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開幕

 夜の18時すぎに会場である有名なアリーナへ入り、案内された控室で待機した。

 室内は白とグレーを基調とした広々空間

 部屋の中央と隅に机、椅子が設置されている。

 招集されたのは選手だけではなく、メンバー全員だ。


「樹ちゃん……まだ来ないね」


 白井が心配そうに告げる。


「そうだな。ギリギリまでダンジョンに潜っているみたいだが……」


 青宮も少し落ち着かない。

 先ほど携帯で「ごめん~! すぐに行く~~~!」とメッセージが来ていたが、遅刻は確定だ。

 そして樹が到着しないまま、若い男の運営スタッフが扉を開けた。


「失礼します。“スマイル・アドベンチャー”のみなさん、出番です」


「了解です」


 青宮が返事をすると、スタッフがきょろきょろとメンバーを見渡す。


「樹選手は?」


「遅刻」


「そ、そんな……参ったな。欠場なんてことになったら……」


(別に有名選手でもないんだから、運営へのダメージはないだろ)


 有名なカード同士の試合であれば、ネームバリューでチケットを買う……そんなシステムだが、初出場の樹目的の客なんているわけがないだろう。


「まあ、いざとなったらうまくやりますよ。いってきます」


「は、はい。よろしくお願いします」


 青宮は“スマイル・アドベンチャー”を率いて、メインアリーナへと出た。





 1万人を超える客の歓声が、青宮達の鼓膜をゆらした。

 実は青宮達以外にも何試合か消化されていて、すでにボルテージは最高潮だ。

 アリーナフロアは、人々の熱狂に支配されている。

 降り注ぐライトの光。

 高い天井の中央に設置された、巨大モニター。

 フロア中央には巨大な楕円形のステージが鎮座している。

 対面の出口からは、対戦相手――“漆黒魔龍ノ組”が入場した。

 司会の男が、マイクで進行を促した。


「それでは両者、ステージの中央へお集りください!」


 代表の青宮、轟の両名がスタッフからマイクを受け取る。

 まだパフォーマンスをしなくてはいけないようだ。

 青宮はマイクのスイッチを入れて、声を出した。


「くだらない茶番はいいから、さっさと始めないか?」


 しかし客としてはなんでもいいようで、それはそれで盛り上がった。


「いいねぇ、新人」


「ふううううううう~~~~~~!!!」


「早くヤリてぇってか、この早漏がよ!」


「ムード作りの前戯も大事なんだぜぇ!」


 下品なコンテンツというだけあり、客もガヤも下品だ。

 そしてこの試合の模様はライブ放送されている。

 コメント欄も多くの賑わいを見せていた。


『ノリ悪いなこいつ。仕事できねータイプか?』


『興行なんだから盛り上げるのも仕事なのにな』


『やる気ねーなら帰れよ』


『いや“スマイル・アドベンチャー”はどう考えても無理やり出されてるだろ』


『この人達は気の毒』


『青宮さんって人かっこいい~。動画から気になっている選手!』


『金貰ってるなら、ちゃんと仕事はすべし』


『そうそう。それがプロ、社会人の常識』


『強そうな選手だから、運営には大切にしてほしいけどな~』


 ネットということもあり、好き勝手書く者が多い。


『翼、人気出ているけど。私この人と付き合ってた。彼のことなんでも知っているよ』


『頼んだぜ、彼氏さぁん。轟選手にボコボコにされろ!』


 泉、有島と思われるコメントも書かれていた。

 そして青宮の声に、轟はすかさず応じた。


「ビビってねーで、こっち来いよ。空気読めって、オモロねーな」


 ふううううううう~~~~~~!

 轟、やれ、やれ~~~~~!

 そんな歓声が上がる。


(反抗しても盛り上がるだけか。てか、むしろこいつら好みか)


 これ以上グダグダになってもめんどくさいので、青宮はメンバーを率いてメインステージへと上がる。

 中央には、ステージの下から複数のカメラとスタッフがいた。

 そして両陣営が中央へ集まろうかという時――大剣を持ったチンピラ男、草壁 森羅万象アースが陣営を飛び出し、青宮めがけて勢いよく駆ける。

 青宮が∞ウェポンを出そうとするが……彼を守るように、乾が立ち塞がる。

 盾を取り出し、大剣を受け止めた。

 ギィィィィン!!! と、重い金属音が辺りへ鳴り響く。

 ガヤは大きく盛り上がった。


「うぇええええい!!!」


「おいおい、不意打ちは卑怯だぜ!」


「我慢もできねーのかぁ!!!」


 ギギギギギ、と競り合いになる。

 草壁ははっ、と笑った。


「おい、俺に負けたザコ! どのツラ下げてここ来てんだよ、テメーとなんかヤらねぇっての!」


「っ!!!」


 拮抗していたと思われた力勝負は――しかし、突如として崩れる。

 乾は強い気合と共に、盾を前へ突き出したのだ。

 さらにその押し方は、横払い。

 勢いよく押された草壁は、ステージの下まで転がり落ちた。

 ひゅううううううううう!!! と、現場のガヤが盛り上がった。

 草壁は首をコキコキとさせながら、立ち上がる。


「いてぇな、この野郎! 殺してやるぜ、オラァァァァ!!!」


 司会がすかさず、マイクで声を上げる。


「草壁選手、武器を引いてください!」


 漆黒魔龍ノ組のメンバーが、草壁を抑える。

 驚いたことに、乾も片手剣を取り出して応戦しようとしていた。

 青宮は彼の右肩に手を置く。


「乾」


「……ごめんね」


 肩が震えている。


(まあ、思うところはあるんだろうが。出場選手へ手を出すのはまずい)


 ステージ上に緊張が走る。

 そして司会が、次の段取りを促した。


「では、赤コーナー“漆黒魔龍ノ組”の代表、轟選手から今回の意気込みをお願いします」


 轟はヘラヘラした顔でマイクを持ち、そしてカメラへ向け左手で中指を立てた。


「えー、そこのクソガキと、なんだっけ。“スマイル・アドベンチャー”だっけ? そいつらのメンバーごと、血祭りにあげるんで、よろしくぅ」


 FOOOOOOO!!!

 轟ぃぃぃ、勝てよ!!!

 やっちまええええええええ!!!

 会場のガヤが、これまた最高潮となる。

 しかし現場の感じとは異なり、ネットだと轟はかなり嫌われていた。


『こいつなんなの』


『教育に悪いコンテンツだよな』


『みんなこうならないように、勉強しようね』


『こんなの応援するやつおるん?』


 青宮はマイクをとって、短くコメントする。


「ノーコメントで」


 ぶっきらぼうな発言に、これまたガヤが入っていく。

 そんな感じで盛り上がりを見せる会場。

 両陣営がステージ外へと降り、容易された席へ座ると司会が告げた。


「――それでは! これよりスマイル・アドベンチャー、漆黒魔龍ノ組の試合を開始します!」

本作の閲覧ありがとうございます。


もし内容がよろしければ、★★★★★評価・ブックマークをいただけると、とても助かります。


何卒、よろしくお願いします!

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