忙しいのに、先輩達がサボり始める
ノルマ達成の後は、第四階層での特訓を重視しようと考えた。
青宮が参加すれば、安定して18時以降に開始できるので、レベリングは存分に行えるだろう。
この日も18時に終了し、フレイムロブスターを狩り、ブレイズクラブを狩った。
気温が高く、スリップダメージのある第四階層での狩りは極めてハードだ。
全身の疲労がいつもより高く、戦いがキツいものだと改めて感じさせる、緊張感のある階層である。
しかし元社畜、緊張感のある仕事の連発になど、慣れているものだ。
持前の社畜魂で、21時過ぎにフレイムロブスターを倒し、ワープポイントで第三階層へ戻った。
タオルで汗を拭き、ポーションで回復しながら、メッセージを確認。
『――青宮 翼のLVが21へ上がりましたHP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
(うし。上昇値も安定している。どんどん強くならないとな)
本来は第三階層ですら下振れ気味のレベルなので、サクサク上がっていく。
魔の第二階層もあって10後半以降はペースが落ちると言われているが、あまりそれを実感することはない。
ソロと格上狩りの恩恵は大きかった。
さらに魔法系統が強化され、”水魔法LV5”を習得。
水魔法の”アクアランス”を使えるようになった。
(これで第四階層、もう1つのフロアボスに挑めるかな)
次の日も18時にノルマを達成し、第四階層へ向かおうとした。
が、残念ながら前日の夜にメールが来ていたので、今日はお預けだ。
アーツファイト直前のレベル上げで忙しいというのに、トラブルの匂いであった。
メールの送り主は、新人の荒木 良治であった。
☆
18時過ぎ。姫咲、青宮の座るソファの対面に、荒木は座った。事務所の中。姫咲は3人分のお茶を出し、荒木は用件を切り出す。
「メールに書いた通りですが、パーティーメンバー5人の休憩時間があまりにも多すぎます。昼休憩をとる上に1時間につき、20分以上。それを毎時間やります」
簡単に言えば、申告されたのは先輩パーティーが“サボっている”という報告であった。
ペースが上がらず、樹達のパーティーより下回っているとは思っていたが、実態はサボりだったようだ。
「あの5人はノルマ達成が18時になるよう、休憩時間で調整しているんです」
「……なるほど」
頷く青宮に、姫咲はショックを受けたような表情を浮かべる。
「そ、そんな……青宮さん」
姫咲の反応の後、荒木がボイスレコーダーを机の上に置く。
「もしも自分の発言を疑っているのでしたら、こちらが証拠です。休憩に入る時や、休憩中のやりとりなどを録音しています」
(荒木さんも中々、あれだな。社畜の心得があるな)
録音などで証拠を確保するのは、ブラックな業界で必須の心得である。
「わかりました。確認します。ただ私としては、その言葉を信じています。即戦力の荒木さんが加入しても、ペースが変わっていないのは不思議に思っていたので」
「了解です。でしたら、失礼ながらお願いがあります」
すー、と息を吸う。
青宮はお茶を飲んだ。
なんだか、嫌な予感がする。
「……なんでしょう」
「リーダーのパーティーへ入りたいです。自分は、優秀な人と探索を進めたいです」
(なるほど。そう来たか)
正直、先輩達の気持ちは痛いほどよくわかった。
社畜時代、わずかにあった閑散期は驚くほど気が抜け、仕事に手がつかなかったものだ。
関のパワハラが解放され、青宮がリーダーとなった今、サボりがちになるのは人間として仕方のないことだろう。
それにノルマ達成を早くしたら、ノルマが上がる可能性が高い。
そう考えるとサボりはあながち、間違った行動ではない。
だが、青宮はギルドマスター。
人を率いる立場だ。
問題行動となってしまったからには、対応しないといけない。
「パーティー変更は構いません。が、まずは直接現場で、俺がパーティーを抜き打ちで見に行くなどをして、様子を見させてほしいです」
「お言葉ですが、直接言った方が早いのでは。それではやり方が遠回しで、リーダーとしての強さに乏しいかと」
(普段は大人しいけど、かなりはっきり言うな。まあそもそも、俺の方がかなり年下だし、当たり前だけど)
「まずは現場に、俺がみんなの行動を把握しているかを知ってもらいます。注意・是正はそれでも改善されなかった場合に行おうと考えています」
「……」
「この段取りでは、ご不満でしょうか」
荒木がじっと青宮を見据える。
その様子はパーティー変更をしたいというよりは、青宮の対応と態度を観察しているように見えた。
「わかりました。引き続き、今のパーティーで活動をします」
「よろしくお願いします」
面談は終わり、荒木は事務所を出た。




