ギルドマスター会議 前編
会場は変更され、協会の会議室となった。
13時。
ミーティングテーブルにつけられた椅子には、すでに青宮以外の13人のギルドマスターが全員集まっている。
開始時間の15分前なので、そこまでギリギリではないのだが、律儀にも集まりが良いようだ。
「すいません、お待たせしました。俺が最後ですか」
青宮がそう言うと獅子山が頷き、彼の隣に座った。
上座には誰も座っていない。
だが、座っている位置でなんとなく、各々の立ち位置が決まっていた。
四之宮派は窓際の椅子。
廊下側が、獅子山派か中立だ。
「――圧倒的に早い踏破記録に、ソロ狩り記録、そしてアーツファイトでの完全勝利。素晴らしいブーストですね。この成果に心からコングラチュレーションを」
四之宮派であるはずの、荒木の兄――貞雄がそんなことを言う。
四之宮を降ろしたことへの皮肉かと思ったが、貞雄が頭を下げて、やたらと下手に出る。
どことなくゴマ擦りのような気がしたが、青宮も座ってから頭を軽く下げた。
「ありがとうございます。そして勝手なリーク、申し訳ございませんでした」
そう言うと、獅子山が首を横に振った。
「君は正しいことを、勇敢にやっただけだ。さて全員揃ったところで、はじめようか」
が、貞雄が獅子山をにらんだ。
「あなたごときが仕切らないでもらっていいですか? フィックスするイニシアチブなど、ない立場ですよ」
「手厳しいな」
「進行は職員の方にしてもらいます。では、理事長。よろしくお願いいたします」
隅で立ったまま待機していた、理事長、と呼ばれた白髪の生えた男が上座に座る。
「僭越ながら、会長、副会長に代わり私が進行を務めさせていただきます」
青宮はううむ、とうなる。
(案の定、空気悪いな)
協会はリーダーを失った状態だ。
そして席に座る構図から、四之宮派と中立派、獅子山派になんとなく分かれている。
冒険者協会は今、バラバラになっているのだ。
(まあけど、意外と俺が責められることはないのか)
正直、四之宮派からなにかあるかと身構えてはいた。
しかし彼らも、1枚岩というわけではないのだろう。
四之宮はどちらかというと、力や利害関係で、仲間をたくさん集めていた。
彼女に対して心から忠誠心がある……という人物は、意外と少なかったのだろう。
「四ノ宮会長と副会長が不在になった今、空白となった席に座る候補の方が、2名いらっしゃいます。ナンバー2の実力者にして”ノヴァ・フロンティア”のギルドマスター、獅子山さん」
(ノヴァ・フロンティア……かっこいいな。そういえば、俺達の”スマイル・アドベンチャー”ってダサいよな。名前変えようかな)
青宮はふと、そんなことを考えたのであった。
職員は2人目の名前を上げる。
「ナンバー3にして”冒険者団体ネクスト・イノベーション”のギルドマスター、荒木さんです。今後は我々職員そしてギルドメンバーを含めた総選挙を行い、選ばれた方に次期会長を継いでほしいと考えております」
(冒険者団体ネクスト・イノベーション……ビジネス用語とか好きそうだな)
話が1つ区切られたので、青宮は手を挙げた。
「どうぞ、青宮さん」
「職員側からは、候補者はいないんですか? それこそ、理事長が」
「我々からは、立候補者はいないという状況です」
(あ、そうですか)
じゃあしょうがないな、と思った。
そしてその理事長が、全員を見渡しながら言った。
「他にも立候補したい方がいらっしゃいますでしょうか? 青宮さんは、どうですか」
話を振られて、慌てて首を横に振る。
「やらないですよ」
ギルドマスター全員、ピクリと笑いもしない。
どうやら冗談ではなく、本気で言っているようだ。
(下剋上を狙うために、こんなことをしたわけじゃないぞ)
とはいえ、勘違いされても仕方がないだろう。
そしてそんなやり取りの中、1人の女性が手を挙げた。
四之宮派から――猪塚 静恵、という者だ。
40代後半の女性。やや丸顔で化粧が濃いめ。きりっとした顔立ちは、どことなくお局としていそうな雰囲気がある。
「わたくしが立候補します。冒険者協会のリーダーは、“女性”がやるべきだと思います」
猪塚が率いるギルドの名前は“フェミ旅団”。
その名の通り、ジェンダー平等をポリシーとしている女性オンリーのギルドだ。
「四之宮様がいなくなった今、冒険者協会は男によって再び支配されようとしています。多様性の考えがない男に、平等な運営なんて出来るはずがありません」
猪塚がやや過激な意見を放つ。
しかし実際、日本の冒険者は長い間、男性の比率が多かった。
そして“魔石改革”により、冒険者は今や経済・インフラの中心。
再び男性=社会の中心、という構図ができる懸念が生まれた。
そこで女性も冒険者を始めよう、というキャンペーンを打ち出したのが四之宮会長である。
やがて女性オンリーのギルドが創立され――“フェミ旅団”が誕生した。
(ジェンダー平等は必要なことだけど、猪塚さんは正確に言えばフェミニストじゃなくて、ツ○フェミだからな……なんでこう、四之宮派はロクなのがいないんだ)
青宮は考える。
猪塚はジェンダー平等というキーワードを使って、SNSなどで大暴れするのだ。
いわゆる○イフェミである。
とりわけVチューバ―やアニメなどの女性キャラへの批難が強い。
ジェンダー関連で炎上しているところに飛び込むことが多く、あまり良い印象ではなかった。
「了解しました。では、立候補はこの3名でよろしいですね?」
と、ここで貞雄が手を挙げた。
「理事長。総選挙のスケジュールをもう少しデファードにしませんか?」
「後回しに、ですか。可能ですが……なぜ」
「恥ずかしながら我々冒険者は今、3つの派閥に分かれてしまっています。魔石ショックが見えてきた今、揉めている場合ではありませんが、もう少しエンゲージメントを高める時間がほしいかと」
青宮は考える。
(たしかに今の状態で、多数決でリーダー決めても、もめそうな雰囲気はあるが……)
しかし時間があったところで、このギスギスメンバーの仲が良くなるとは思えない。
派閥が発生したのは、かなり前の話なのだ。
ギスギスしたままいくのが、運命みたいなものだろう。
であれば、貞雄の発言には裏がある。
(荒木 貞雄さんは、獅子山さんに負けるという見込みが立っているんじゃないか? 四之宮派の正当なる後継者と認められる時間が、ほしいんじゃないだろうか)
だとするなら、貞雄の意見は反対しなければならない。
青宮は確信している。
また会いましょう、と言い残した四之宮。
彼女は間違いなく、“裏”で存在し続ける。
四之宮派の人間がトップに立つのは避けたい。
青宮は手を挙げた。
「――総選挙は予定通り行うべきです。四之宮会長が残した“闇”を、これ以上大きくしないためにも」




