メンバーを選出する
朝。気が重いが、事務所でアーツファイトを組まれたことを説明した。
ボイスレコーダーで一部やり取りも公表する。
メンバーから非難されることも、覚悟の上だ。
隣に立つ姫咲が心配そうに青宮を見つめる。
しかし説明が終わるなり、樹が一歩前へ出た。
「青宮くん。私をメンバーとして選出して」
「……なぜだ?」
正直に言うと、樹は選出しないつもりであった。
アーツファイトは公共の場で、見せ物として戦わせる場だ。
このご時世だが、やはり倫理的に考えてしまう。
樹のような女の子を、そういう場に出したくない。
樹の枠は、乾で考えていた。
しかも青宮の想定では――この枠は、敗北すると思っている。
「死神の件も、ギルドマスター昇格クエストの時も。みんな青宮くんの力で解決していった。だから今度こそ、私が青宮くんの力になりたいの」
強い申し出を受けてしまう。
「それに……青宮くんは正しいことをしたから。それを過剰防衛だなんて言いがかりは、許せない!」
考える。
沈黙が事務所内を支配した。
「樹。やっぱり、俺は他の――」
「青宮くんっ」
ずいいいっ、と顔を近づけられる。
うっ、と青宮は息が詰まる。
こうなると、強気には出られなかった。
「わ、わかった。でも、後の2人はもう決めたメンバーを発表するぞ」
青宮は隅の方に立つ、新人の荒木をちらりと見た。
「荒木さん。申し訳ないですけど、出場をお願いしたいです。可能ですか」
問いかけに、荒木はこくりとうなずいた。
「……了解した」
「助かります。最後は代表の俺が出る。メンバーはこれでいいな?」
ギルドメンバー達がうなずく。
「アーツファイトの開催は5日後だ。小競り合いはまだ続く可能性はある。みんな引き続き、単独行動を避けるようにしてくれ」
☆
「じゃあ、いってくるぜ」
「ええ。いってらっしゃい、私の悪魔」
同じくらいの時刻。
別荘の寝室から、艶めかしいバスローブ姿の四之宮が轟へしだれかかり、頬へキスをした。
轟はだらしなく頬を緩めながら、部屋を出ていく。
扉を閉じた後、四之宮はクスクスと微笑んだ。
「単純な人間ね。ただ利用されているだけなのに。そこが可愛いのだけれど」
四之宮は寝室のソファへと腰かけ、ノートパソコンを開く。
電源を入れ、動画を再生。
そこには協会が速やかな編集によって公開された、漆黒魔龍ノ組とスマイル・アドベンチャーの小競り合いが映し出されている。
タイトルは“【冒険者協会公式】危険! 街中でギルド同士のバトル!【アーツファイト】”。
草壁、越谷が乾と白井を攻撃した映像を映している。
上手く撮るだけではなく、時折カメラマンが「うわっ!?」(※棒読み)とか言って手ブレを起こすことにより、焦っている“マジっぽさ”を演出していた。
コメント欄は荒れに荒れている。
『ヤラセだろ。なんでカメラ都合よく回ってんだよ』
『今すぐこいつらまとめて逮捕しろ』
『冒険者は兵器! 兵器の所持は戦争・犯罪を生む! 戦争反対!!!』
『まーた冒険者制度廃止派が湧いているよ。今の時代、魔石なしじゃみんな生きていけないだろ……(呆れ)』
『てかこの2人は、いきなり攻撃されたってこと? ヤバくない?』
『本当、この業界終わっているな』
『四之宮会長がかわいそう。言うこと聞かないんだろうな』
『最後の斧の人かっこいい』
『わかる。強者感あるよな』
『ファンになりそう。私の好み』
『新人のギルドマスターならしい』
『どうでもいい。だってこれ、仕込みだし』
しかし四之宮としては、荒れようが好評になろうが、どうでもいいことであった。
話題になれば、それでいいのだ。
注目されれば、金になる。
アーツファイトは表向き、四之宮が関与していないことになっている。
だが、実際のところは違う。
そもそも四之宮の発案により、アーツファイトは作られたのだ。
異能バトルで金儲けをする“ビジネス”として。
「ふふふ。素敵よ、青宮 翼。私、あなたを愛しているわ」
最後の青宮の映像を見て、四之宮はうっとりと呟いた。
しかしその瞳には、どことなく狂気と気味の悪さがある。
「あなたはもっともっと、強くなれる。期待しているわよ」
☆
別荘を出た後の轟は、不機嫌であった。
朝の住宅街。
ガラの悪い風貌で、腕を振りながら歩く彼は目立ち、すれ違うサラリーマン達が彼を避けるように歩き、出来るだけ目を合わせないようにした。
(クソが。あんなヤツのどこが良いっていうんだ)
四之宮はここ最近、やたらと青宮の話をする。
轟にはなんとなく伝わっていた。
四之宮は青宮を気に入っており、期待しているのだ。
それが轟にとっては、面白くなかった。
ベッドに入る直前にも青宮の話をされた時には、思わず舌打ちが出た。
故に轟には、青宮への闘争心が燃えている。
……四之宮がわざとそういう風に仕向けていると、知らずに。
「ぜってー殺してやるよ、青宮 翼……!」




