幕章「スマイル・アドベンチャー、それぞれの苦悩」
「――どうでした?」
「んん?」
夜。事務所を出るなり、声をかけられた。
壁に背を預け、腕を組む若い男――荒木 良治だ。
獅子山はおう、と声を上げる。
「来ていたのか。お疲れさん」
「勧誘は成功しましたか?」
「いいや。むしろ、俺は試されている。頼られてもいないし、信頼もされていないようだ」
「頼りないのは、事実ですからね。ナンバー2のわりには、リーダーとしての強さにかけます」
「全く、今どきの子は年上を尊敬しないと聞くが、本当だな。それとも、もう若いもんに任せるべきかい?」
荒木は無表情に、けれどはっきりと頷いた。
「あなたの時代は終わると思います」
「……ほう。あのぶっきらぼうなお前さんが、青宮 翼を気に入ったかい」
「少なくとも、あなたの下にいるよりは、将来に希望がもてる」
「今日は厄日だな。大人になると、怒られることは少ないはずなんだが」
「怒ってはいないです。ただ、事実を言っただけです」
「散々だな……やれやれ。こんな現状を作ったのは、謝るが。上だって色々あるんだ、勘弁してくれよ」
「ですが今こそ、重い腰を上げる時だと思いますよ。力は弱いですが、四之宮会長の後をやれるのはあなたしかいないので」
言うだけ言って、荒木は背を向けて歩き出す。
(――青宮 翼のギルドなら。あの女の言いなりでは終わらない)
その姿を見送りながら、獅子山はガリガリと頭をかいた。
「全く、好き放題言いやがって。手厳しいなぁ……そういや、あいつのことも青宮へ話すべきだったかね」
荒木が最初に所属したギルドは、獅子山のギルドであった。
しかし荒木は――たった半年で、異動した。
メンバーと摩擦があったわけでも、リーダーの獅子山と摩擦があったわけでもない。
だが……獅子山には、めぼしがついていた。
「荒木 良治。あいつは、四之宮を憎む――復讐者だ」
獅子山は経験で学んでいた。
強い復讐心のために力を求める、荒木のような人間は――危険で、不安定であることを。
「お前さんはどう思っているか知らないが。荒木を信用しない方がいいぞ、青宮」
☆
「雄太、もう止めた方が……」
夜の10時。
場所は第三階層。
足が震えはじめた乾を見て、白井がそう声をかける。
「……凛は、帰ってもいいんだよ。僕が勝手にやっていることだから」
白井は首を横に振った。
「雄太いるなら、私も残る」
「ありがとう」
乾は笑った。
「僕も男だからさ……色々と、思うところがあるんだ」
襲撃された、チンピラ共に負けたこと。
青宮に助けられたこと。
そして……アーツファイトのメンバーには、選ばれなかったこと。
もちろん。新人の荒木 良治はレベルが高いベテランだから、仕方のないことだ。
だが一連の出来事は、様々な感情を生んだ。
怖かったこと。
自分の弱さを感じたこと。
そして、なによりも。
「悔しいんだ……!」
自分は冒険者として、弱い。
そう確信した。
それに。一緒に戦っているから、わかる。
己の実力は樹よりも下だということ。
そのことが悔しい。
白井と共に、冒険者としてそれなりに頑張ってきたつもりだった。
冒険者の本能として、力を求める心もある。
だけど……そのことごとくを、打ち砕かれた。
男としてのプライドは、踏みにじられた。
「僕はザコだ。だから……」
乾は片手剣と盾を、強く握りしめる。
その手はプルプルと、震えた。
「少しでも、強くなる」
☆
第三階層。モンスター部屋にて、樹は1人レベル上げをしていた。
3体の骨が床から湧き、樹の背後に迫る。
瞬間――樹は振り返り、杖を天へかかげる。
杖の先端から、雷が迸り――3体のスケルトンランサーを一撃で撃破した。
樹の表情には、疲労がにじんでいた。
「……まだ、やれるよ」
樹がアーツファイトのメンバーとして名乗りを上げた時。
青宮の表情を見てわかった。
あれは樹が負けると思っている表情だ。
樹は青宮の力になれないことが、嫌だった。
(守られるだけなんて、嫌だ)
それに――協会のデータできちんと調べた。
たしかに今の段階では、漆黒魔竜ノ組のメンバーの方がレベルは上。
だが、今から本気になってレベル上げをすれば――追いつけない差じゃない。
青宮のように、ソロで追い込めば。
ペースを上げれば、いけるはずであった。
「絶対に、負けないから」
時刻は23時を回っている。




