青宮 翼VS轟 悪魔 中
「なんということでしょう! 青宮選手、轟選手の攻撃を片腕で軽々とさばき、挑発です! まさか、青宮選手は轟選手の攻撃を完全に見切っているというのかぁ!?」
「……どうやら、氷で足止めされていたのは、わざとのようですね」
「そ、そうなんですか!?」
「あの青い炎には凄まじい力が宿っているので、間違いないです。なので、挑発としては十分です」
「それは、つまり……」
「足止めされていても、お前の攻撃は対処できる。彼は、そう言いたいのでしょう」
「な、なんと! 戦士としてのリスペクトゼロだぁ! これは轟選手、屈辱的でしょう!」
観客席が湧き立った。
「FOOOOOOOOO♪」
「いいねぇ、新人!」
「おいおい、轟、そんなもんかぁ!?」
「根性見せろやぁ!!!」
(キーキー、うるさすぎるな。ここは発情期の動物園か?)
青宮は呆れた表情を浮かべる。
一方で、ネットのコメント欄はやや荒れ気味だ。
『失礼すぎるだろ』
『リスペクト大事。そうじゃない選手はクズ』
『こういう性格悪い奴はアーツファイトにいらない。クビ、出ていけ』
『いやいや、襲撃する方が悪いのでは?』
『まあ、しっぺがえしって感じだろうね』
『こいつも手出してるじゃん』
が、それと同時に状況の異常さを指摘する者も現れた。
『ちょっと待て。こいつ強すぎないか?』
『たしかに。相手は轟だぞ。こんな舐めプしたら普通に死ぬ』
『青宮のLVいくつなんだ? 新人なんだろ?』
『24』
『は?』
『嘘乙』
『んなわけねーだろ』
コメント欄を見つつ、獅子山はふふ、と笑った。
「気づいてしまいましたか。ええ、そうです。青宮 翼のLVは24。樹、荒木、越谷、草壁、そして轟。これまで出場した選手の中でもっとも低いんです」
『は?』
『なに言ってんだ?』
『じゃあなんで轟に舐めプできるんだ?』
『ありえない』
「俺だって、最初は疑いましたよ。ですが、彼の戦闘能力はすでに高レベル帯のもの。なので、轟選手には気の毒ですが、みなさんにはぜひ青宮選手に注目していただきたいです。なにせ、彼は――」
青宮 翼 LV24 ※合計値
HP 2694
MP 971
攻撃 1735
防御 689
魔力 1082
精神 709
俊敏 1222
「想像を超える化け物ですから」
挑発を受けた轟は、左手を自身の胸に当てた。
そしてその五本指を、心臓へ向けて突き立てるように曲げていく。
「ざけんじゃねぇぞ、このクソガキがァァァ!!! ぶっ殺してやる!」
水色の魔力が、轟の体からあふれ出す。
青宮は身構えて、斧を両手で持った。
(……来る!)
「スキル――“アブソリュート・ゼロ”!!!」
ごおおおおおっ!!! という音と共に、轟の体がぶ厚い氷に包まれていく。
その氷は中世の将軍が身に着けるような、プレートアーマーの形であった。
がっちりとしたその見た目は、圧倒的な硬さを印象づけた。
スキル アブソリュート・ゼロ LV EX
氷の鎧をまとい、攻撃・防御・精神を30パーセント上昇させる。
「おらおらおらぁ! 死にやがれ!」
轟が青宮へ接近し、先ほどよりも圧倒的に強くなったパワーで剣を振り回す。
ズドンッ! ドズンっ! ドごオオッ! と剣を青宮が斧でガードするたびに、会場全体が揺らぐ。
それでいてその動きも早く、青宮は防戦一方で押されていく。
「青宮選手! 轟選手の“アブソリュート・ゼロ”発動後の圧倒的なパワーにより、反撃できません! 防戦一方だああああああ!」
「……彼、まだ舐めプしてますよ」
「は?」
「さすがに両腕は使ってますし、全力ではありますが。あれは反撃できないんじゃなくて、反撃しないんですよ」
「っ!? な、なぜそんな無駄なことを? それとも、制限時間の10分をギリギリまで使い、スタミナを削る作戦ですか?」
「いいえ。シンプルに、侮辱しているんでしょう。轟選手が全力を出しても、自分に傷一つつけられないと、放送を通して見せつけているんです」
「んなっ……! そ、そんなこと、許されていいのでしょうか!?」
「本来ならば戦士として、ひどい戦い方だとは思いますね。ですが……」
ふっ、と獅子山は微笑んだ。
元より彼は、四之宮派ではない。
青宮と同様――彼女を引きずり下ろしたいと思う男だ。
「そもそも、こんな茶番じみた大会が間違っている。彼はこの試合、めちゃくちゃにしてやろうと、そう思っているのさ」
時間が経過していく。
絵面だけ見ると、轟がずっと攻めて、青宮が反撃もできずガードしているだけに見える。
だが……違う。
青宮はノーダメージだ。
むしろ延々と全力で剣を振り続ける轟が、バテはじめている。
いや、それだけではない。
轟は内心で舌を巻いていた。
(なんだよ、このバケモノは!? 今まで戦ってきた中でも、ケタ違いだぞ!)
どんなに攻撃をしても、無駄なのだ。
勝てるビジョンが、まるで浮かばない。
戦う相手が、はるか高みにいる感覚。
まるで武道の師と手合わせをしているかのようだ。
「はぁ、はぁ……!」
試合時間、残り2分。
8分に渡る激闘の末……轟はついに距離をとった。
全身から汗が溢れ、息が乱れ、全身が酸素を求める。
青宮は涼しそうな表情で、轟を見た。
「もうバテたのか? たった8分。始業前に疲れましたって言っているようなもんだぞ?」
「て、めぇ……! わざとだな! わざと、攻撃してねぇな!」
「ああ。で? もう終わりか?」
「っ!?」
青宮は左手でくいくい、とカモンポーズをとった。
「血祭りにするんじゃないのか? 一滴も流れてないぞ」
「ちょ、調子に乗るなぁぁぁぁぁ!!!」
駆け出す。
しかし轟の体に、異変が起きた。
青宮めがけて剣をふり下ろした瞬間――剣が、すっぽ抜けたのだ。
「……は?」
カラカラカラ、と虚しい音を立てて剣が床に転がる。
「両手が震えてるぞ」
「っ!」
轟は歯ぎしりし、剣を拾う。
握力はある。ちゃんと、剣を握れる。
それなのに――。
カラン、カラン。
「あ……?」
剣を青宮めがけて振ろうとすると……また、すっぽ抜けた。
何度も。何度も。何度も。
結果は同じであった。
「なんでだ! クソ、クソ、クソ! こんなやつに、こんなやつに、俺が負けるわけねえんだよ!」
剣を振れなくなった轟が、青宮へ向けて何度も立ち向かう。
轟は隙だらけだ。
それでも青宮は攻撃しない。
轟の弱さを、実力の絶対的な差を見せつけるように。
過剰なまでに、弱者として侮辱し続けた。
「と、轟選手! 勇敢に立ち向かうも、剣を握れません……!」
「やれやれ、恐ろしいね。この短時間で、イップスを植え付けるなんて」
「い、イップス……?」
「心理的な原因で、一部の動作ができなくなる運動障害だよ。主にスポーツ選手でよくみられる。轟選手は、青宮選手に何度も攻撃を塞がれたことにより、フラッシュバックするんだ。目の前の戦士には絶対に勝てないという、トラウマがね」
「戦意喪失、ということですか……? な、なんて残酷な! これでは今後の試合にも響く! 青宮選手、なんて非スポーツマンシップな戦闘スタイルだ! これは後に厳しい処分が下されるでしょう!」
「非スポーツマンシップ、ね。君、協会の人間じゃないけど“四之宮派”ならしいね。調べはついているよ」
「っ!?」
「この放送を見ているみんなにも、聞いてほしい。腐敗した冒険者協会は今、変わるべき時がきた。四之宮 京子の時代は終わりだ。青宮のような、強き若者も出てきた。」
獅子山は放送中であるにも関わらず――大胆にも、宣言する。
「今回のアーツファイトは、我々冒険者達による反撃の狼煙だ」




