ムダだらけな会議
ギルドマスター会議が行われる会場は探索者協会の会長、四之宮 京子の別荘で開かれている。
使用人が綺麗にしている庭と噴水が置かれた、広く豪勢な屋敷だ。
門の前に立つ2人の警備員にカードを見せる。
「“スマイル・アドベンチャー”代表、青宮 翼様ですね。本日はご足労いただき、ありがとうございます」
重そうな門がギギギギ、と電動で開かれた。
迎えに来た若い女性の使用人に案内され、整備された大理石の道を進む。
屋敷の扉を開けると、壮大な玄関が広がった。
輝かしいシャンデリアに、金色の獅子の置物、海外の画などが飾られている。
床にはSランクモンスターの毛皮で作られた、カーペットが広がっていた。
(セレブというよりは、成金って言葉が似合うな)
さぞテレビ出演だの、アーツファイトなどのエンタメ業、そして探索者達で稼いだ魔石で甘い蜜をすすっているのだろう。
わかっていたことだが、四ノ宮の印象はかなり悪い。
会議室である、食堂へと案内された。
(念のため、録音するか)
中へ入る前に、ポケットの中のボイスレコーダーを起動する。
すでにギルドマスター達は揃っていて――部屋に入った瞬間、殺気を感じた。
「――遅い到着だな、青宮 翼」
「っ! 下がれ!」
案内してくれた使用人を庇うように前へ出て、∞ウェポンを取り出す。
飛び出してきたのは闘争者、轟 悪魔であった。
両手で剣を持って、思いっきり振り下ろしてくる。
青宮は斧で、その剣を受け止めた。
ガキンっ!!! と、重たい金属音が会場に響く。
使用人は尻もちをついた。
「闘争者……!」
「ソロ狩りでイキってんじゃねぇよ。わからせてやるよ、ガキぃ」
が、2人の戦いを遮るように、四之宮が声を上げる。
「悪魔。下がりなさい」
「ちっ。へーい」
轟は武器を収納し、下がる。
「青宮様……ありがとうございます」
「ケガはないですか?」
「は、はいっ。本当に、ありがとうございます……」
使用人がペコリと頭を下げ、部屋を出ていく。
(物騒すぎるだろ。四之宮会長の注意も一言だけで、謝罪もなにもないしな)
ギルドマスターは揃っており、14人が集まっていた。
長テーブルを囲う、椅子にそれぞれ座っている。
青宮は∞ウェポンを解除しながら、空いている席に座った。
隅には2人のカメラマンがいて、相変わらずニヤニヤしながら撮影している。
(映像のカメラマンと同じ男……)
先ほどの映像も使うつもりなのだろう。
どこまでも探索者を見せ物にして、金儲けをする算段のようだ。
これでは展示された戦闘奴隷である。
「メンバーがそいつの飼い犬に襲われたんだ。本当なら、会議どころじゃない」
青宮が遅刻の理由を言いつつ、轟を牽制する。
轟は中指を立てた。
「送られた映像は先ほど確認しました。処罰は後ほど、決定いたします」
四之宮がそんな悠長なことを言う。
「後とは、いつですか」
ブラック業界の“後”は“やらない”と同意義だ。
青宮が詰めると、四之宮が上品な声で答える。
「後とは、今の時間より後ということです」
「……」
「今回は新人のギルドマスターを迎え、現状の魔石供給とインフラの状況、そして今後の展開についてお話するために、集まっていただきました」
手元の資料とデータを参考に、四之宮が現状の冒険者業界を報告していく。
どれもメール1つで各員目を通せば済むような、薄っぺらい話であった。
ただ、初参加の青宮としては、数字と資料で現状を見られるのは、有意義な情報収集であった。
(こんなにも、ダンジョンで獲得できるエネルギーを要求されているのか)
「現在、探索者の質低下及び人員不足により、インフラ・外交関連の輸出が要求する魔石量に対して、供給が追いつかない状況が深刻化しております。我々日本は経済・インフラ共に魔石へ頼っているのが現状。しかしその魔石供給が追いつかなくなり、社会へ大打撃が起きる“魔石ショック”まで、推定残り5年とされています。各員は引き続き、ギルドメンバーの向上に務めてください」
(こんな話、聞いたことないけどな……)
人手不足は報道されているが、魔石不足は初耳であった。
「それでは、本日の会議はここまでです。なにか意見がある方は、いらっしゃいますか?」
終わりかよ、こんなのメールでいいだろと思いつつ、青宮は手を上げた。
「あら、青宮さん。なんでしょう」
「初参加だから教えてほしいんですけど。人手不足、供給量不足の対策は具体的にどういった内容で、そして解消できる期間の見込みは立っているんですか?」
「解決方法はPRによる新人の確保と、努力による探索者の質向上です」
「……?」
「どうされましたか?」
「いや……それだけ、ですか?」
問題は現場の人間が長時間労働をするほどまでに、深刻化している。
そこに加えて、アーツファイトだの、こういうムダな会議をしているのだ。
さらに言えば、ほとんど現場に出ていない前任者、関 京也のような問題児もいるはず。
いくらでも改善案、より具体的な是正案は上げられるような気がした。
しかし四之宮は、首を縦に振る。
「はい。人員の確保と、探索者の質向上で解決します。この要求量はみなさまの力があれば、必ず乗り越えられるものでしょう」
(それが無理だからこうなっているんだろ?)
どうも四之宮 京子はこの問題を解決する気がないように思えた。
そしてこのムダな会議の意味は――すぐに、わかることとなる。
轟 悪魔が、声を上げた。
「――京子。そいつが俺の部下に手を出したから、ケジメとして殺してもいいか?」
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