表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/111

ナンバー2との会談

 朝。事務所に入ると、姫咲がタブレットを持って駆け寄ってきた。


「青宮さん。メールが……獅子山 志郎さんからです」


 現ギルドマスター“ナンバー2”と呼ばれる男。

 内容は一文だけ――『話したいことがある。そちらの事務所へ伺いたい』。


「どうしますか?」


「会おう。俺も、コンタクトをとるか考えていたところだった」


 ノルマ達成後の18時。

 青宮と姫咲は事務所で獅子山を迎えた。


「いや、すまないね、突然」


 入ってきた獅子山は、イケオジとした雰囲気の中に、どこか疲れ切った影を落としていた。

 会議で青宮を助けてくれた男だが……信頼できるかは別だ。

 姫咲がお茶を出すと、獅子山は苦笑した。


「ありがとう。美人な秘書を雇っているんだね。羨ましいよ」


「姫咲さんにはいつも助けられています。それで、ご用件は?」


 青宮が促すと、獅子山は一拍置いて口を開いた。


「端的に言うと俺の派閥に、賛同してほしいんだ」


「会議で言っていた“獅子山派”ですか」


「ああ。四之宮 涼子の横暴は今に始まったことじゃない。力を貸してくれ」


 青宮は一息入れる。


「今回の試合、解説者はあなたと聞きました。四之宮さんに反発しているなら、普通は断る仕事だと思いますが」


「……やれやれ。いきなり痛いところを突くな」


 獅子山は苦い顔でお茶を飲んだ。


「圧力だよ。四之宮 涼子に逆らえない。今回の騒動を止められなかった理由も同じだ。会議でも言ったが、獅子山派は少ない。俺の力は小さいんだ。あの時、手を挙げた何人かは”中立”派だ。君の勢いを見て、今回は戦えると踏んだのだろう」


「みんな脅されている、とかですか」


「そうだ。彼女に逆らうということは、協会内の“あらゆる人間”を敵に回すことになる。コネクションが強すぎるんだ」


 青宮は静かに息を吐いた。


(誰も止められない独裁者、か)


「報道を見る限り、四之宮さんは冒険者業界を発展させた功労者……というイメージですが」


「それが独占の始まりだ」


 獅子山は語り始めた。


「魔石はリスクが少なく、なおかつ環境を汚染しない新型エネルギーとして世界を変えた。だが、日本の魔石産業は大きな遅れをとり、国民に不満が募った。そして四之宮 涼子が当時の第〇〇〇代内閣総理大臣“泉口 文則”と組み、協会を急速に拡大させた。国は豊かになり、環境問題を解決し、泉口内閣は支持率90%。だが――発展が早すぎた」


「探索者の質も数も、追いついていなかった」


「そうだ。前任者は保守的だったが、身の丈に合った運営をしていただけだ。四之宮はそれを力技で押し広げた。もう後戻りできない。国民は一度得た豊かさを手放せないからな」


「アーツファイトも、その延長線上……と」


「売り上げ50億。ビジネスとしては成功だ。炎上商法という下品な手法だが」


 青宮はふと、ある疑問を口にした。


「ちなみにですが。四之宮派に入ると、なにか良い事があるんですか?」


「給料が弾む。彼女は気に入った人材を可愛がる。そういう性格だ」


「そんなベタベタな、ブラックあるあるまで踏破しているんですね……」


 ここまで来ると、笑ってしまいそうだ。


「それと、派閥じゃないギルドにはあらゆる手で嫌がらせをする」


「どんな?」


「まあ、今の君のような状態だ」


「なるほど」


「こういうことを何度か続けて、やがて従わせるのが手法だ。ただ、君は非常に強い人間だから、かなり過激な方法を選んでいるな」


「なるほど。ありがとうございます。派閥の話ですが……申し訳ないですが、すぐには賛同できないです」


「信頼がないか」


「そうですね。なので1つ、頼みたいことがあります。それの結果次第で、獅子山さんに協力したいです」


「……聞こう」


「今回の試合、俺は全力で挑むつもりです。アーツファイトは人気のあるコンテンツ。俗ですが、そこで注目を浴びて、名前を売りたいです」


 青宮はポケットの中にある、ボイスレコーダーを出す。


「そしてそのタイミングで、今回のギルドマスター会議のリークをしようと考えています。今リークするよりも、注目されている状態でやった方が、より世間へ広まるからです」


 四之宮の影響力は青宮の想定以上に大きかった。

 なので、青宮は世間がアーツファイトに燃え、冒険者協会が注目されている段階で、協会と四之宮にとって都合の悪いことを告発しようと考えた。


「……なるほど。録音していたのか」


「はい」


「1つ疑問がある。リークは、今でもいいのではないか? もしかすると、試合の中止にまで持っていけるかもしれないぞ」


「俺としても、樹のことを……メンバーのことを考えると、中止にもっていきたいです。ただ、長期的に考えると、四之宮会長をどうにかしないと、また同じような問題が起きる。むしろスマイル・アドベンチャーの立場が悪くなる可能性もあります。調べたのですが、リークは過去にもあった。そうですね?」


「……よく調べたな。そうだ」


「だけど、ほとんど知れ渡っていない。正攻法や、インターネットで話題になったくらいでは、四之宮会長のコネクションで、最小限のものにされてしまう。なので、アーツファイトという舞台の上でリークし、世間へ協会内部が分裂しているという炎上を広めたいんです」


 冒険者協会に限らず、大きな組織では不当な逮捕や揉み消しといった、信じられないような前例がある。

 そのパターンに当てはまるようなことが過去にあったようで、リークは”事態の調査・徹底解明にあたる”という発表を最後に、フェードアウトしている。

 逮捕された者が出ているが、おそらくはスケープゴート。

 真っ当な方法では四之宮は崩せない。

 より大胆で大きなことを起こさないと、革命には至らないのだ。


「それと、俺のメンバーには小型カメラを持つように言っています。こちら視点での襲撃映像も残っており、カメラマンの姿も映っています」


「提出した映像か……たしかにそれと合わせれば、一連の騒動のひどさを提示できる。アーツファイトを言い出したのも四之宮だったし、スマイル・アドベンチャーは参加の拒否を明言している」


「そうですね。ただ、ここまでやっても、インパクトが足りないと思っています。四之宮さんの功績は大きい。世間の不信を買うには、さらに武器がほしいと思っていました」


「俺も内部リークをする、ということか」


 青宮はこくりとうなずいた。


「そうです。獅子山さんには、魔石ショックのリークをお願いしたいです。アーツファイト終了後、俺からメディアを直接通しての抗議、そしてナンバー2の獅子山さんからのリークも重なれば、協会は大きなお家騒動になるはずです」


「……魔石ショックの隠蔽が国民に広まれば、冒険者協会の在り方も変わるかもしれない。それでも、やるのかい」


「リスクは多いと思います。が、ここまでやらないと、四之宮会長という看板へのダメージは0にされてしまうかと」


「たしかにな……さすがの彼女も、ここまでやられれば責任問題へ発展するだろう」


 ブラック企業が終わる瞬間は、大体が内部リークか隠しきれない問題を起こした時。

 冒険者協会も、似た道を歩むことになるだろう。


「俺から音声データを送ります。この作戦通りに動いてくださったら、獅子山さんを信頼します」


 降りる沈黙。

 今回の作戦を獅子山に明かしたことにより、信用できるかどうかを試している。

 そして獅子山は、首を縦にふった。


「わかった。引き受けよう」





 会談が終了し、獅子山が事務所を出た後、青宮はぬるくなったお茶を飲み干した。

 姫咲が不安げな表情を浮かべている。


「大丈夫でしょうか……」


「こんな現状になるくらいの、弱い派閥だからな。裏切る動機はなさそうだけど、日和る可能性はあると思う。解説者に抜擢されているのも、四之宮が反発勢力の獅子山を抑えていると、内部へアピールするためなんだろう」


「作戦、話してよかったんですか?」


「迷いはしたけど、獅子山さんには俺達を妨害するメリットがない。助けてくれたあの会議から、いきなり豹変して、四之宮派に寝返らない限りは作戦漏洩等のリスクはない」


 アーツファイトまで、あと2日。

 青宮はそれまで、あえて思惑に乗って――当日、ひどい試合をやるつもりだ。


「とにかく今は、目の前のやれることをやろう。力が必要だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ