範囲魔法で狩りまくる
4体のシャドウ・タイガーが、一気に襲いかかってきた。
青宮は素早く、大きく後方へ飛び、左手を前へかざす。
「いくぞ――ウェーブ・ストライク!」
ベルセルク補正の入った、LV7の水魔法を放つ。
青宮の手の前に、大きな青い魔法陣か浮かび上がる。
次の瞬間――魔法陣から、轟音とともに“水の壁”が爆発的に膨れ上がった。
ズドオオオオオオオッ!!!
川の氾濫どころではない。
まるでダムが決壊したかのような圧倒的水量が、四体のシャドウ・タイガーを飲み込む。
木々が根こそぎ揺れ、地面が削れ、影が悲鳴を上げる間もなく押し潰されていく。
水圧は獣の骨格すら容易く砕き、黒い影は次々と弾け飛んだ。
残ったのは、砕けた枝と、転がる魔石だけだった。
「これ、これ! 敵を集めなくても、高火力で一気にモンスターを蹴散らす……やっぱり、攻撃魔法はこうでなくっちゃな」
望んだ攻撃手段を得られ、青宮は満足した。
そして再び移動を開始し、強力な範囲魔法となった水魔法と火魔法でシャドウ・タイガーを狩りまくる。
たった1人で、強力な高レベルパーティーに匹敵する戦闘能力であった。
狩りは23時まで続き、帰ろうとする頃にはさらなるレベルアップがシステムから告げられる。
『――青宮 翼のLVが30へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
「おし。今日はこんなもんかな」
ダンジョンを出て、夕食を外で済ませ、家に着く頃には0時を過ぎている。
社畜時代とはあまり変わらないルーティン。
しかし違いは1つあって、今の青宮は充実していた。
ダンジョン攻略が楽しいのである。
☆
朝。7時過ぎに起きてブロッコリーを茹で、卵を茹で、パンをレンジで温めた。
マグカップに入れたブラックコーヒーを飲み、朝食を食べながら、テレビを見る。
そこにはわざわざアメリカへ行って、ナンバー1冒険者――桐澤 揚羽へ街中でインタビューしたニュースが流れていた。
桐澤の年齢は26。腰の辺りまで伸びた赤色の髪。日焼けした褐色肌。美人だが野性味のある威圧的な鋭い眼光は、女戦士のような風格が漂っている。身長は182センチと高く、体格も良い。
スタッフから日本の冒険者業界の状況についてどう思うかと聞かれると、興味がないのか、桐澤は騒動すらも把握していなかった。
スタッフから説明されて初めて、会長が解任されたことを知る。
『へえ? 四之宮のやつ、辞めたのかよ。あ? 行方不明? リーク? あー、よくわかんねーけど、因果応報だろ? うさんくせーやつだったもんな』
――現在、後継者が議論されており、荒木氏、猪塚氏、獅子山氏の3名が候補に挙がっていますが、どなたになると思いますか?
『興味ねぇ』
――き、桐澤氏は後継者に興味はないのでしょうか?
桐澤の放つオーラと威圧感に、記者の手が震え、マイクの先がカタカタと揺れる。
通行人は、まるで大型肉食獣の檻に近づくのを避けるように、視線を逸らし遠巻きに歩いていく。
『オレは強いヤツとヤリあいてーんだ。子猫ちゃん達を束ねる仕事なんざ、願い下げだ』
――強さを求めて、アメリカへ渡ったということでしょうか?
『そーだよ。建前は外交だけどな。お前ら、知らねーだろ。日本の冒険者業界のレベルは低い。ザコばっかだ。アメリカにも、アーツファイトはあるんだけどよ。日本勢が戦ったら、全員蹴散らされるだろうよ』
――そ、そうなんですね。
『日本は出遅れた背景があっからな。ま、その辺りを危惧して、四之宮はわりーことをして、無理やり他国に追いつこうとしたんじゃね?』
――桐澤氏は“四之宮派”ということですか?
『だから、興味ねーよ。オレは強いヤツとヤれれば、それでいーんだ。けど、アメリカもわりと大したことなくってよ。ダンジョンぐらいしか、オレを満たしてくれるヤツはいねーよ』
(自信満々だな……かなりの実力者なのか)
気になって、青宮は桐澤 揚羽を携帯で調べた。
彼女はアメリカでも一目置かれているようで、その戦闘能力は“規格外”ならしい。
その性格はかなり獰猛、かつ貪欲。
強さと、強い仲間を求めてアメリカへ渡ったようだ。
しかし日本よりレベルの高い冒険者を育てたアメリカでも、彼女と釣り合う冒険者はいなかった。
(なるほど。こりゃ相当な化け物だな。やっぱり、まだまだ強くならないと)
――ところで、強いといえば、青宮氏が急成長を見せていますが。桐澤氏はどう思われますか?
『誰だそいつ? しらねーよ。あ? アーツファイトに出た? どうせザコじゃねーの? まぁ、気が向いたら映像を見てやるよ』




