レッドシープ
次のターゲットは「レッドシープ」と呼ばれる赤い羊だ。基本的なビジュアルは地球にいる羊とあまり大差ないものの、毛の部分が血のように真っ赤なのが特徴である。頭には2対の角が、鬼のように真っ直ぐ伸びていて、体当たりされた時はこの角に注意しなければならない。
斧をアイテムボックスへ収納し、俊敏ステータスをフル活用してダンジョン内を移動している時。ふと、木陰で休んでいる2人組の冒険者が視界へ映った。その2人組は若い男女のカップルで、仲良く休憩しつつ、くっついてイチャイチャしていた。
とても幸せそうである。
だけど、青宮はとってもイラついた。
「よーし! なんか気合入ってきたぞー! 赤い羊いっぱいぶっ〇すぞー!」
アイテムボックスから∞ウェポンを取り出し、振り回しながら進んでいく。たしかにレベル上げというのは言いかえると、いっぱいぶっ殺〇ぞ! なのだが、いっぱい狩るぞ、とかそういうマイルドな言い方をしない辺りに、彼の内なる怒りが込められていた。
狂人じみた行動に、カップルはぎょっとしたが、やがてその視線は振り回されている斧へと映った。初心者エリアなのに、なんだか強そうな武器を持っているぞ、といった感じである。
そんなことがありながら進むと、やがて草をもしゃもしゃ食べるレッドシープと遭遇した。
「……ちょうどいい。タイマンでどこまでやれるか、検証だ」
近づく。レッドシープがこちらへ気がつき、唸り声を共に正面を向き――勢いよく、突撃してきた。
青宮は引きつけてから、左へ飛び、すれ違いざまに斧をレッドシープの足めがけて振るう。だが、レッドシープはその場でピョンとジャンプし、斧を回避した。
「っ!?」
身軽な動きに、思わず驚く。
レッドシープは着地と同時に、すぐさまこちらへ角を突き出す。
斧を横払いで振ると、レッドシープの顔面へ命中。ザシュッ、と深い切れ込みが羊の顔に入るも、レッドシープは怯まずに、そのまま真っ直ぐ突撃してきた。
「なっ、こいつ……!」
ズドン、と。
レッドシープが懐へ入り込んで、青宮の腹に角を突き出した。ステータスの防御力の加護により、角の刺さりは浅かったが、レッドシープが強烈な力でもってそのまま前へ突き進み、角をグリグリと押し込むのでどんどん体の奥へと入っていった。
「っ、いってえっての、この、このぉ!!!」
振り払うことが出来ないパワー。
代わりに、斧を背中目がけて振り下ろし、レッドシープにダメージを与える。だが、中々決定打にならない。そしてレッドシープが怯まないので、時間が経てば経つほど、角が奥へと押し込まれていく。
ぐしゅり、ぐしゅり、と。硬い感触がどんどん内臓を圧迫し、貫いていく。
血が地面へと垂れ、確実に命と体力がこぼれ落ちているのを感じる。
「クソ、ヤバい……! 離せっての!」
斧で斬った時の手応えはある。レッドシープも流血している。だが、このモンスターはかなりの根性がある。負けじと、青宮の命を全力で狩りに来ている。
だが、青宮も負けない。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
「俺は残業200時間でも、死なない男なんだよ! クソ羊如きで、死ねるか!!! おらぁぁぁぁっ!!!」
斧が青く光る。
最後の振り下ろしは、渾身の一撃であった。ずどおおおおおんっ! と重い一撃が赤いモコモコ毛の背中へ降りかかり、大量の流血と共にレッドシープはどさりと倒れた。
青宮は血の流れるお腹を抑えながら、アイテムボックスから回復アイテムを取り出す。
HP 50/284
スライムの時ほどではないが、今回も中々に危なかった。
「っ、ちくしょう、思った以上にパワーがあったし、スピードもあったな」
だが、システム音がかすかな希望を告げた。
『――青宮 翼のLVが5へ上がりましたHP+60 MP+20 攻撃+16 防御+10 魔力+16 精神+10 俊敏+9』
「……来たか、LV5。あいつらと狩っていた時は1日1UPペースだったけど、早くも2上昇か」
時間はまだ、3時前だ。
昼休憩1分で、根詰めてやっているだけはある。
「多少は強くなったなら、次はいけるだろ。そうだな……今日の、ここからの目標は」
青宮はにやり、と笑みを浮かべた。
「レッドシープ、100体。気合で達成だ」
ソロでの狩りだというのに、彼は夜中まで狩りをする気満々のノルマを、設定したのであった。
先ほどの戦闘も、危険であった。
だが、だからこそやる価値がある。リスクがあればレベルが上がる。もしかすると、∞ウェポンも強くなるかもしれない。
「さあ、やってやるよ」
そしてここから――地獄の羊狩りが、幕を開ける。
安易に決めた「100体」という数字が、牙を向くとは知らずに。




