試合を組まれる
「あのな。お前のメンバーから仕掛けてきたんだろ。映像も残ってるんだぞ」
青宮がそう言うと、轟がはっ、と鼻で笑った。
「映像を見て言ってんだろうが。ありゃどう考えても、お前の過剰防衛だ」
「は?」
「ステータスはお前の方が上なんだ。それなのにウチの森羅万象へ攻撃した。やり方が陰キャなんだよ、クズ野郎が。ケンカ売るなら直接俺へ、サシで来いやぁ」
(……? なにを言っているんだ)
もはや言っていることがメチャクチャすぎて、青宮は言葉を失った。
さらに――その後に続いた、四之宮 京子の言葉に度肝を抜かれる。
「実は協議した結果、青宮さんの過剰防衛が問題として上がっています。悪魔の言う通りですね」
「んなっ……!? なにを言っているんだよ、さっきから!」
青宮は思わず声を上げる。
映像を確保した。
明らかに向こうから仕掛けている証拠を残した。
本人の証言だけではなく、たしかな証拠だ。
しかし……それが、全く通用しない。
そしてそんな青宮の混乱をあおるかのように、カメラマンがニヤニヤ顔で会話の様子を撮影している。
ギルドマスター達は無表情だったり、退屈そうだったり……一部、呆れたような表情を浮かべている者もいる。
表情はそれぞれだが……共通して言えるのは、まるでこうなることが、わかっていたかのようだった。
(最初からこうするつもりだったのか)
襲撃も、会議も、どうでもいいのだ。
全てはアーツファイトの試合を組むための、茶番に過ぎない。
案の定、四之宮は提案を始めた。
「そこで両者、我々探索者業界らしく、実力で白黒つけるというのはどうでしょうか? 3名アーツファイトの出場者を選出し、ギルドの名誉をかけてバトルをするのです」
轟がはっ、と笑った。
「俺はそれがいいぜ。そこのガキを殺したくてしょうがなかったからよぉ」
「悪魔。アーツファイトで人殺しはダメですよ」
「そのくらいの気合でいくって話だよ。俺は今まで、ケンカで100人殺したことがあっからよぉ。殺し合いじゃビビんねぇんだよ」
轟はズボンのポケットへ手を突っ込み、オラオラと腕を振りながら青宮へ近づく。
「ほら、お前はどうなんだよ。ヤれんのか、おいこら?」
「……俺とお前の試合なら受ける。メンバーを巻き込むのはナシだ」
青宮の提案は、しかし四之宮が首を横に振る。
「なりません。3名による3試合を必ず行ってください。これでもアーツファイトで試合を組める、最低限の人数です」
「そんなもの知りませんよ。大体、こいつが殺したいのは俺なんだろ? なんでメンバーを見せ物にして巻き込まれなきゃならない」
「ギルドメンバーもあなたの力になりたいと、そう考えるはずです。これはその思いに対する、思いやりです」
「思いやり? よく言いますね。試合数が増えるから、その分だけ盛り上がって金を儲けるつもりですよね」
「青宮さん。根拠のない言い分と侮辱をする場合、私からもしかるべき処置をしますが、構いませんか?」
探索者の揉め事・犯罪行為は協会が主導だ。
四之宮を敵に回した場合、後ろ盾で対抗できる者はほとんどいない。
そうなった時に、青宮としては使えるカードがない。
だとするなら……乗せられるがままで気に入らないが、アーツファイトに挑むことになる。
実力での結果。
それがこのクソな業界の掟なのだ。
こうなることへの備えはあった。
3名の選出。つまり、2勝した方が勝ち。
漆黒魔龍ノ組のメンバーのデータは確認済みだ。
残念ながらスマイル・アドベンチャーの現メンバーでは、勝利は厳しいというのが現状。
ただ……新規に加入した、LV45の荒木 良治は別であった。
彼ならば勝機がある。
そして……青宮は自身にも、勝機があった。
「なら、俺達が勝った時に飲んでほしい条件があるのですが、それもダメですか四之宮会長」
「なんでしょうか」
漆黒魔龍ノ組へのしかるべき処分……と、言いたいところだが、それについては別の考えがあるので後回しだ。
「俺達が勝ったら、今後アーツファイトの参加はナシにしていただきたいです。俺のギルドは、客に見せ物をするために冒険者をしているわけじゃない」
「わかりました。検討をさせていただきます」
「はっきりしないですね。それとも、これも後でというやつですか」
「アーツファイトの参加は、各ギルドに課せられています。あなたのところだけ特別、というのは組織として難しいのです。なので、検討をします」
「それなら、この場でみなさんに問います。アーツファイトの参加義務に納得していますか?」
正直、苦しいところであった。
この場にいる全員が轟のように四之宮に飼われているなら、青宮の言い分は通らない。
だが……1人、中年男ことナンバー2の獅子山 志郎が首を横に振った。
「いいや。そういうわけじゃないぞ、若きギルドマスター。俺達には“四之宮派”と“獅子山派”に分かれている。俺に友好的なギルドマスターは、賛同していないだろうよ」
ギルドマスター達がざわめく。
四之宮本人の目の前で、獅子山が四之宮を支持していないと宣言したようなものだ。
「だが、すまないな。今この協会、及び業界は“四之宮派”が大多数だ。アーツファイトの参加義務は、ある種彼女からの圧力の1つとして、機能している」
「なら、その圧力を跳ね返せばいいだけですよ」
青宮はギルドマスター達へ向き直る。
四之宮がふふふ、と微笑んだ。
「でしたら、ここで多数決をとりましょう。青宮さんの勝利条件を受理するか、しないか。今、この場で。賛同者は手を挙げてくださいね。私の、目の前で」
強い圧力を感じる声であった。
「ちっ、めんどくせー話にしやがって、ビビりが」
轟が席へ戻る。
全員が座る。
手を挙げたのは……青宮と、獅子山の2人のみだ。
しかし獅子山が声を上げる。
「諸君、若き強い力が今、立ち上がってくれている。今こそ、我々も立ち上がる時じゃないか」
獅子山の言葉の後――1人、また1人と、ゆっくり手が挙がっていく。
合計、8名。
過半数を得た。
「では、勝利したら今後、“スマイル・アドベンチャー”のアーツファイト参加を不問とさせていただきます」
四之宮はしかし、余裕そうな表情だ。
むしろ満足そうだ。
動画向けに、良い感じに盛り上がったとでも、思っているのだろう。
「あなたは今手を挙げた8名の責任を背負っています。ぜひ、がんばってくださいね」
轟が青宮へ向けて、中指を立てた。
「おい、クソガキ。気合入れて来いよ」
「悪いが、お前は気合を入れるまでもない。眼中にないぞ」
「はっ、頑張ってんなぁ。その余裕がいつまで持つか、楽しみだぜ」
こうして、全国へライブ放送される異能格闘技“アーツファイト”の新たな試合が組まれた。
この試合が青宮 翼の名を大きく広げることになるのだが、この時はまだ、誰もそんなことを想像していなかった。




