青宮 翼VS轟 悪魔 下
『どういうこと?』
『冒険者業界の闇かな』
『でもああいうの、大体デマじゃね』
『一回、内部告発あったよね』
『そうなの?』
『いや、あれは捏造だったはず』
『四之宮会長アンチはたまにいるよね』
『ナンバー2の獅子山との不仲はガチだったのか』
『四之宮さんがんばっているだろ、なんでや』
『ああああああ、彼氏さぁんが勝ったら終わるぅぅぅぅ!!!』
『翼は私の彼氏だから。すごいでしょ、私の彼氏』
混乱するコメント欄とは裏腹に、会場は最高潮の盛り上がりを見せる。
「すげええええ!」
「おいおい、伝説になる気か、新人!」
「轟ぃ! ボコボコじゃねーか! おら、ビビってねーで意地見せろやぁ!!!」
(観客がうるさいな……)
青宮は呆れつつ、轟を睨む。
ギルドマスターとしての意地か。
轟は戦意を失わず、斬りかかる。
だが、無駄だ。
何度やっても、結局剣を落とす。
「ちくしょう、ちくしょうがあああああああ!」
轟は拳を作り、青宮へ殴りかかる。
(そろそろ、終わりにするか)
青宮は斧を構えた。
轟の拳が届く前に、その鋭い一閃が走る。
ズンっ!!! と、重い一撃が轟の胸を斬った。
そして氷の鎧をまとったその体が、ゴミのように宙を舞い……ステージ外、漆黒魔竜ノ組がいる席まで吹っ飛んだ。
「がっ、はああっ……!」
「「「ぼ、ボスぅぅぅぅ!!!」」」
地面に伸びた轟は、氷の鎧が砕け、胸から血を流していた。
一撃KO。
そしてリングアウトである。
審判が判定をコールした。
「――勝者、青宮 翼!」
会場が歓声により、大きく揺れる。
コメント欄も爆速で流れていった。
『きたああああああ!』
『なんか色々混乱しているが、熱い試合だったぞ!』
『青宮 翼、間違いなく大人気選手になるな』
『マジでチャンピオン制度作ろうぜ。こいつ絶対てっぺん獲る』
『新しい伝説の始まりだあああああ!』
『うわあああああ! オレの人生終わったああああああああ! ちくしょう、ちくしょう! 彼氏さぁんのせいだ! 金返せ!』
『翼は私の彼氏。というか、結婚する。これで私もお金持ち、成功者』
血を流しながらも、轟は立ち上がろうとした。
「クソ、が……! 俺は、俺はまだぁ……! 絶対、あいつを殺すんだ……!」
だが、体に力が入らず、地面を這いずる。
医療班に取り押さえられ、担架で運ばれた。
「おい、お前ら」
青宮はステージ上の端へ飛び……漆黒魔竜ノ組へ向けて、声を上げる。
彼らのメンバーは震えあがり、轟は担架の上から睨んだ。
「てめぇ……! 俺は、まだ――」
「二度とメンバーに手を出すなよ」
青宮の低い声に、漆黒魔竜ノ組の面々から血の気が引く。
そして……轟もまた、ぞくりと、全身に悪寒が走った。
青宮の発する怒気が。
本気の殺意によって、本能が怯えたのだ。
「は……はい」
轟は反射的にそう返事をして、担架の上で気を失った。
医療班が慌てて彼を運んでいく。
(終わった……わけじゃないか。これからが大変なのか)
内部リークをして、諸々の人間達に責任をとらせないといけない。
そして……その後に待っているのは、冒険者協会の立て直しだ。
青宮はステージ上を歩き、スマイル・アドベンチャー陣営へ向かいつつ……ちらりと、上にいるVIPルームを見た。
四之宮はワインの入ったグラスを見ながら、にこりと微笑んでいた。
形の良い唇が動く。なにかを言っていた。
そして最後に、投げキッスをよこしてくる。
向こうは室内の上、距離があるので声は聞こえない。
だが、その口の動きで……なんとなく、わかった。
青宮は立ち止まり、息を飲んだ。
「また会いましょう、だと……?」
まるで青宮のやろうとしていることが、わかっているかのようだ。
おそらく、今回のアーツファイトが最後になること。
四之宮の天下が終わること。
それを覚悟している?
そして……また会う時があるとは、どういう意味なのか?
(……タダで倒れる人じゃないって、ことか)
と、思考をめぐらせている時であった。
ステージの上に、スマイル・アドベンチャーのメンバーが上がってくる。
さらに、観客席にいた姫咲と、治療室から抜け出した樹もやってくる。
「やった、やった! 青宮くん!」
「さすがです、青宮さん!」
樹と姫咲の2人が、あろうことか抱きついてくる。右から樹、左から姫咲だ。
柔らかいのが当たったり、なんやらがあるが、とにかく一番ヤバいのは、この状況が全国に放送されていることだ。
「ちょ、ちょっと2人共、嬉しいのはわかったから、離れてくれ!」
駆けつけたスマイル・アドベンチャーのメンバーも、声をかけてきてくれる。
みんな不安だったのだろう。
無茶をさせてしまったと、青宮は反省した。
『仲良いな』
『嬉しそう』
『おめでとう!』
『いいなぁ、美女に抱きつかれて』
『観客席から出てきた子も可愛いな』
『私も青宮様に抱きつきたい~><』
『なんだよ……彼氏さぁんのくせによ……クソが……』
『翼は私の男だよ。こんな女達に渡さない。しかも私の方が可愛いし』
『なんか青宮関連、変なコメント定期的に沸いてない?』
『色々苦労してるのかもな。なんか社畜の匂いすんだよな、こいつ』
『社畜だったよ。優勝おめでとう。やっぱお前、すごい奴になったな。俺のことなんか忘れているだろうけど、明日会社に自慢してくるな。みんなびっくりして、嫉妬するだろうよ』
そしてそんなスマイル・アドベンチャーへ、マイクを持った司会の男が近づいた。
「――勝利おめでとうございます! 圧勝でしたが、今のお気持ちはどうでしょうか!」
樹と姫咲が少し離れ、青宮が前へ出る。
アイテムボックスからボイスレコーダーを取り出し、かちりと押した。
会議で放った四之宮の威圧的な声を、マイクが拾う。
「――でしたら、ここで多数決をとりましょう。青宮さんの勝利条件を受理するか、しないか。今、この場で。賛同者は手を挙げてくださいね。私の、目の前で」
かちり、とストップを押す。
司会も、スタッフも、会場の客達も……誰もが、ポカンとしていた。
そして青宮は親指ぐっと立て、笑顔で言った。
「――冒険者業界を、ぶっ潰す!!!」




