一千万のマスターボーナスが振り込まれる
――給料が弾む。彼女は気に入った人材を可愛がる。そういう性格だ。
アーツファイト前日の十八時。
事務所の上座に腰を下ろし、PCに映る給料明細を見た瞬間、青宮は深いため息をついた。
「俺の記憶が正しければ、ひどい扱いのはずなんだが」
四之宮派に入ると、露骨なえこひいきがある――獅子山がそう教えてくれた。
そして今、青宮はその“恩恵”を受けている。
どういうわけか、そうなった。
マスターボーナス、一千万。
桁を見間違えたかと思った。
一万円でも十万円でもない。
マスターボーナスは毎月支給される。
つまり、年間一億を超えるペースだ。
(さすがにこれは、警戒するよな)
協会に問い合わせても、たらい回し。
ちなみに、獅子山に聞くと「俺は二千円だ。バイトリーダー手当の方がマシだな、やれやれ」と言っていた。
四之宮はよほど、獅子山のことが気に入らないようだ。
(どうでもいいが、関はどのくらいだったんだろうな)
性格的に四之宮と仲良くやっていくタイプには見えない。
が、楽な方を選びたがるとは思うので、四之宮の利益になるような行動はしていたのではないかと、予測する。
(べつに受け取ってもいいんだけどさ。これを借りだとか思わないでほしいんだが)
電話を切った直後、事務所の電話が鳴った。
受話器を取ると、上品で艶のある――四之宮会長の声が、耳を撫でた。
「ふふふ、わざわざお礼の電話をしようだなんて、真面目な子ね」
「どういうつもりなんですかね、これは」
「マスターボーナスは、上からの評価です。あなたは大変、評価されているんですよ」
(ホワイト企業と違って、正当な評価なんて出来てないだろ……)
四之宮の甘い声が、不気味であった。
「死神事件の解決。短期間でのギルドマスター昇格。アーツファイトへの出場……そしてその強さ。あなたはとっても素敵よ」
「それはどうも。ですが、このお金は使いませんよ。四之宮会長に借りは作りたくないので」
「あら、やだわ。つれないのね。私はこんなにも、あなたを愛しているのに」
鳥肌が立つ。
ここまでの仕打ちをしたあとに、よくもそんな甘い声を出せるものだと思った。
(こうやって、深い関係を作っていったのか)
名前で呼び合っていたことから、轟と関係があるのではないかと思ったりしていたが、本当にそうなのかもしれないと青宮は考えた。
現に四之宮会長を検索すると、男関連のスキャンダルがかなり多かったりする。
その中には有名人もいて、騒動の多さが彼女の注目度を上げていた。
四之宮は目立つことにおいては、天才的だ。
「切りますよ」
「最後に、私からも伝えたいことがあるのですが。良いですか?」
「よくないですけど、どうぞ」
あくまでも歩み寄らないという姿勢を見せつつ、先をうながした。
「――明日のアーツファイト。楽しみにしていますよ。ふふふ」




