌の、長い鼻に白く長い牙。
見た目は地球にいるゾウに似ていた。
もっとも、デカすぎて比べ物にならないくらいに、迫力と威圧感があるが。
「ここまでデカいと、さすがに怖いな」
ステータス補正があるとはいえ、本能的に大きなものと戦うのには勇気がいる。
(かなりのパワーがあるらしいし、的がデカいから魔法を打ち込みたいが……残念ながら、魔法にはかなり強いらしいんだよな)
耐性どころか、あらゆる魔法攻撃をそのまま反射させるという特性があるのだ。
一応、その反射させるバリアすら破壊する威力があれば、問題ないらしいが……その具体的な威力については、検証が難しいのか、データベースには書かれていない。青宮の魔法が破壊できるかどうかは賭けになるので、魔法は使わない方針だ。
新しく取得した範囲魔法が跳ね返ったら、さすがに無事でいられる自信がない。
「パオォォォォォンっ!!!」
高いラップ音のような鳴き声と共に、こちらへ接近してくる。
ずどどどどどどど、とすさまじい地響きが鳴った。
「迫力ありすぎだろ……!」
ステータス補正があるとはいえ、自分より何倍もデカいバケモノを相手するのは恐ろしい。
ウルトラエレファンはその長い鼻を、青宮めがけて振り下ろした。
高い俊敏を活かして回避――そこから、数手攻防が生まれる。
青宮が回避し、ウルトラエレファンが下がりながら鼻を振り回す。
懐へ潜り込まれるのを嫌っていた。
青宮はその隙を見逃さない。
鼻による攻撃をかいくぐり――足元へと接近。
ウルトラエレファンが足を上げ、ズドオオオオオンッ!!! と、思いっきり振り下ろした。
当たれば確実に踏みつぶされる破壊力。
回避した青宮の体が跳ねた。
「っ、そこだっ!」
ようやく反撃に転じた青宮が、カウンターで一閃。
硬い皮膚の感触があったが、刃は通り、確実にウルトラエレファンの足を傷つける。
ラッパ音の鳴き声が響くも、怯まずに何度も足でこちらを潰そうとする。
「くっ……!」
足を振り下ろされるたびに、心臓が縮むかのようだ。
それくらいに緊張感がある。
殺される虫は、人間がこういう風に見えてたりするのだろうか。
そんなことを思った。
だが――こちらは、ただの虫なんかではない。
ウルトラエレファンを傷つけるパワーを確実に備えていた。
太い足からは、血が流れている。
青宮は回避を最優先としながらも、ひたすら斧を当て続ける。
やがて――ウルトラエレファンの足が、崩れていった。
迫りくる巨体から逃げ、青宮はウルトラエレファンの顔めがけて∞ウェポンを全力で振り下ろす。
「おらぁ!!!」
ズドンッッッッ!!! と、重い全力の一撃が決まる。
頭蓋を砕かれたウルトラエレファンは、全身が伸びた。
やがてその体は少しずつ消えていき、紫色の魔石へと変わっていく。
「はぁ、はぁ……やった、か」
全身、汗に濡れた青宮は地面の上で大の字になって伸びる。
ダンジョン内の夜空が、視界に映った。
『――青宮 翼のLVが32へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが33へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
格上ボーナスが強くなってきたのか、一気に2つも上昇する。
さらにスキルLVも上昇していった。
『――ベルセルクがLV6へ上がりました』
ベルセルク LV6
消費MP50。自己強化スキル。攻撃力、俊敏を110%上昇。魔力を20パーセント上昇。”HP、防御、精神を10%上昇”。効果時間は7分、クールタイム10秒。
だが……青宮の表情は、あまり嬉しそうではなかった。
(強いボスだったけど。この程度でギリギリじゃ、話にならない)
アメリカにいるナンバー1、桐澤 揚羽はこのボスを瞬殺するのではないだろうか。
冒険者協会で見た彼女のステータスは、そう思わせるほどに、強力なものであった。
そして推定される収入は、なんとウン十億なのだという。
たった1人で、それほど多くのエネルギーをまかなえるということなのだろう。
「最高じゃん」
不敵な笑みを浮かべる。
社畜時代じゃ絶対に不可能な収入。
這い上がってやろうと思い、あのクソ会社を辞めたのだ。
ブラックな冒険者業界だと思ったが、ようやく、成り上がりの目途が立つ。
「あの女を超えるくらい、強くなってやる」
★
なにもかもが、真っ黒な空間であった。
闇。混沌。
縦も横の感覚も無くなるような、無限に広がる虚無。
「さて――準備は整いました」
虚無を歩く女性は、右手を伸ばす。
指先に波紋が広がると、空間がゆっくりと歪んだ。
その先には、平和な街並みと人々の姿が映る。
「さあ、青宮 翼。また素敵な姿を、私に見せてちょうだいね」
頬を赤く染め、歪んだ笑みを浮かべ――四之宮 京子は、呟いた。
「今回は少し頑張らないと。人類、めちゃくちゃになるわよ?」
彼女の背後――ビルのように巨大な、ドス黒い卵が脈動している。
まるで、何かが“生まれる瞬間”を待ち望むかのように。
京子は振り返り、そっと卵に触れた。
「ねえ……あなたも楽しみでしょう?」
卵の表面が、どくん、と大きく脈打った。
EP76「メイジリザード」にて斧術LV5→6へ上昇している描写を追加しました。




