フレイムロブスター
青宮の加入により、ノルマの達成は18時に実現となった。
しかしノルマの達成がゴールではない。
冒険、ダンジョン攻略こそが目的だ。
青宮は第三階層から素早く第四階層へ続くワープポイントへと移動した。
「……よし。いくぞ」
19時に第四階層へと入る。
ヒリヒリとした熱さと、赤い空が出迎えた。
そして今回の階層には2体のボスがいて、その内の1体――フレイムロブスターのいるクレーターの前へと立った。
くぼみの中央。赤い大地の上には、全長2メートルの4体のミニフレイムロブスター。名前の通り、ロブスターの見た目だ。ただしその皮膚は炎のように赤い。
その奥には、全長5メートルを超える、巨大なモンスター……フレイムロブスターがいた。
そしてクレーターを囲むように、赤い光の壁が薄く張られていた。
この壁は通り抜けることができる。
だが――この壁の内側は、入った瞬間にタイムオーバーによって発生するスリップダメージが、強制で発動するようになる。
さらにこのクレーター内では、軽い視界障害の症状まで出るという。
(厄介なギミックだよな)
第四階層はこのキツさのある、回避がほぼ不可能な仕掛けが冒険者を苦しめる。
タイムリミットといい、熱さといい、根本的な戦いの“辛さ”というものが含まれているのだ。
(まあ、キツいのには慣れている。それを楽しめるくらいだ。というわけで、突撃)
ベルセルクを発動し、青い炎をまといながらクレーターを降りた。
瞬間――体の内側から、焼かれるような痛みが襲いかかる。
まるで炎症を起こしたかのような痛さだ。
さらに視界が、視力が低下したかのように、ぼんやりとしていく。
事前知識がなかったら、突如起きる体の変化に、精神的なパニックを引き起こされそうだ。
「っ、結構、いてぇな……!」
「こぽぽぽぽぽっ!」
ミニフレイムロブスターたちが、一斉に青宮を囲む。
そして後ろにいるフレイムロブスターの頭上に、魔法陣が浮かぶ。そこへ二本のハサミを伸ばし、魔力を注入していた。
「どけっ!」
青宮が痛む体で、∞ウェポンを一閃。
ミニロブスターのハサミを弾き、反す刃で1体の根本を切断。
激しい攻防の中で、ボトボトとハサミを斬り落としていった。
しかしフレイムロブスターの魔法の詠唱は止められない。
見事な足止めであった。
フレイムロブスターの魔法陣から、炎の玉が雨のごとく、大量に解き放たれた。
ドドドドドド!!! と、凄まじい音と熱を放ちながら、その炎はクレーター全体へ降り注ぐ。
ミニロブスターを巻き込み、土を爆発させた。
「あっ、ぶねぇ!!」
ベルセルクによって加速した動きでも、圧倒的攻撃面積により回避するのはギリギリだ。
それに回避しきっても、ヒリヒリとした熱が肌を焼く。
しかもエリアギミックによって視界がぼやけるため、いつもより動きづらい。炎の玉もやや見えづらかった。
今の視界は、視力0・2ぐらいだろうか。
近くの物すら、少しブレて見える。
さらに……倒れたミニロブスターが消えると、赤い地面の亀裂がぐつぐつと泡立ち、 そこから新たな4体が這い出してきた。
いずれもハサミを伸ばし、青宮を捉えようと動き出す。
「すぐリスポーンする4体による足止め。詠唱時間があるとはいえ、フレイムロブスターに全体攻撃魔法。そしてエリアギミックによるスリップダメージ、視界障害」
このまま戦闘を長引かせても、不利になるのは明らかだ。
攻略のセオリーは、遠距離攻撃でフレイムロブスターの詠唱を妨害すること。
しかし青宮には遠距離攻撃がない。
そこで……出来るかわからないが、あることを試みた。
「上手くいくかは、わかんないけどな。視界もボヤけて、よくわからないし」
まずはいつも通り戦闘。
4体と攻防を繰り広げ、ハサミを斬り落とす。
ステータス差があり、ここは青宮が有利であった。
だが、簡単に突破できるわけではない。
そうしている間に、またしてもフレイムロブスターの詠唱が大詰めを迎える。
その瞬間であった。
青宮は一体のミニフレイムロブスターの尻尾を、左手一本でつかむ。
そして、高い攻撃力に物を言わせ――弱らせたミニフレイムロブスターそのものを、ぶん投げた。
「ごぽぽぽっ!?」
「ごぽぉ!?!?!?」
戸惑うミニフレイムロブスターが、慌てたフレイムロブスターに突っ込む。
ずどおおおおおんっ! という音と共に、2匹は地面に倒れた。
青宮はミニロブスターを置き、前へ素早くかける。
フレイムロブスターは倒れたミニロブスターを押しのけ、立ち上がる。
だが、その動きは鈍い。
フレイムロブスター本体は、それほど強くない。
協会のデータによると、ミニロブスターと変わらないくらい。
ならば――今の青宮にとって、足止めさえなくなれば問題はなくなる。
「終わりだ!!!」
ずどんっ!!! と、斧による、重い一閃が横に放たれる。
フレイムロブスターの胴体は真っ二つになり、地面へ倒れた。
すううううっ、と体は溶け、魔石を残して消えていく。
『――青宮 翼のLVが19へ上がりましたHP+85 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
「よし、レベル19か。っ、けど今は、体が痛いな。早く出よう」
魔石を回収し、クレーターを出る。
カウントダウンは始まったが、スリップダメージと視界障害から解放された。
「はあ、はあ……避けられないダメージっていうのは、嫌なもんだな」
圧倒的な疲労感を覚えながら、青宮はその場でしばらく、息を整えたのであった。




