樹 小春VS越谷 女王 前編
盛り上がる歓声を背に受けながら、青宮達はステージを降りた。
見上げると、豪奢なVIPルームの奥――高い位置から四之宮がこちらを見下ろしている。
目が合った瞬間、四之宮はゆっくりと微笑んだが、青宮は視線をそらした。
「あら、つれないわね」
ソファに優雅に腰掛けたまま、四之宮は小さく呟く。
(あくまで、なびいてくれないのね。アーツファイトを、この私を壊す気でいる。でも――あなたは一つだけ勘違いしているわ)
ふふ、と喉の奥で笑う。
「人間が作った箱庭なんて、壊してくれていいのよ。弱い人間だけでやっていけるのなら、ね」
照明が落ち、会場が暗転する。
直後、重低音のビートが鳴り響き、白いスポットライトが高速で会場を切り裂いた。
観客席から歓声が爆ぜる。
司会がマイクを掲げ、腹の底から響く声を放つ。
「それでは、まずは青コーナーッ! 漆黒魔竜ノ組エース、アーツファイトで4勝を上げている――《爆アゲ天使》! 越谷 女王!!」
「いぇーい、どーもー!」
越谷が歩きながら、カメラへ向けてギャルピース。
配信画面では実況が声を弾ませる。
「漆黒魔竜ノ組の先陣は越谷選手! 実力も人気も高い選手ですが、獅子山さんの印象は?」
「んー……」
獅子山は資料をめくりながら、ぎこちなく答える。
越谷 女王24歳 女
LV36
HP 2075
MP 688
攻撃 469
防御 480
魔力 505
精神 500
俊敏 563
スキル ウィップLV5 アクセルLV4
「ムチはトリッキーですが、攻守に優れた武器です。スピードもあってアーツファイト向き。1つのギルドのエースに恥じない能力ですね」
コメント欄が一斉に流れる。
『ギャル可愛い』
『ティアラちゃん推せる』
『対戦相手誰だろ』
『襲撃された2人のどっちかならヤバいな』
司会が続けようとした、その時。
「では、続いて赤コーナー……え、欠員?」
青宮がマイクで答える。
「1戦目は棄権でお願いします」
「え、は? 棄権? ちょ、確認します!」
司会とスタッフが慌てふためき、会場がざわつく。
進行が止まり、空気が乱れ始めたその瞬間――。
「――待った、まったあああああ!」
樹の叫びが会場全体に響き渡った。
だだだだ、と俊敏補正の乗った動きで、樹がステージへ跳び上がる。
「樹 小春です! 遅れました!」
青宮は思わず目を見開いた。
「左腕……どうした?」
樹の左腕は包帯でぐるぐる巻きだ。
「ケガ! でも、大丈夫だよ!」
樹は痛みを隠すように、白い包帯の手をひらひら振る。
司会が慌ててマイクを取った。
「お、お待たせしました! 赤コーナー、スマイル・アドベンチャーより――レアな召喚魔法を操る新人! 《煌めく召喚姫》! 樹 小春!!」
「ひ、姫……? えへへ、悪くないかも~」
(いや、絶対恥ずかしいだろ……)
青宮が心の中でツッコむ。
配信のコメント欄は一気に湧き上がった。
『可愛い』
『胸デカい』
『エロすぎる』
『お前らそればっか』
『実力はどうなんだろ?』
獅子山が資料を見て、驚きの声を漏らす。
「彼女、先月はレベル20代だったはずですが……これは相当無茶をしましたね。今回の試合に、強い思いがあるのかもしれません」
樹 小春 21歳 女
LV35
HP 2090
MP 973
攻撃 515
防護 517
魔力 548
精神 522
俊敏 520
スキル 雷魔法LV5 召喚魔法LV4 回復魔法LV4
司会が両者を見渡し、腕を広げる。
「それでは――両者、試合開始ッ! レディ……ファァァイト!!」
ゴングが鳴り響き、樹と越谷が同時に武器を構えた。




