樹 小春VS越谷 女王 後編
先に動いたのは――越谷だった。
「あは☆ そのエッチな体、ムチで縛ってあげる!」
軽い声とは裏腹に、踏み込みは鋭い。
右手のムチが空気を裂き、蛇のようにうねって樹へ迫る。
(速い……!)
事前に確認したステータスより、明らかに上だ。
後方へ跳躍して避けても、越谷はすぐ間合いを詰め、次の一撃を重ねてくる。
中距離を維持しながら、絶え間なく襲いかかるムチ。
実況が熱を帯びた声を上げた。
「越谷選手、開幕から攻めの手を緩めません! 樹選手、防戦一方か!」
「スキル“アクセル”で俊敏を底上げしていますからね。バフなしの樹選手ではスピード差が大きい。捕まるのは時間の問題でしょう」
樹はムチを避けながら、杖を天へ掲げる。
「サモン――ヴァルキリア!」
魔法陣が光り、小柄な銀鎧の少女が現れる。
その出現位置は――越谷の背後。
「っ!? いつの間に……!」
振り下ろされる剣。越谷は跳躍して回避する。
その隙に、樹は次の魔力を練り上げた。
「ライトニング・ストライク!」
青白い稲妻が杖から放たれ、ステージを焼く。
轟音と閃光が観客席を揺らした。
「あーしの本気、見せてあげる!」
越谷がムチを振るうと、空中でしなり、彼女の周囲に緑の魔力が渦を巻く。
360度を覆う障壁が形成され、雷撃を完全に受け止めた。
ヴァルキリアの剣すら弾く、鉄壁のガードだ。
「あはっ、二人がかりとか、せっこ~」
雷が止むと同時にガードを解除。
ヴァルキリアが踏み込む――その瞬間。
越谷はムチを手放した。
「え……?」
理解が追いつく前に、ムチが生き物のように動き、ヴァルキリアを絡め取る。
緑の魔力が彼女を包み込み、完全に拘束した。
「召喚獣対策もバッチリってわけ。アーツファイトじゃ初公開だけどね」
「なんと! 樹選手のヴァルキリアが捕まりました! これはしっかりと対策してきたということでしょうか?」
「そうですね。召喚魔法は3分のディレイがあるので、解除することもできないでしょう。ムチの障壁も、越谷選手のMPを割いて発生したものなので、しばらくは身動きがとれなくなるでしょう」
『相変わらずガード性能良いよな』
『こういう使い方もできるのか』
『狩りだったら戦力分断で使うのかな』
『後衛を守ったりとかもできるね』
思わぬ罠によって、1対1へと持ち込まれる。
互いの基礎ステータスは拮抗。
だが、後衛の樹はあまりアーツファイト向きではない。
「逃げんなよ、樹 小春!」
アクセルで底上げした俊敏で、越谷は樹を徐々に追い詰める。
ロングレンジでトリッキーにしなり、襲いかかるムチの軌道は回避しづらく、攻めにも転じづらい。
なにせ空中で、物理的にありえない方向に曲がったりして、常にホーミングしてくるのだ。
加えて、越谷自身のスピードが高い。
対面としては不利だ。
だからこそ、樹は召喚魔法で奇襲をしかけて、決めにいくつもりであった。
しかしそう上手くはいかない。
越谷もしっかりと対策していたのだ。
「右手のケガ。舐めプかと思ってたけど……ギリギリまでレベル上げしてたんだ?」
「……そうだよ。治るまで、もうちょっと時間がかかるの」
「へぇ。結構なケガじゃん。でも――」
越谷が間合いをとる。
ムチを空中でグルグルと回した。
空中で大きな雷の玉が形成される。
バチバチバチ! と青い稲妻が弾ける音が会場に響いた。
「勝ちたいのは、あーしも同じ!」
樹も魔力を込め、雷を纏う。
青宮に勝ちを期待されていないことを、思い出す。
その予想を上回るために、この数日間努力をした。
負けたら、彼の評価通りになってしまう。
「足手まといには、もうならない……!」
両者が同時に、全力の雷魔法を放つ。
ズドオオオオオォォォ!!! と、凄まじい爆発音が辺りに鳴り響く。
樹が両腕でガードしながら、前方を見る。
白煙が視界を覆った。
「っ、どうなって……」
「今度は――あーしが後ろもーらい☆」
「っ!?」
煙の中から、ムチが飛ぶ。
樹の全身を強く縛り上げた。
「っ、ううっ!?」
次の瞬間、強烈な電流が流れ込む。
「うっ、ああああっ!?」
樹の体が跳ねる。
青宮が思わず前へ出る。
「樹……!」
だが――樹は縛られたまま、前へ飛び込んだ。
越谷の肩を掴む。
「つか……まえた……!」
「っ、お前……!」
互いの体に電流が走る。
越谷は電撃を止めない。ムチも解かない。
「いいじゃん……あーしとお前の、我慢比べ……! 受けてやる!」
肩を掴み合い、電撃を浴び続ける。
美女2人が泥臭くぶつかり合う光景に、会場が沸騰した。
「りょ、両選手放しません!? すごい意地だ!」
「樹選手の行動は、ウィップに捕まった時の対処方の1つですが……越谷選手が真っ向から勝負を受けるのは、珍しいですね。耐久性能は樹選手がわずかに上ですが、どうなるか……」
やがて電撃が止む。
2人は同時に倒れ込んだ。
審判の男がカウントを始める。
「っ、さっさと救助を――!」
青宮が飛び出そうとするのを、荒木が止める。
「待ってください、リーダー」
「なんだよ!」
「立ち上がりますよ。樹 小春は」
ぴくり、と樹の指が動く。
杖を支えに、よろよろと――しかし確かな意志で立ち上がった。
越谷は動かない。
「――私が、勝者です!」




