新たな体制、新たなギルドメンバー候補
2026年05月09日にて、第一章「ほら、昨日言ってたじゃん。甘い系の香りが好きって」の冒頭に追加シーンを入れました。
ストーリーに変更はありませんが、まだ描いていない未来のシーンのチラ見せなので、もしよろしければ、軽く見ていただければと思います。
受付のほんわかお姉さんと共に、事務所の階段を上がった。
青宮を先頭に、改めて疑問を口にする。
「本当にこれで良かったのか?」
「はいっ。前々からこういうお仕事に興味があったので」
ギルドマスターの事務補佐は、協会の人員から割いてもらえることもあるらしい。
そして今回は、そのパターンが認めてもらえたということだ。
スピード感が尋常ではなく、たった3日というスパンで、今日から“スマイル・アドベンチャー”配属となる。
「それに……放っておくと、青宮さんは無茶ばかりするので」
扉の前で、むんっ、とほんわかお姉さんが胸を張った。
「す、すいません」
「だからお姉さんが、見張っちゃいますね」
ぱちん、と可愛らしくウインクをされてしまう。
青宮の心臓が高鳴った。
ほんわかしてるくせに、距離の詰め方が反則だ。
「は、入ろうか。みんないるだろうから」
扉を開けると、全員が黒革のソファに腰掛けていた。
関の時代のように社訓を読み上げる儀式もなく、空気はどこか明るい。
上座の机の前に立ち、受付のほんわかお姉さん――姫咲 桜を紹介する。
「協会から、今日づけで配属になった姫咲 桜さんだ」
「よろしくお願いします~」
黒髪セミロングの美女が事務員として新入り。
先輩達のパーティーリーダーが、デレデレと笑みを浮かべた。
「めっちゃ美人! よろしくお願いします!」
「ふふふ、ありがとうございます」
ギルドマスターが変わったことで、先輩達は生き返ったように明るい。
ただし残業は容赦なく、昨日は22時までだったらしい。
関のノルマをコントロールできないという言葉は、本当だった。
そして現在、現場からは青宮が離れている状態。
彼の復帰は、ギルド全体の課題でもあった。
「これで今日から俺が現場へ復帰……と、言いたいところなんだが。なんか、ギルドを異動する人間がいるらしくてな。ここが異動先として候補に挙がっているから、面接をしてからみんなと合流する」
「すっかり大忙しだね、青宮くん」
乾の言葉に、青宮は肩すくめた。
「早いとこ、ダンジョンへ行きたいんだけどな……ああ、それと。みんなにこれを受け取ってほしい」
青宮は各員へ、隠しカメラと呼ばれるような小型のカメラを渡した。
ギルドの予算で購入したものだ。
1つ1万円以内で買えるものである。
「どうしてこんなものを?」
乾が聞くと、青宮は答えた。
「トラブルが起きた時の、記録用だ。ウチのギルドでは小型カメラを常備することを義務付ける。ダンジョン内ではなく、常備だ」
「プライベートも、ってこと?」
白井は怪訝そうに尋ねてくる。
だが、青宮は頷いた。
「そうだ。ステータス持ちはアイテムボックスもあるし、常に映像を記録できるような体制にしてくれ」
「随分と、穏やかじゃないね。おおげさじゃないかい?」
乾が遠回しに心配性じゃないかと言うも、青宮はそう思わなかった。
「一般社会なら即追放の男が“上”に立てる業界だ。冒険者を続けるなら、トラブルは起きる前提で動くべきだ。証拠があるかどうかで、人生が変わることもある。俺はギルドマスターとして、メンバーを守るために常備を推薦する」
「そこまで言うなら、わかったよ」
乾もメンバーも、納得したように小型カメラをポケットに入れたり、アイテムボックスへ収納した。
そうして今日のスケジュールを確認して、解散となる。
ただ、出る前に樹がちらりとこちらを振り向いた。
「待っているからね、青宮くん」
「ん? ああ。早く行けるようにするよ」
樹と姫咲がじ~~~~~っと見つめ合う。
(むぅ。優しそうで美人なお姉さん……青宮くん、こういうのが好きなの?)
(事件の時も、一緒にいた女の子……仲、良いのかな。でも、私だって)
「これからよろしくお願いします、姫咲さん」
「こちらこそ、樹さん」
ジリジリジリジリジリ。
空気が、わずかに熱を帯びるかのようだ。
姫咲はにこやかに微笑んでいるのに、どこか譲る気のない芯が見える。
樹もまた、柔らかい声とは裏腹に、意志の強い視線を向けていた。
(な、なんだこの空気は。どうしたらいいんだ。てか、奥の方で乾がニヤニヤしているの腹立つな。助けてくれよ!)
絶対に錯覚だが、胸ポケットにある2つのお守りが燃えるかのように熱い。
「……行ってくる」
樹は短く告げ、みんなと共に事務所を出た。




