開幕
夜の18時すぎに会場である有名なアリーナへ入り、案内された控室で待機した。
室内は白とグレーを基調とした広々空間
部屋の中央と隅に机、椅子が設置されている。
招集されたのは選手だけではなく、メンバー全員だ。
「樹ちゃん……まだ来ないね」
白井が心配そうに告げる。
「そうだな。ギリギリまでダンジョンに潜っているみたいだが……」
青宮も少し落ち着かない。
先ほど携帯で「ごめん~! すぐに行く~~~!」とメッセージが来ていたが、遅刻は確定だ。
そして樹が到着しないまま、若い男の運営スタッフが扉を開けた。
「失礼します。“スマイル・アドベンチャー”のみなさん、出番です」
「了解です」
青宮が返事をすると、スタッフがきょろきょろとメンバーを見渡す。
「樹選手は?」
「遅刻」
「そ、そんな……参ったな。欠場なんてことになったら……」
(別に有名選手でもないんだから、運営へのダメージはないだろ)
有名なカード同士の試合であれば、ネームバリューでチケットを買う……そんなシステムだが、初出場の樹目的の客なんているわけがないだろう。
「まあ、いざとなったらうまくやりますよ。いってきます」
「は、はい。よろしくお願いします」
青宮は“スマイル・アドベンチャー”を率いて、メインアリーナへと出た。
☆
1万人を超える客の歓声が、青宮達の鼓膜をゆらした。
実は青宮達以外にも何試合か消化されていて、すでにボルテージは最高潮だ。
アリーナフロアは、人々の熱狂に支配されている。
降り注ぐライトの光。
高い天井の中央に設置された、巨大モニター。
フロア中央には巨大な楕円形のステージが鎮座している。
対面の出口からは、対戦相手――“漆黒魔龍ノ組”が入場した。
司会の男が、マイクで進行を促した。
「それでは両者、ステージの中央へお集りください!」
代表の青宮、轟の両名がスタッフからマイクを受け取る。
まだパフォーマンスをしなくてはいけないようだ。
青宮はマイクのスイッチを入れて、声を出した。
「くだらない茶番はいいから、さっさと始めないか?」
しかし客としてはなんでもいいようで、それはそれで盛り上がった。
「いいねぇ、新人」
「ふううううううう~~~~~~!!!」
「早くヤリてぇってか、この早漏がよ!」
「ムード作りの前戯も大事なんだぜぇ!」
下品なコンテンツというだけあり、客もガヤも下品だ。
そしてこの試合の模様はライブ放送されている。
コメント欄も多くの賑わいを見せていた。
『ノリ悪いなこいつ。仕事できねータイプか?』
『興行なんだから盛り上げるのも仕事なのにな』
『やる気ねーなら帰れよ』
『いや“スマイル・アドベンチャー”はどう考えても無理やり出されてるだろ』
『この人達は気の毒』
『青宮さんって人かっこいい~。動画から気になっている選手!』
『金貰ってるなら、ちゃんと仕事はすべし』
『そうそう。それがプロ、社会人の常識』
『強そうな選手だから、運営には大切にしてほしいけどな~』
ネットということもあり、好き勝手書く者が多い。
『翼、人気出ているけど。私この人と付き合ってた。彼のことなんでも知っているよ』
『頼んだぜ、彼氏さぁん。轟選手にボコボコにされろ!』
泉、有島と思われるコメントも書かれていた。
そして青宮の声に、轟はすかさず応じた。
「ビビってねーで、こっち来いよ。空気読めって、オモロねーな」
ふううううううう~~~~~~!
轟、やれ、やれ~~~~~!
そんな歓声が上がる。
(反抗しても盛り上がるだけか。てか、むしろこいつら好みか)
これ以上グダグダになってもめんどくさいので、青宮はメンバーを率いてメインステージへと上がる。
中央には、ステージの下から複数のカメラとスタッフがいた。
そして両陣営が中央へ集まろうかという時――大剣を持ったチンピラ男、草壁 森羅万象が陣営を飛び出し、青宮めがけて勢いよく駆ける。
青宮が∞ウェポンを出そうとするが……彼を守るように、乾が立ち塞がる。
盾を取り出し、大剣を受け止めた。
ギィィィィン!!! と、重い金属音が辺りへ鳴り響く。
ガヤは大きく盛り上がった。
「うぇええええい!!!」
「おいおい、不意打ちは卑怯だぜ!」
「我慢もできねーのかぁ!!!」
ギギギギギ、と競り合いになる。
草壁ははっ、と笑った。
「おい、俺に負けたザコ! どのツラ下げてここ来てんだよ、テメーとなんかヤらねぇっての!」
「っ!!!」
拮抗していたと思われた力勝負は――しかし、突如として崩れる。
乾は強い気合と共に、盾を前へ突き出したのだ。
さらにその押し方は、横払い。
勢いよく押された草壁は、ステージの下まで転がり落ちた。
ひゅううううううううう!!! と、現場のガヤが盛り上がった。
草壁は首をコキコキとさせながら、立ち上がる。
「いてぇな、この野郎! 殺してやるぜ、オラァァァァ!!!」
司会がすかさず、マイクで声を上げる。
「草壁選手、武器を引いてください!」
漆黒魔龍ノ組のメンバーが、草壁を抑える。
驚いたことに、乾も片手剣を取り出して応戦しようとしていた。
青宮は彼の右肩に手を置く。
「乾」
「……ごめんね」
肩が震えている。
(まあ、思うところはあるんだろうが。出場選手へ手を出すのはまずい)
ステージ上に緊張が走る。
そして司会が、次の段取りを促した。
「では、赤コーナー“漆黒魔龍ノ組”の代表、轟選手から今回の意気込みをお願いします」
轟はヘラヘラした顔でマイクを持ち、そしてカメラへ向け左手で中指を立てた。
「えー、そこのクソガキと、なんだっけ。“スマイル・アドベンチャー”だっけ? そいつらのメンバーごと、血祭りにあげるんで、よろしくぅ」
FOOOOOOO!!!
轟ぃぃぃ、勝てよ!!!
やっちまええええええええ!!!
会場のガヤが、これまた最高潮となる。
しかし現場の感じとは異なり、ネットだと轟はかなり嫌われていた。
『こいつなんなの』
『教育に悪いコンテンツだよな』
『みんなこうならないように、勉強しようね』
『こんなの応援するやつおるん?』
青宮はマイクをとって、短くコメントする。
「ノーコメントで」
ぶっきらぼうな発言に、これまたガヤが入っていく。
そんな感じで盛り上がりを見せる会場。
両陣営がステージ外へと降り、容易された席へ座ると司会が告げた。
「――それでは! これよりスマイル・アドベンチャー、漆黒魔龍ノ組の試合を開始します!」
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