第五層。赤鬼と青鬼
上層部が実質的な崩壊を起こしたため、冒険者協会はかつての機能を失った。
現在、ノルマを課せられることはなく、各ギルドは自由な活動をすることとなっている。
なので、青宮 翼はつかの間のバカンスを満喫する――というわけはなく。
元社畜はむしろ、働き放題だぜ、と言わんばかりに第五層へ長時間ソロで潜り込んでいた。
「ぐるるるっ!?」
「んー。なんか、第五層じゃ物足りなくなってきたな」
盾を持ったリザードマンを撃破しながら、青宮は退屈そうにつぶやく。
時刻は18時。
ソロの恩恵もあり、青宮はさらなるレベルアップをした。
『――青宮 翼のLVが25へ上がりましたHP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
力の上昇を感じるも、青宮としてはまだまだ足りないと判断している。
アーツファイトでは、漆黒魔竜ノ組の轟 悪魔に対して圧倒的な“差”を見せて撃破。
しかし轟は所詮、ギルドマスターの間では中堅ぐらいの強さだ。
そんな相手を圧倒した程度、それほどの価値があるとは思えなかった。
冒険者業界はなにが起きるか、わからない世界。
さらなる力を、早く求める必要があった。
(明後日はギルドマスター会議か……四之宮が行方不明になった今、まともに話し合えるといいんだが)
ダンジョン内を進みながら、そんなことを考える。
冒険者協会の建て直しが必要になった。
ギルドマスター会議は、今後の冒険者協会の体勢について話し合うことになる。
次のリーダーは誰になるか。
今後の業界はどうなるのか。
現状は、なにもかもが白紙状態となっている。
「まあとにかく今は――やれることをやるか」
移動していくと、やがて4メートルほどの高さの、大きな岩の扉へ辿り着いた。
「第五層は和名のボスが出てくるんだよな。“赤鬼”と“青鬼”……なんか某童謡みたいだな」
しかしここはダンジョンなので、もちろんそんな可愛らしいものではない。
事前情報でその凶悪さは知っていた。
(油断はしちゃいけないが。今の俺なら、やれるはずだ)
扉に触れる。
瞬間、紫色の扉は、ドドドドドド、という岩同士が擦れる重々しい音と共に、横へスライドしていった。
中へ入る。
広々とした空間。
しかし中にはなにもなく、静かであった。
ベルセルクを発動しつつ、真ん中へ向かって歩いていく。
その時であった。
上空に青い魔法陣が現れ、そこから“青鬼”が現れた。
顔立ちはいかつく、額から鋭い角が伸びている。
全長は約3メートル。
全身の肌は青く、腰に黄色の布を巻いている。
グルグルとした髪の毛が頭の上に生えており、およそ日本人がイメージする“鬼”であった。
「ウがああああああ!!!」
しかし言葉は発することはできないらしく、濁った低い鳴き声を発する。
そして空から勢いよく降った青鬼は、右手に持った黒い棍棒をふり下ろした。
「奇襲をするとは聞いていたけど、上からか」
青宮はベルセルクで上昇した俊敏で、素早くその場から離脱。
青鬼がふり下ろした気合の一撃は、紫色の硬い床へ大きな亀裂を作った。
(まあ今までのボス、バカ正直に待っている奴が多かったからな)
姿を見せずに変なところから現れ、初手を貰おうとするのは合理的だ。
卑怯とも言うが。
「ウゴォォォォ!」
青鬼がこちらへめがけて距離を詰め、棍棒をふり下ろしてくる。
斧と棍棒がぶつかり合い、鈍い金属音が鳴り響く。
互いの得物がぶつかり合うたびに――青鬼は少しずつ、後ろと仰け反った。
「ウグゥ!?」
「鬼さん、パワー負けしてるぞ」
青鬼は後ろへと跳躍し、間合いをとる。
「ウガァァァァァ!」
そして息を吸い込み、口から青い魔力を吐き出した。
青い魔力は冷えた風となり、青鬼の前方を凍らせた。
青鬼が放つ氷魔法――ブリザード・ブレスだ。
「――フレイム・ランス!」
青宮が同時に、炎の魔法を放つ。
ぶつかり合う互いの攻撃魔法。
炎と氷は大きな爆音と共に、爆ぜた。
爆風は青鬼の巨体をふっ飛ばし、ダンジョンの壁へ激突させる。
「グっ、ゴぉ……!?」
「魔法でもパワー負け。悪いな、俺の勝ちだ」
青宮は距離を素早く詰め、斧を一閃。
それが致命的なダメージとあり、青鬼の体は魔石となって消えていった。
『――青宮 翼のLVが26へ上がりましたHP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
「うし。って、今何時だ?」
アイテムボックスにある携帯を取り出すと、時刻は22時であった。
ノルマがない日なのに、青宮の調子はいつもと変わらなかった。
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